第11話 これが初任務か、これが……?

 オレ達は夜の王都を歩いている。

 賑やかな繁華街を進むと程なくして見えてくるのがバー『フラッシュナイト』だ。

 このバーは一見してまともな営業をしているように見えるが、実は密かに違法薬物の売買が行われている。


 ゲームではすでに別の店に変わっていたけど、ここで違法薬物の売買が行われていたとNPCから聞けるのだ。

 レオルグはオレに情報収集込みの任務を与えたんだろうけど何のことはない。

 ゲーム知識があれば大体のことはわかる。


 ゲーム中だと、ふーん程度の情報だったけどまさかこんな形で活きるとは思わなかった。

 今、オレ達は目立たないようにフードを被って歩いている。

 こんな夜に子ども二人が歩いているのは不自然だからな。


「あのー、アルフィス様。この格好は逆に目立つのでは?」

「そんなことはないぞ。よく見ろ、あそこもここも派手な格好をした奴らばかりだろう。オレ達が混ざったところで問題はない」

「なるほど! さすがアルフィス様!」


 そう、フードを被らないとまるっきり子どもなのでそれはまずい。

 ところがフードをかぶることによって変な奴その1とその2になることができるわけだ。

 我ながら完璧な作戦――


「へい! そこのチビっ子ちゃん達!」


 ん、なんか話しかけられてないか?

 気のせいだ。チビなんてそこら中にいる。と思ったら肩を掴まれたんだが?

 酒臭い息をかけられている。


「いけないなぁ、子どもがこんな時間に出歩いちゃ……ぐふぁっ!」

「行くぞ」

 

 みぞおちに一撃を入れてやるとよほど疲れていたのか、眠りに落ちた。

 こんなところで寝たら風邪を引くだろうが知ったことじゃない。


「アルフィス様、今のは何だったんですか?」

「夜の町はああいうのが多い。気を引き締めろ」

「はいっ!」


 よし、ルーシェルの突っ込みはないな。

 つまりオレの作戦は完全に成功したということだ。

 気を取り直して進むとフラッシュナイトがようやく見えてきた。

 目立たない看板の横にちょこんとした入り口がある。


 ここでは何もやってないよ、スルーしてくれと言わんばかりだな。

 正面から入るのもよくないのでオレ達は裏口に回った。

 裏に回ると一気に裏路地感が出てくるな。


 汚らしくて人気のない道にはゴミが山積みになっていて異臭が凄まじい。

 煌びやかな繁華街の裏側って感じだ。

 表を綺麗に取り繕って、裏じゃこの有様か。


「アルフィス様、入らないんですか?」

「それより出てくる奴を捕まえたほうがいい。お、きたぞ」


 あくびをかきながら出てきた中年がハマキに火をつけている。

 オレはそいつの後ろから剣を突きつけた。


「喋るな、声を出したら殺す」

「……ッ!」


 物分かりが良いようで男は声を出さずに両手を上げた。

 そのまま壁に手をつかせて背中をこちらに向けてもらう。


「ここで違法薬物の取り引きが行われているようだな。薬の隠し場所を教えろ」

「し、知らない、本当だ……ぎゃあッ!」


 男の足を踏んでグリグリと押した。

 今のオレの力ならこの男の足を砕くくらい訳ない。

 男もそれを察したのか、両手をより高く上げて降参の意思を示していた。


「喋らないならお前を殺して勝手に探せばいいだけだ。だが喋ってもらえたほうが手間が省けるのだがな」

「酒が、ある倉庫の……床下……」

「よし、案内しろ」


 男に剣を向けたまま歩かせて裏口から中に入った。

 酒の倉庫に着くと男は床を指す。


「開けろ」


 男が床を親指で押すと回転扉みたいに開いた。

 そこには大量の瓶詰の薬物が敷き詰められて保管されている。

 これが話に聞いていた違法薬物「ベランナ」だ。


 その昔、ベライナという魔女が製作した薬らしくて飲むと魔力を活性化させて身体能力を飛躍的に上昇させる。

 魔力強化した状態と同じになり、おそろしく気分が高揚するらしい。

 ただし魔力の操作に慣れていない一般人が使用すれば体がもたない。

 急激に魔力が増えたせいで魔力爆発(マナバーン)状態となり、命を落とすこともある。


「思ったよりも多いな。よし、マスターを呼べ」

「え、なんで……」

「いいから呼べ」


 男の背中に剣を向けたまま歩かせて、マスターを呼ばせた。

 何も知らないマスターがやってきてオレ達の存在に驚く。


「な、なんだこのガキどもは!」

「お前がマスターか。背後にいるのはデマセーカ家か?」

「まさかこんなガキにここを嗅ぎつけられるとはな……」


 マスターは渋い顔をしながらも、まだ余裕そうだ。

 オレ達がガキだからだろう。


「マ、マスター! 逃げましょう! このガキ、なんかやばいっす!」

「バカが。俺達、裏世界の人間がこんなガキに舐められたままケツまくれるかよ。逃げるならお前もここで殺す」


 そう言い終えたマスターが突撃してきた。

 ナイフを片手に持って巧みに操るが、あまりに雑な動きだ。

 その手を蹴り上げると持っていたナイフを落としてしまった。


「くっ……! この、このガキめが!」

「鍛錬が足りてないな。そのナイフは本当に得意武器か?」

「こいつただのガキじゃないな……ならば仕方ない」


 マスターは懐からビンを取り出してから蓋を開けてベランナを飲んだ。

 マスターの筋肉が爆発したように膨れ上がり、服が千切れ飛んだ。

 元の体の二倍以上になったマスターは涎を垂らしながら、指をわきわきとさせている。


「これこれ! 効くぜぇ! おい、お前も飲め!」

「は、はい!」


 オレが脅した手下もベランナを飲んで体の体積が増えた。

 こうして二人の筋肉ダルマが誕生してしまった。


「うへぇ、きっも……」

「浅ましいな。一時的な強さに何の意味がある。まぁもっとも……」


 オレはそれぞれ二人の腕と足を斬った。

 手足が闇に包まれて消えた後、残った体が地面に倒れる。


「これは強さの定義から大きく外れているがな」

「あ、あぁ、れ、なんで、なんでぇ! あっ、あ、助けて、助けてください!」

「では他の取引場所を教えろ。そうすれば命だけは助けてやる」

「お、王都の西三番街、デマセーカ倉庫前……深夜……」


 デマセーカ倉庫前といえば、デマセーカ家が経営している商会の敷地内か。

 思ったよりわかりやすくて助かる。


「よし、わかった」

「では助け……」

「よし、殺さず命だけは助けてやった。では今から死ね」

「へ……?」


 何も一生殺さずに生かしてやるなどと一言も言ってない。

 残った体に対して魔剣で斬ると二人の体が完全に闇に飲まれた。

 闇に葬られたものがどこにいくのか、オレにもわからない。

 この場に残ったのは違法薬物のみだ。

 殺害の痕跡など一切残っていない。


「ふむ、この魔剣は思ったより便利だな。ゴミ掃除にちょうどいい」

「えらい言われようだのう」


 魔剣から出てきたのは魔神だ。

 不意に出てこられるのは少し困るな。


「いや、出てこなくていいんだが?」

「こんな小物ばかり斬っていないでもっと大物を狙ってほしいものじゃ」


 もっともな話ではある。

 だけどオレだってこんなチンピラと大して変わらない連中など好き好んで斬っていない。

 魔神はおおあくびをして、いかにもといったように退屈をアピールした。

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