第18話 自己紹介は拳でってやつ?

 王立セイルランド学園。国内でも数少ない教育機関の一つであり、モットーは文武両道だ。

 元々は戦争での徴兵に当たって兵隊の強化のために設立されたもので、知識だけでなく力も身に着けることを目的としていた。

 とは言っても当時は誰でも入学できたから、教育の質はお察しだったようだ。


 それが戦後になって大幅な改革があり、一新された教育体制の下で多くの優秀な人間を生み出すことになる。

 表向きには戦後の国の立て直しと発表されてるけど、その裏にはバルフォント家が関わっていた。

 優秀な人間が生まれるということはバルフォント家、特にレオルグの意思に反するところだけど国が滅びては元も子もない。


 つまり適度に優秀な人間がいてもらわないとバルフォント家としても困るわけだ。

 そこでオレがこの学園に送られた。

 バルフォント家の人間が学園で何を学ぶのかという話ではある。


 オレが学園に入学した目的は国に必要がない異分子の排除だ。

 入学式が終わってオレは一年生のメンバーを改めて眺めた。

 新入生のリストは予めバルフォント家で入手したものを貰って目を通している。


 結果としては上位数人の上澄み以外は小粒といったところだ。

 入学試験の成績を見る限り、貴族階級は及第点だが平民は見るも無残だった。

 ゲームだとメインキャラ以外はモブとして描写されていたからわからなかったな。


 まぁ成績は異分子の基準じゃない。

 それだけで排除するなら単に入学試験の結果だけ見て足切りするだけで終わる。

 入学式を終えて、オレ達一年生はそれぞれの教室へと移動した。


「私がAクラスの担任のリンリンだ。教師になる前は宮廷魔術師をやっていた。よろしく頼む」


 担任教師のリンリン。28歳の女性で独身、恋人はいない。

 真面目でいい教師だが、前時代的なスパルタ教育を行うことがあるのが欠点だ。

 元宮廷魔術師の肩書きは伊達じゃなくて実力はかなり高い。

 ちなみに名前をいじるとキレるので注意だ。


「私が宮廷魔術師をやめて教師に転向したのは、教育課程における人材育成に疑問を持ったからだ。私が宮廷魔術師をやっていた時に何度も魔術師として不適格な人間を何人も見てきた」


