第3話 クソ兄と決闘

 決闘はバルフォント家の屋敷の地下にある訓練場でやることになった。

 この地下は地中深くにあって、多少の衝撃にも耐えられる作りになっている。

 つまりどんなに泣きさけぼうと誰も助けてくれないと陳腐な脅しをかけてきたギリウムのドヤ顔が面白かった。


「アルフィス様がギリウム様と決闘だなんて……」

「失礼だがアルフィス様に勝ち目があるとはとても思えない」

「訓練をしている様子もなかったからなぁ」


 この話は屋敷中を駆け巡り、両親や兄弟達だけじゃなくて使用人すらやってくる。

 好き勝手に言ってくれているけど、これは原作通りだと言っていい。

 アルフィスは主人公達の前では大物ぶっていたけど、実際は兄達に屈していた。

 どんなに訓練をしても歯が立たず、落ちこぼれ扱いされていたんだからな。

 

 その原因は他の兄弟にまじって地下で訓練をしていたせいだろう。

 実力差があまりにかけ離れた相手にボコられ続けるだけで、そこには何の成長もない。

 それに加えてアルフィスには知識がなかった。

 それがどういうことか? 今から証明する必要がある。


「アルフィス、恥をかく心構えはできたかぁ? ケッケッケッ!」

「ギリウム兄さんはちゃんと用意したか? 回復アイテムのセットをさ。今回ばかりは使役している魔物は助けてくれないぞ?」

「てめぇ相手にそんなもんいるかよ! このクソカスがよッ!」


 本当にこのギリウムは沸点が低い。

 プライドが異常に高くて常に弱いものを見下している。

 それにこれは煽りじゃなくてアドバイスでもあったんだけどな。


 ギリウムのスキルは攻撃一辺倒で防御系のものがまったくない。

 回復魔法の類も使えないから、他の兄弟よりあっさり倒されてしまっていた。

 要するに使役している魔物ありきの強さなのがこのギリウムだ。


「アルフィスにギリウム、この決闘で取り交わした契約は覚えているだろうな」

「はい、父さん。オレが勝てばルーシェルはオレと契約をする。そしてギリウム兄さんには自分が汚した使用人の服を洗濯してもらう」

「おう、俺が勝ってアルフィスは奴隷だ。結果は決まり切っているんだから確認するまでもねぇ」


 放任主義とはいえ、レオルグはしっかりと決闘を取り持ってくれるようだ。

 当主として揉め事は容認できないということか。

 とはいえ、オレがギリウムに嫌がらせをされたことを告げ口してもむしろ怒られるだろう。

 そういう貧弱な人間をレオルグはもっとも嫌う。

 なぜならそんな奴は自分の手駒としても使えないと考えているからな。


「では使用する武器は木製の剣、どちらかが参ったといえば勝負は終わりだ。互いに死力を尽くせ」


 レオルグがそう宣言すると、オレとギリウム達は武器を構えた。

 7歳のオレが10歳のギリウムに挑むのは普通に考えて無謀としか言いようがない。

 普通に考えればな。


「ケケケッ、愚弟よ。こいつを見ろ。これが何だかわかるか?」

「魔力か?」

「あ? そ、そうだ。お前にはとても真似できないだろぉ?」

「いや、別に……こうか?」


 ギリウムが木剣に魔力を込めてご満悦のところだが、オレも同じことをしてみせた。

 余裕の態度を見せていたギリウムの表情が強張る。


「なっ! て、てめぇ魔力を!?」

「7歳のオレだからできないとでも思ったか? 舐めるなよ。それどころかオレはお前の先を行っている。こんな風にな」


 オレは魔力を闇属性に変換した。

 黒い木剣から迸るのは闇の魔力だ。

 武器や魔法、それぞれキャラによって得意なものがある。


 プリンセスソードではそれを見つけるのも楽しみの一つだ。

 もっともオレの攻略WIKIなんかで一瞬で暴かれてしまったわけだが。

 不得意な武器や魔法を使用すれば当然だけど成長率は低くなる。


 それどころか実力が頭打ちになって育成失敗だ。

 アルフィスの得意魔法属性は闇、武器は剣。オレはこれを生まれた時から知っていた。

 それに対してギリウムはまだそれを見つけられていないみたいだな。


「や、闇だとぉ!? なんでてめぇがそんなもん使えるんだよ!」

