第8話 霊魔管理局

「ちょっとお姉さんとお話、しましょうか?」


 そんな言葉と共に始まった黒スーツのお姉さんとの「オハナシ」。


 というか私は何だって自分が魔法少女だなんて名乗ってしまったんだろうか……


 あの瞬間は何というか鬼を倒したっていう高揚感とかアドレナリンがどばどば出て勢いで言っちゃったんだけど、お姉さんのポカンとした顔を見て一瞬で冷や水をぶっかけられた感覚だった。


 今すぐにでも穴があったら隠れたい……


「なるほど、昨日の反応もあなただったのね――どうかした?」


「あ、いえ!? 何でもないです……」


「そう? それにしても本当にどこにも所属いていない野良の退魔師。それもとびきりの才能を持った子が野に埋もれてたなんて信じられないわ……極めつけは――」


 そう言ったお姉さんは私が手に持っている杖に視線を向ける。


「『心具しんぐ』……まさかそんなものまで持っているなんて。本当に何者なの、あなた?」


「これ、本当にそんなに凄いものなんですか?」


「あくまで私見だから確実にそうだとは言えないんだけどね。でももし本当に『心具』だったとしたら、超激激レアよ。世界中にいる退魔師を合わせたとしても、それを持っているのは一割にも満たないごく少数の人たちだけなんだから」


 そういうことらしかった。詳しいことは聞いてないけど、もしかするとこの杖はとんでもなく凄いものらしい。


「……それで、提案があるのだけどいいかしら?」


「何ですか?」


「今回の一件についてより詳しく説明する為にも、あなたには私達の『本部』に来て欲しいの。もちろんその杖が本当に心具かどうかも本部なら調べることが出来るわ」


「それは……」


「正直な話をすると、あなたには退魔師として優れた才能がある。さっきの戦いを見てそれを確信したわ。誰にも何も教わっていないのにあれほどの術を行使できるなんてはっきり言って常識外れよ。それにあなたは『妖魔』という存在に少なからず関わってしまった。だから、私はあなたを退魔師として勧誘したいと思ってる」


「……取り合えず、話を聞くだけなら」


 お姉さんが言った勧誘という言葉に即座に返事をすることは出来なかった。


 確かに昨日や今日の化け物、お姉さん曰く『妖魔』というらしいが、アレが一体何なのかは気になっている。それに突然降ってわいたこの杖のことだって知りたいと思っている。


 でもだからといって、今後もあんな化け物たちと戦う決断をすぐに下すことは出来なかった。


「もちろんそれで構わないわ。突然のことで混乱しているのも分かる。それじゃあ今日――はもう遅いから、明日の土曜日は時間あるかしら?」


「えっと、はいっ。何の予定も無かったはずです」


「オッケー。それじゃあ明日の……そうねお昼前の十一時ぐらいにあなたの家に迎えに行くわ。せっかくだからお昼ご飯でも一緒に食べましょう。着いたら知らせるから連絡先教えてもらってもいい?」


「あ、はい」


 結局、トントン拍子に話は進み私は明日、この人たち退魔師さんが集まるという本部にお邪魔することになった。

 

 話は変わるけど、連絡先交換の時のお姉さんから名刺を貰った。


「えっと、みなもとしず「せいか、よ。静香って書いて『せいか』って読むの。ほら、ここにローマ字でフリガナがあるでしょ?」――ほ、ほんとだ。すみません!」


「いいのよ。昔から初対面の人に間違えられなかったことがないぐらいややこしい名前だから。というか苗字も相まって普通ならそっちで読むわよね……」


 黒スーツのお姉さんは、源さんというらしかった。そこはかとなく、というか読み方が違わなければ完全にあのアニメのヒロインを意識した名前だなと思った。


「両親がね。好きなのよ……」


 ……どうやら完全にそれを意識した名前だったみたい


 もう一つ驚いたのが、貰った名刺に書かれていたのはどこにでもありそうな普通の会社っぽい名前とそこの社員という肩書だった。てっきり名刺にも退魔師とかの言葉が書いてあると思ったのに、一切そんなことはなかった。


