第14話 おや、お姫様の様子が……?

「怪我はないか?」


 こんなところに主人公がいるのはさすがに予想外だった。

 ゲーム開始時からすでにやんちゃなお姫様だったけど、まさか城を抜け出してこんなところにいるとはね。

 予想外過ぎてどう対応したらいいものか困るな。


「あ、あなたがバルフォント家の……?」

「オレのことよりお前のことだ。なんでこんなところにいる?」

「それは……この国の平和が本当に真実なのか確かめたくて……」

「なんじゃそりゃ」


 なんておどけて見せたけど、この年齢ですでにこの国がバルフォント家に操られているって気づいてるのか?

 そこまでじゃなくても、どこか違和感は感じているんだろうな。

 それで外をウロウロしていたらベランナの取引現場に遭遇したというわけか。


 今はこんなんだけど将来は大勢の人間を引き連れて一大勢力を築き上げるからな。

 今は正義感が空回りしているけどそのうち大切なものに気づく。

 レティシアは主人公らしく様々な困難に直面して身も心も強くなっていく。

 オレは密かにそんな姿を見たいとも思っている。


 だけどそうなるとオレの死亡フラグが立つんだよな。

 これは本当に悩みどころだ。

 なんとかうまい感じにいい落としどころがないものか。


「でも平和を確かめるどころじゃないだろ。今のお前は弱い」

「なっ! し、失礼ですね! 私だって!」

「早く帰ったほうがいい。城まで送るぞ」

「わ、私を城に!? なぜそれを?」

「そんな身なりをした人間が平民なわけないだろう」


 めちゃくちゃ苦しい言い訳をしたけどごまかせたよな?

 バルフォント家は父親と母親以外、ほとんど王族や貴族との接点がない。

 まず当主のレオルグが基本的にバルフォント家の家族構成をあまり明かさないようにしている。


 知られていいことはあまりないからな。

 確かにそのほうが仕事をしやすい。


「アルフィス様、本当に送るんですか?」

「ここで王族に死なれるのはよくない。他に仲間が潜んでいるかもしれないから、お前は周囲を警戒してくれ」

「はぁい」


 ルーシェルが空から監視しつつ、オレは王女を城まで送ることにした。

 レティシアは終始黙ったままだ。

 たぶん自分が置かれている状況とプライドが交差して、うまく感情を表現できないんだろう。

 オレは一言も話さず、夜の王都をトボトボと歩く。

 そんな静寂を破ったのは魔剣の魔人だ。


「アルフィスよ、あんな小物を斬った程度で満足していまいな?」

「するわけないだろ。ザコとは言わないけど、あれじゃオレとしても物足りない」


 魔神の登場にレティシアは空いた口が塞がらない様子だ。

 一夜でいろんな経験をしすぎて少し気の毒だな。

 まぁ主人公ならこのくらい乗り越えてくれ。


「な、なんですかそれ!」

「それとは失礼な小娘じゃな。このディスバレイドに宿る魔神ヒヨリを知らんとはのう」

「ま、まままま、魔神!? まさか古のエルディア帝国の皇帝が従えていたという……いえ、そんなはずは……」

「そんな時代もあったのう」


 お姫様がめっちゃびびってるじゃん。

 魔神なのに名前が日本人っぽいのはたぶん開発スタッフの趣味だ。深い意味はない。


「魔剣ディスバレイド……バルフォント家がそんなものを所有しているなんて……。他の方々もそのような古代の異物を?」

「家族のことを喋るつもりはない」

「バルフォント家……謎に包まれてはいましたが……やはり……」

「止めて見せるか?」


 オレがそう呟くとレティシアは絶句した。

 図星だったみたいだな。


「バルフォント家は実質この国を支配していると言っていい。お前もその目で国内における腐敗した部分を見続けただろう」

「それは……。ではあなたも支配に加担しているということですか?」

「今はな」

「今は?」


 オレはレティシアの正面に回り込んだ。

 身構えたレティシアの前で魔剣を天に掲げて、真っ直ぐ見つめる。


「オレはいずれ家族を超える。そのためには手段を選ばない。これが自分の正義だからだ」


 そう、オレの最終目標を考えるなら家族なんてしょせんは通過点だ。

 あいつらはストーリー攻略中のボスでしかない。

 だけどそんな家族でもこの国ではトップクラスの実力者だ。


 これがオレの正直な考えであり、レティシアに伝えるべきことだと思っている。

 オレは死にたくない。死にたくないけど、だからといってレティシアに見逃してもらうように動くつもりはない。

 オレが強くなり続けるなら、レティシアだっていずれ立ちはだかる壁になるかもしれないからな。


 主人公としてレティシアには強くあり続けてもらいたい。

 オレはオレで強くあり続ける。


「お前も自分の正義を信じろ。もしお前の正義がオレの正義と反するなら、その時は遠慮なく相手をしてやる」


 レティシアは何かを考え込んでいる様子だ。

 それは城の近くに着くまで続く。

 あまり近づきすぎると門番に見つかるので離れた位置でレティシアと別れることにした。


「ではここまでだな」

「あのっ!」


 レティシアがついに口を開く。


「送っていただいて、いえ。助けていただいてありがとうございました」

「今日のことは悔やむだろうが決して腐るな。お前は確かに負けたが、今日の負けは明日の勝利だ。お前はそうやって強くなっていく」

「は、はいっ!」


 素直に返事をされてしまったな。

 性格的に反発してくるかと思ったんだが。


「今日のことは絶対に忘れません! ではアルフィス様、さようなら!」


 顔を赤らめながらレティシアがオレに手を振って別れを告げた。

 アルフィス様? そんな様付けして呼ぶようなキャラじゃなかった気がするけど。

 まだゲーム開始すらしていない段階だし、そういうこともあるか。

 ここでようやくルーシェルが地上に降りてきた。


「ルーシェル、ご苦労だった」

「あいつ、なかなか見所あるんじゃないですか?」

「今はまだケツが青いがな」


 言い合いにならないで済んだのはありがたい。

 何せオレにはまだやるべきことが残っているんだからな。

 というわけでオレはデマセーカ家の方角へと歩き始めた。

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