「なんでってオレだって何もしてなかったわけじゃない。お前が魔物をはべらせて満足している時でも努力したからな」

「クソがッ! 闇だろうが魔力はオレのほうが上のはずだ!」


 ギリウムがいきり立って木剣を振り回してきた。

 魔力で強化されている分、威力はすごいんだろうけど動きは遅い。

 オレは余裕を持ってそれを受けた。


「くっ! う、動かねぇ!」

「ギリウム兄さん、ちゃんと訓練した? それともまだ手加減してる?」

「うるせぇっ!」


 ギリウムが一度後退してからまた斬りかかってくる。

 そこへオレは剣にまとわせていた闇を少しだけふわりと切り離した。

 霧状になった闇がギリウム兄さんの顔を覆ってしまう。


「な、なにも見えねぇ! どうなってんだぁ!」

「闇魔法ってこういうこともできるんだよ。デタラメに振り回したって当たらないよ。それどころか……」


 木剣で見当違いな方向を攻撃しているギリウム兄さんの腹に一撃を入れた。


「がはぁッ!」

「より隙だらけになってこういうことになる」


 ギリウム兄さんはお腹を押さえてフラフラと立っている。

 周囲がどよめいていて、誰もがこの展開を予想できなかったみたいだ。


「ア、アルフィス様が闇魔法を?」

「あの歳で魔力を……しかも属性魔法を使いこなしているなんて……」


 ギリウムは魔法の類はあまり得意じゃなかったはずだ。

 今みたいに単純な魔力強化は使えるみたいだけど、基本的には物理一辺倒だった。

 それが悪いとは言わないけど、使役している魔物ありきな強さだったのは否めない。


「ク、クソがぁ!」

「降参しないのか?」

「誰がするかッ!」

「はぁ……だったらそうしたくなるようにもう一つだけ見せてやるよ」


 オレは体の奥から魔力以外のものを引き出した。

 木剣に浴びせたのは波動だ。

 オレが生まれた時に母親のリーザニアが力強い波動を感じていた。


 これは本来人間が内に秘めている本質の力といっていい。

 人によって性質は異なるけどオレの波動は破壊だ。

 これを引き出せるようになったのはつい最近で、今のオレじゃほんの少しの時間しか持続できない。

 でも波動を操れるのはバルフォント家でも両親の他は長男と長女のみだ。


「な、な、なんだよ、それ……木剣に闇と……違う何かが混ざっている……」

「今のオレじゃあまり長くはもたないんでな。ひとまず終わらせてやるよ」

「ひ、ひぃっ!?」


 完全に怯えたギリウムがへっぴり腰で木剣を盾代わりにして防ごうとした。

 オレの闇と破壊の波動を帯びた木剣がそれに叩き込まれる。

 その結果、ギリウムの木剣がバキリと音を立てて割れてしまった。


「あぁ! ひぁぁ! なんだ、なんだよこれぇ!?」

「オレの波動は破壊。この木剣にはあらゆるものを破壊する力がある。つまりどういうことか、わかるか?」

「や、やめろ! クソが! やめてくれぇ!」

「嫌だ」


 オレは木剣をギリウムに当てた。

 腹に木剣が食い込んで、ギリウムは盛大に血を吐き出して吹っ飛ぶ。

 倒れた際にもう一度だけごふっと血を吹いたギリウムは動かなくなった。


「ウソだよ。波動は解除して叩いたから安心……あれ? 参ったが聞こえないな? じゃあ止めを刺すしかないかな?」

「そこまでだ。勝負はあった」


 レオルグがオレを厳しい目つきで見下ろす。なんですか、世界王。


「アルフィス、そんなものどこで覚えた?」

「自力だよ。たまたま発見してさ。それより約束を守ってほしい」

「あぁ、あの天使族の少女だな。おい」


 レオルグに呼ばれて、戦いを見守っていたルーシェルがおそるおそるオレに近づいてきた。

 なんかモジモジしてるけど、トイレでもいきたいのか?


「あ、あの、アルフィス、様……あ、ありがと、ございます……」

「なんかやけにしおらしいな?」


 確かめちゃくちゃ生意気なキャラだったよな、こいつ。

 まぁおとなしくしてくれるならそれに越したことはないか。

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