 こんな感じで肩を張りすぎているところもあるし大体話が長いけど悪い人間じゃない。

 一人で延々と喋っているのを眺めているとリンリンはようやくハッとした。


「コホン……すまない。少し話が長くなったな。晴れて君達は一年生となれたわけだ。最初に何をするかだが……そうだな。自己紹介といこうか」


 自己紹介と聞いてクラスメイトが安堵した。

 こんな教師だから何をやらされるのか不安だったみたいだな。

 ところがそうは問屋は下ろさない。


「では今から第三訓練場に行こう」

「く、訓練場ですか?」

「君はレティシア姫だな。王族だろうが、ここでは全員に平等に接することになっているのでそのつもりでいてほしい」

「はい、それはいいのですが自己紹介でなぜ訓練場に?」


 リンリンは説明することなくオレ達を第三訓練場へ案内した。

 この学園の敷地はおそろしく広い。

 第一から第二十まである訓練場の一つに集められたオレ達はどうやら戦わされるようだ。


「形式上の自己紹介など時間の無駄だ。人間の質は戦いにこそ表れる。というわけで今から君達に戦ってもらう」

「た、戦いですか!? いきなりすぎます!」

「レティシア、ここをどこだと思っている? 文武両道の王立セイルランド学園だぞ。お勉強だけして卒業できるようなところではない」

「それにしてもいきなり生徒同士で戦えだなんて……」


 レティシアだけじゃない。

 クラス全員がどよめいて、この担任は大丈夫なのかという雰囲気だ。


「この訓練場にはセーフティフィールドという特殊な結界が張られている。致命傷を受ける直前、強制的に外へ脱出させてくれるから安心しろ」

「では武器も真剣を……」

「そうだ。戦う組み合わせは私が決める。まずはレティシアとリリーシャ、フィールドに移動しろ」

「わ、私ですかぁ!?」


 訳が分からないといった様子でレティシアはフィールドに向かう。

 対するリリーシャはきつい表情でさも当然かのように杖を持って立っていた。

 ゲームではここで分岐して、片方のルートではオレとレティシアが戦う。


 主人公レティシアVSアルフィスはいわゆる負けバトルだ。

 負けたレティシアをアルフィスがクソミソに煽り散らかすんだったな。

 ここで因縁が芽生えるんだが、今はレティシアVSリリーシャルートか。


「リリーシャさん、いつぞやのパーティではありが……」

「レティシア王女……いえ、レティシア。行くわよ」


 レティシアが言い終える前にリリーシャが火球を放った。

 リリーシャの得意武器は杖、得意属性は炎だ。

 単純な火力だけなら全キャラトップクラスだったな。


「いきなりッ!?」


 レティシアが回避したところでリリーシャは間髪入れずに二発目の火球を放つ。

 完全に出鼻をくじかれたレティシアは反撃に出ることができず、火球をまともに受けてしまった。


「うぅっ!」

「その程度? こないのなら再びこちらから反撃させてもらうわ」

「ま、待っ……」

「ファイアショット」


 無数の小さな火球がバルカンのごとく放たれてレティシアは全身で受けてしまう。

 体中が焼けて見るも痛々しい姿になってしまった。

 セーフティフィールドが強制退去させないということは、レティシアはあれに耐えているのか。


「リ、リリーシャ……」

「情けない。王族という恵まれた立場にいながら、その程度の力しかつけていないのね」

「なんて失礼な……! リリーシャ、撤回しなさい!」

「まだ王族の気分が抜けないの? ここは文武両道、そして身分平等のセインランド学園よ」


 それからもリリーシャは徹底してレティシアを追い込んだ。

 すでに先制攻撃で痛めつけられたレティシアにできることは少ない。

 それなりに応戦したがついに止めの一撃を受けて強制退去させられてしまう。


「はぁ……はぁ……」

「レティシア、ご苦労だった。リリーシャ共に君達がどういう人間か大体理解したよ」

「リンリン先生……私……」


 リリーシャがセーフティフィールドから出てきて膝をついているレティシアを見下ろした。


「レティシア、気分はどう?」

「リリーシャ……」

「その程度の実力で数年前のパーティではよくも『私があなた達を導きます』なんて言えたものね」

「あ、それは……」

「王族だから無条件で導けるとでも? あなたみたいな甘ったれた人間は恵まれた地位でぬくぬくと玉座を温めていればいい。泥臭いことは全部私達がやるわ」


 あまりのきつさに他のクラスメイト達は黙り込んでいた。

 リリーシャなぁ。確かに印象悪いよな。

 前世でもそこそこのアンチを生み出したキャラだった。

 でもこういう奴なんだ。


「うっ、うっ……」

「あら、泣いて同情でも引こうと? つくづく情けない。これに懲りたらお姫様はおとなしく素敵な王子様と結婚することだけを考えてなさい」


 あまりに凄惨なシーンにさすがのクラスメイト達も憤り始める。

 見かねたリンリンが止めようとするが、その前にオレがリリーシャに近づいた。


「よう、二大貴族パーシファム家のお嬢様」

「……なに?」

「いや、違ったか。二番手貴族のパーシファム家だった。すまない」

「……いい根性ね」


 リリーシャが鋭くオレを睨みつけた。おぉ怖い怖い。

 このイベントはなかなか胸糞だったからな。介入できて嬉しいよ。


「次はオレと戦ってくれよ」


 オレが笑みを浮かべてそう告げると、リリーシャの全身から魔力がかすかに放たれる。

 望むところってか。この高慢ちきな勘違い女をオレの手でボコボコにしてやろう。

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