 一応、源さんに聞いてみると。


「それは表向きの名刺なの。さすがに退魔師なんて書いた名刺を持ち歩く訳にはいかないから。そんなの落として人に見られたら変な目で見られるでしょ?」


 と、もっともな言葉が返って来た。


 そんな一幕がありつつ、その場で源さんと別れて神社を後にした。





 翌日――


 朝からそわそわと落ち着かず、どんな服装で行ったらいいのかとか衣装箪笥の中をひっくり返しながら熟考した。


 結局は、源さんがスーツ姿だったこともあってきっちりした服装がいいと結論を出した。つまり制服を着ていくことにした。


「……あんた、なんで休日に制服なんて着てんの?」


「そ、そういう気分なの!!」


 などと、お母さんに訝し気な目で見られたりしながら部屋で待っていると携帯に源さんから連絡が入る。


『家の前に着きました』


 簡素なメッセージに『すぐ行きます』と返事を打って、お母さんにちょっと出かけてくると言って玄関を出ると、家の前に高級車っぽい黒塗りの車が一台止まっていた。その横には今日も黒スーツ姿の源さんが立っていて、私の方を見て目を丸くしている。


「お、お待たせしました!」


「別に待ってはいないけど、どうして制服なの?」


「え? だ、だって源さんがスーツ姿だからきっちりした服の方がいいのかと思って……」


「あぁー……ごめんなさい。そこまで気が回って無かったわ。そうね、制服なら間違いないから大丈夫よ。でも次からは普通に普段着で大丈夫だから。そんな事気にしないし、私のはある意味そういう趣味みたいなものだから」


「はぁ、そうなんですか?」


「さあ、乗ってちょうだい。早速だけど行きましょう」


「は、はいっ!」

 

 運転席に源さんが座り、私は助手席に座って車は出発する。


「あの、源さん」


「静香でいいわよ。それで、どうかした?」


「じゃあ静香さん。退魔師の本部ってどこにあるんですか? どこかの山の中とか、人里外れた場所とか?」


「一般人からするとそういうイメージになるのね。でもどれも外れ。普通に街の中にあるわ。そうじゃないと街中で妖魔が出たらすぐに駆け付けられないから。それに一応は国家機関でもあるから、郊外に作ると昔は不便だったらしいわね」


「へぇ~、そうなんですね――国家機関って!? 退魔師って国の人なんですか!?」


「言ってなかったっけ?」


 まだ本部に着いてすらいないのに驚きの連続だった。


 でも静香さんの話を聞いて納得もする。

 退魔師は、古くは陰陽師と呼ばれていたらしい。小説などの創作物に登場するあの陰陽師だ。


 まだ平安の時代の頃は、陰陽師は国家公務員のような存在だったらしい。確かに陰陽師を題材にした映画とかではそんな風に描かれているのを見たことがあった。その流れを汲んで退魔師と名前を変えた今でも、国に属する組織なんだとか。


「そういうのって物語の中だけの話で、現実にあるなんて思ってもみませんでした……」


「それは重畳ね。私達の仕事は妖魔の存在を一般市民知られない様に処理すること。桜子ちゃんが知らなかったってことは、その仕事をちゃんとこなせている証拠にもなる……といっても、桜子ちゃんを巻き込んじゃったんだからダメダメだけどね」


 そう言った静香さんの横顔は悔し気でなんて言葉を返したらいいのか分からなかった。


「でも私みたいに偶然、一般人が妖魔と関わっちゃうことってないんですか?」


「あるわよ。退魔師もそんなに数が多い訳じゃないから、どうしてもね。そうなったら基本的には妖魔に関する記憶を消して対処するわ。これでも国家機関だから、そういった内容が報道されないようにもしてるし」


「き、記憶をっ……!?」


「安心して。桜子ちゃんにやることは無いと思うから。記憶を消すっていっても、不思議な光をピカっとするだけだから、痛みも何も感じないし」


 どこかで聞いたことあるような記憶の消し方を説明されても全然安心できなかった……


 そんな雑談をしているうちに、車は背の高い建物が多い地域にやって来た。車窓からはびしっとスーツを着込んだOLやサラリーマンの姿が見える。いわゆるオフィス街のようだった。まだ学生の私には全く縁が無い場所である。


 珍しい光景になんとなく窓の外を眺めていると,静香さんから声がかかった。


「もうすぐ着くわよ」


「え、この辺りなんですか?」


「そうよ。もう見えてる――ほら、あのビルがそうよ」


「……!」


 静香さんが指差す先にあったのは、周りの建物に勝るとも劣らないかなりの高さを誇る一棟のビルだった。


 車はそのビルに近づくと駐車するために地下に入っていく。駐車を終えて車を降りると、近くにあった出入り口から上へと通じるエレベーターに乗り込む。しかし私の予想に反して静香さんはエレベーターのボタンを押すことなく、胸ポケットから取り出したカードをボタンが並ぶ場所の一角に翳した。


