第2話 オレにはクソ兄がいる

 バルフォント家のアルフィスに転生してから早7年、おかげでスクスクと成長できた。

 幼少期はまだゲームが始まっていない頃とはいえ、オレは密かにゲーム知識を活かして訓練をしている。

 とはいっても大したことはなく、要するにただ自分の得意武器や魔法を意識して鍛えているだけだ。


 それも屋敷周辺にいる弱い魔物相手にひたすら磨いていた。

 一方でバルフォント家の面々は地下の訓練場で訓練を行っている。

 悔しいけど今のオレがあのメンツにまじっても何の訓練にもならない。

 ひたすら痛めつけられて終わりだ。


 バルフォント家では何のノウハウも教えてくれない。

 本当に天才であれば師などいらぬといったように、誰もが各々の技を磨いている。

 それでも王国の柱として君臨できるのがバルフォント家だ。


 そんな中で弱い魔物相手と戦っているオレは屋敷内で訝しがられている。


「アルフィスぼっちゃん、毎日外に出てどこへ行かれているのだ?」

「お父上のレオルグ様も何も言わないのだよな……」


 レオルグはバルフォント家の血筋であれば勝手に強くなると考えている。

 というかあの男は基本的に自分のことしか考えていない。

 オレが生まれた時に喜んだのだって、自分の優秀な手駒が増えたからだ。

 オレが好き勝手に動いて強くなるならよし、どこかで死ぬならそれまでだと思っている。


 今日もザコ狩りを終えて屋敷に帰ってくると廊下が騒がしい。

 あれは次男のギリウムだな。


「ほぼ絶滅した天使族というからテイムしてやったというのに、ホント使えないな」

「違うね! お前がボクを戦わせなかったんでしょ!」


 ギリウムはいわゆる魔物使いだ。

 ネチネチと絡んでいる相手は天使族の女の子か。


 ギリウムは多数の様々な魔物を従えて主人公の前に立ちはだかった中盤以降のボスキャラだったな。

 実際、あいつの周りには何匹かの魔物がいる。


「ゲゲゲ! お前は本当に弱っちいカスだなぁ!」

「カスはお前だろ!」

「なんだとコラァッ!」

「ギャッ!」


 天使族の子が悪魔系の魔物に吹っ飛ばされた。

 そこへギリウスが倒れている天使族の子の頭を踏みつける。

 

「どこにも行き場がないお前みたいなカスを拾ってやったのはどこの誰だ? あん? 言ってみろや」

「いぎぎぎ……」


 ギリウムはプライドが高く、アルフィスをもっとも貶していたキャラだ。

 屋敷内でも散々オレに絡んできてしょうもない罵倒をしてくる。

 挙句の果てにはオレの武器をどこかへ隠したりとか、幼稚な嫌がらせまでしてきたこともあった。


 そして踏みつけられている天使族の子は確かルーシェル、実は裏ボスだ。

 ギリウムの手下の中で最弱と言われていて、鉄砲玉のように主人公達に刺客として送り込まれる。

 そこで返り討ちにあった後は姿を消すけど、ゲームクリア後にとんでもない強さになって立ちはだかるんだよな。

 その強さは理不尽とまで言われていて、全RPGの中でも最高難易度のボス戦と言われている。


「おい、カス。もう一度、舐めた口を利いてみろや……なぁッ!」

「うぁッ!」


 ギリウムに蹴っ飛ばされたルーシェルが壁にぶつかる。

 見ていられないな。


「おい、その辺にしておくんだな」

「あん? 誰かと思えばクソザコのアルフィスじゃねえか。今日もお散歩か?」


 ヘラヘラと見下してくるけど、クソザコってのはこっちのセリフなんだよな。

 こいつ、ゲームでアルフィスのことを「あいつは兄弟の中でも一番弱いんだよ」とか言ってたっけ。

 絶望難易度のアルフィス戦の後だからプレイヤーはさぞかし驚いたはずだ。


 だけど蓋を開けてみればなんてことはない。

 ギリウム戦で苦戦したというプレイヤーはほとんどいなかった。

 「こいつ絶対アルフィスより弱いだろ」「周りの敵のほうが強かったw」と散々な評価だ。


「お前ごときが知る必要はない。それよりそこの天使族の少女を解放しろ」

「あぁ? なんつった? お前、ごときがぁ……?」

「当然だろう? そこの天使族の少女はお前ごときが扱えるような存在じゃない。いいか? これは忠告だ」

「て、てめぇいつからこのギリウム様に舐めた口を利けるようになったんだゴラァァッ!」


 いきり立ったギリウムが殴りかかって来るけど、オレはひょいっと避けて足を引っかけた。

 盛大に転んだギリウムが顔面から床に倒れる。


「ぐぁッ! い、いでぇ……!」

「家でぬくぬくとしているからそうなる。もう一度だけ言うぞ。天使族の少女を解放しろ」

「う、う、うるせぇ!」

「鼻血出ているぞ?」


 ギリウムの鼻からボタボタと血が垂れている。

 ハッとなったギリウムが鼻を押さえながらもオレを睨みつけてきた。


「アルフィス、てめぇごときが俺様に命令しようなんざ100年早いんだよ!」

「じゃあ、どうする? いっそ決闘でもして白黒つけるか? オレが勝ったらそこの天使族の少女を貰うぞ」

「決闘だぁ!? ハッ! 上等だ! 吐いた唾は飲み込めねぇぞ! ていうか、おい! そこのゴミ! てめぇの服をよこせ!」


 ギリウムが呼びつけたのは使用人だ。

 こいつは使用人をゴミ呼ばわりしている。あいつのせいで何人の使用人がやめていったことか。

 慌ててやってきた使用人の服で鼻を拭いた後は用済みとばかりに突き飛ばした。

 本当に終わってるな、こいつ。

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