第17話 学園入学、ゲーム本編スタート
私、しがないド平民のエスティはかつてないほど緊張しています。
今日はいよいよ王立学園の入学式、ここは平民から貴族まで様々な人達が集まります。
そんなところに平民風情の私が入学するんだから、門をくぐるだけで心臓が高鳴りました。
門を抜けると厳かな雰囲気の建物が並木によって称えられているように見えます。
制服を来た多くの新入生が建物に向かって歩いてきました。
気圧されないよう歩いていると後ろからどよめきが聞こえてきます。
「おい、見ろよ。護衛つきで来た子がいるぞ……」
「あれはパーシファム家のご令嬢じゃないか?」
「二大貴族の!? やべぇ、道を開けないと!」
生徒達がさっと左右に散ったところで、護衛をつれたパーシファム家のご令嬢がやってきました。
紅の髪をなびかせて優雅に歩く様はあまりに美しく、思わず見とれしまいます。
平民の私から見れば貴族なんてこんな機会でもなければお目にかかることがありません。
同じ人間のはずなのにどこか違う雰囲気を感じられました。
うまく言えないですが得体の知れない圧のようなものを感じます。
気のせいと思いたいけど、こうして距離を置いているだけでも近寄り難い何かがありました。
「送り迎えはここまでで結構よ」
「しかしリリーシャお嬢様、お父様から教室までお送りしろとの言いつけでして……」
「過保護な大人に付きまとわれる私の身にもなってくれる? お父様には私から言っておくわ」
「しかし……」
護衛の男性が何かを言う前にリリーシャ様の片手から火が迸っています。
その一瞬の魔力を感じただけで私は鳥肌が立ってしまいました。
他の生徒もまるで我が身に危険が迫ったかのように驚きの声を上げて後ずさっています。
「二度も同じことを言わせないで。帰って」
「か、かしこまりました」
護衛の男性はそそくさと校門の外へ出て行ってしまいました。
リリーシャ様はフンと鼻を鳴らして歩き出します。
パーシファム家。バルフォント家と並ぶ王国の二大貴族です。
卓越した魔力と技術をもってこれまで国防や国民に貢献してこられました。
騎士団が扱う魔法武器の開発、火を起こす魔道具や室内を温めたり冷やす魔道具に至るまで幅広いです。
私達の生活に関わっている魔道具のほとんどは代々パーシファム家の技術によって開発されました。
他にも王国魔術師団アークは隣国との戦争の際に圧倒的な力を誇示したと言われています。
魔力や魔法の才能、容姿、すべてにおいて私達とは格が違うのです。
(はぁ~~~、もう心臓に悪いなぁ)
「おい、あれって……」
「王女様、か?」
安心したのも束の間、金髪の前髪を切り揃えた気品ある少女が来ました。
その姿を視界に入れた途端、なんだか心地よい気分になります。
リリーシャ様と同じく近寄り難い雰囲気はあるものの、言い知れぬ抱擁感を感じられました。
(ふえぇぇ~~……見ただけでわかるよ。あれがこの国の王女様かぁ)
私達みたいな平民がその姿を見ることなんてほとんどありません。
たぶん騒いでいるのは貴族階級の子達です。
王女様はリリーシャ様と違って皆に微笑みかけていました。
「クソッ、なんて美しいんだ……」
「なぁ、王女様って婚約者いるのかな?」
「そりゃいるだろ。王族なんだからとっくに決まってるんじゃないか?」
「そうかぁ。俺じゃダメかー」
登場しただけで男子達を虜にしてしまうとはすごいです。
女の子の私から見ても羨ましい美貌ですし、あれでいて剣術の腕はかなり高いと聞いています。
ド平民の私じゃ地位も容姿も何もかも敵う要素がありません。
王女様と同じ場所で三年間も学べるのです。
それだけでも学園に入学した甲斐がありました。
「お、王女様! これから三年間、よろしくお願いします!」
「ご機嫌麗しゅう! 俺、デイルと言います!」
王女様の周囲にたくさんの男子生徒が集まっています。
さすがの人気です。もう新入生全員がプロポーズするんじゃないかとさえ思えます。
あのくらいの意欲がないとこの学園じゃ生き残れないのかなぁ。私には無理か。
ふと見るとさっきのリリーシャ様が遠くから見ています。
まだ先に行ってなかったみたいです。
「おい、どいてくれないか」
「どけどけー! アルフィス様のお通りだぞぉ!」
人だかりの向こうに誰かが立っています。
その途端、王女様に群がっていた男子生徒達が振り向きます。
「なんだ、お前?」
「道の真ん中だぞ。邪魔になっている」
現れたのは綺麗な黒髪が目立つ男の子です。
一緒にいるクリーム色の髪の子は同じ新入生かな?
男の子のほうはどこか冷たい印象を受けます。
それに見ていると体の内側から崩されそうな感覚に陥る気がします。
あのリリーシャ様も怖かったですが、このアルフィスという男の子はあまりに異質です。
とにかく関わらないほうがいいと感じます。
「偉そうだな。お前、こちらの王女様が見えないのか?」
「だったら何だ? 道を塞いでいいとでも?」
まずい! このままじゃケンカになる!
あのアルフィスという男の子もそんなに煽らなくても!
「俺を誰だと思っている。どこの生まれだ? 家名を言え。俺は伯爵の爵位を持つブルックス家のデイルだぞ」
「だから何だ。どける気がないなら、オレがどかしてやろうか?」
アルフィスさんがデイルさんに片手を向けます。
何をする気でしょうか?
「アルフィス様!」
と思ったら、王女様が名乗った男の子を押しのけてアルフィスのところへ駆けました。
え、なに? 知り合い?
「レティシア、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「アルフィス様こそ、より素敵になられて……ずっとお会いしたかった」
あ、あの王女様が頬を赤らめている!
あのアルフィスさんは何者!?
私がこんな反応になるんだから、他の男子生徒達なんて――
「あいつ、何者だよ……なんでレティシア様と親しそうなんだ?」
「ということはどこかの貴族か?」
「クソッ! 羨ましすぎて頭がどうにかなりそうだ!」
と、こんな風に騒然としています。
阿鼻叫喚の男子達とは別世界にいるかのようなアルフィスさんと王女様。
この対比を見て、私はこの学園を無事に卒業できるのか不安です。
どうか何も起こりませんように。
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