 すると階を選んでいないのに自動的にエレベーターが動き出す。


「これって、下に向かってる?」


「上にあるのは事務的な仕事を担当する部署なの。退魔師が主に利用するのは地下にある施設よ」


「す、すごい……」


 少しして、エレベーターが止まり扉が開く。


 その先にはホールのような開けた空間が広がってい。


 すると静香さんが先にエレベーターを降りて私を出迎えるようにして言う。


「ようこそ桜子ちゃん。ここが私達、退魔師が所属する『霊魔管理局れいまかんりきょく』よ。『魔管まかん』なんて略して呼ばれることもあるわ」


「霊魔、取締局。ここが……」


「さあついて来て。ちょっと広いから迷子にならないように気を付けてね」


「は、はい!」


 静香さんに付いて建物の中を移動する。


 あまり人は多くないように見えるけど、それでも見える範囲だけでも十人以上の人達が建物内を歩ている。そして時折すれ違う人達は、私を見るとみんな目を丸くして珍獣でも見た様な反応をしていた。


 正直、大人ばっかりの中で子ども一人っていうのはあまり居心地は良くなかった。


「あの静香さん。やっぱり私みたいな中学生って珍しいんですか?」


「うーん、中学生がっていうのもそうだけど、何より桜子ちゃんだからっていうのがあるわね」


「私だから、ですか?」


「この業界、といっていいのか分からないけど、基本的には昔から退魔を生業とする家の出身が多いの。それもあって退魔師同士の横の繋がるが強いのよね。だから小さい頃から見所のある子は、大抵退魔師の中で注目されるものなの。だけど、そこに全く完全に外部からの子が入って来ると、どうしても珍しがられちゃうのよね」


「ああ、そういう」


 静香さんの返答を何となく理解しつつ、暫く建物の中を歩いてある部屋の前に辿り着いた。


「この中は研究施設になってるわ。色々説明する前に桜子ちゃんの身体に異常が無いかと、それから――杖は持ってきてるかしら?」


「あ、はい。持ってきてます」


 私は杖が入った鞄を叩いてみせる。


「それが本当に心具なのかどうかを調べて貰います。まあちょっとした健康診断みたいなものだから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。取り合えずまずは、今日桜子ちゃんの検査を担当してくれる人に挨拶しましょう」


「はい」


 扉を開けて研究室の中に入る。


 研究室という言葉を聞いてどんなものかとドキドキしていたけど、何となく病院みたいな雰囲気だなと感じた。ガラス張りになっている向こう側で色んな人がよく分からない機械とにらめっこしたりしている。


 そんな中、研究室に入った私達に近づいて来る人がいた。


「待って……いたよ……」


 その聞き覚えのある声と姿を見て、私は思わず叫んでいた。


「し、静音しずね先生っ!!?」


「やぁ……昨日ぶりだね。佐倉くん……」


「ど、どうして静音先生がこんなところにっ!?――も、もしかして!!」


「ああ……私も管理局の一員なんだ。ここでは、研究員をしている……学校の先生との、二足の草鞋ってやつだね」


「う、うそ……」


 あまりにも衝撃的過ぎた再会に私が呆然自失としている一方で、静音先生は静香さんに話の矛先を向けた。


「送迎ご苦労様だったね、静香……」


「別になんてことないわよ。姉さんの可愛い生徒である前に、桜子ちゃんは私の命の恩人でもあるんだから」


「そういえばそうだったね……昨日は静香がお世話になった。ありがとう、佐倉くん……」


「え、えっと……え? 静音先生と静香さんて……姉妹?」


「ああ、そうだよ……私が姉で、静香が妹だね」


「こんなぼさぼさが姉なんて恥ずかしいけどね?」


「えぇーーーーーーーー!!?」


 本日何度目か分からない衝撃が私を襲った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今回はちょっと短くなってしまいましたが、キリが良さそうだったのでここまでとしました。

さてさて、いよいよ桜子が日本の対妖魔組織の本部に来ることとなりました。すでに新しい?出会いもありましたが、ここからどんなことが起こるのか。桜子は無事に管理局から帰ることが出来るのか!? 

是非次回の更新をお楽しみに! 


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