第3話 魔法少女は絶対、勝つ!!
救援に駆け付けた魔法少女たちは、絶えず魔法を巨大な怪異へと打ち込み続けていた。
しかし、いくらやってもその攻撃がダメージを与えているという手応えを得ることは無かった。既に並みの怪異ならば数十体、いや数百体は討滅しているはずの火力にもかかわらず、怪異は未だ健在。その上つけられた傷といえば体表の浅い傷のみであり、それもすぐに回復されてしまう。
現状はまさにジリ貧という言葉が相応しい状況だった。
効果があるのか無いのか分からない状態で魔法を放ち続ける。それによって減り続ける魔力。そして不気味なほどに静かに攻撃を受けながらこちらの様子を窺っている怪異。
それは魔法少女たちに刻一刻と焦燥感を植え付け、そしてそれは不安へと変わっていく。
そんな中、ついに攻撃されるばかりだった怪異が反撃を始めた。
『ガアァァァァァ!!!!!』
「「「っ!?」」」
突然発せられた咆哮は数人の魔法少女の攻撃の手を強制的に止めさせ身体を硬直させる。
そして次の瞬間、怪異がゴツゴツした岩のような尻尾を横薙ぎに振るった。
ほとんどの魔法少女はそれを避けた。
しかし、咆哮により身体が硬直してしまった数人が咄嗟にそれを避けることが出来ず直撃を受ける。その身体は凄まじい勢いで吹き飛んでいき、ビルの側面に叩きつけられてようやく勢いを止めた。
魔法少女たちが衝突した影響でビルのガラスが割れ地上に降りそそぎ、壊れたビルの瓦礫がその威力の高さを物語る。
「A班は彼女たちの回復に行って!! 残りは攻撃を再開っ!!!」
空中で戦う魔法少女たちのリーダーらしき一人が即座に指示を出した。
あれほどの威力で叩きつけられたのならば魔法少女とて命にかかわる。戦力を割くことになったとしてもそちらの救助を優先する指示だった。
今の出来事に動揺を見せていた魔法少女たちだったが、リーダー格の少女の言葉で我に返り自分の役目を全うすべく再び怪異へと魔法による攻撃を再開する。
しかし一方で怪異の攻撃もそれだけで終わりでは無かった。
尻尾の先に無数の突起物のようなものが表出し、怪異が尻尾を振るうとそれが弾丸のように撃ちだされる。いや弾丸なんて可愛いものではない。先端の尖った針が無数に飛んでくる光景は魔法少女たちにすら一瞬、絶望感を与えた。
魔法少女たちは雨やあられと振って来る針の対処で手一杯になり攻撃どころではなくなる。
更に悪いことに、ここまでの攻撃で魔力の消耗が激しかった魔法少女から徐々に攻撃を防ぐことが出来なくなり戦闘不能に追い込まれていった。
刻一刻と無事な魔法少女がその数を減らしていく。
「くっ、このままじゃ……!!」
戦況は明らかに魔法少女、不利。
魔力と体力を消耗した魔法少女から順に撃ち落されていき、刻一刻とその数を減らしていく。
リーダー格の少女も防御の為のシールドを展開させられながら、現在の状況の悪さを理解していた。
「何やってんのサクラ……! あんたが加わってくれないとかなりキツイんですけど……!?」
そう愚痴ったとき――待ち望んだ声が彼女の頭に響いた。
『ごめん、お待たせ!!』
頭の中に聞こえたその声は、紛れもないサクラのもの。
それに対してリーダー格の少女は即座に返事を返す。
「遅いっ!! そっちが済んだんならさっさとこっちに合流して!!」
『本当にごめんなんだけど、あと少しだけ皆で持たせて!』
「はぁ!? こっちもう限界が近いんだけど!?」
『アイツを倒すのに大技を使うから少しだけ時間が欲しいの!! 五分、いや三分でいいからお願い!!』
「大技っ?――ああもう分かったわよ!! それじゃあ本当に三分だけだからね!! それ以上は本当に持たないから!! 確実に決めてよね!!?」
『分かってる! いつもありがとうね!! それじゃあ三分後に!!』
言いたいことだけを言ってサクラの声が途切れる。
「いつもいつも本当にっ……しゃあない、もうひと踏ん張りしなくちゃね――みんな、よく聞いて!!」
そしてサクラと話した内容を聞かせて確実に三分持たせることを念頭に全体に指示を出し始める。
三分後、サクラが必ずあの怪異を打倒してくれると信じて。
他の魔法少女も先ほどまでの暗い表情が一転、希望を宿した前向きなものへと変わる。
あのサクラが言うなら――たった一人の魔法少女の言葉が他の魔法少女の心にも光を灯す。
桃色サクラという魔法少女は人々だけではない。
魔法少女にとっても等しく希望なのだ。
最前線からかなり下がった後方にサクラと五人の魔法少女の姿はあった。
「この合体魔法は六人で発動するっていうよりも、五人と一人。つまり君達と私の二つの合体魔法だと考えて」
「私達五人を一人だと考えて――て、それはサクラさん一人で私達五人分の役割をしなければならないということですが……!?」
「ふふん、それぐらい大丈夫だよ! 任せて!」
不安そうな顔を見せたレイナに見る者を安心させる笑みを向けるサクラ。それを見て普通なら無理でもサクラさんならと、レイナは不安を追い払うように頭を振って気合いを入れ直す。
「向こうもかなり不味い状態であんまり時間は無い。だから一発で成功させるよ! レイナちゃん達はいつも通り合体魔法を使ってくれればいい。私がそっちに合わせるから! じゃあ始めるよ――」
「「「「「はいっ!!」」」」」
五人と一人が空中に展開する。
サクラとヒナタの必死の訴えを聞いた他の四人は、少し悩んでからサクラの提案に乗る覚悟を決めた。
確かに無理難題かもしえない。だけれども先輩が、そして後輩がここまでの覚悟を持っているのだから自分達も覚悟を決めるべきだと、そう思ったのだ。
それに何も状況に流されたという訳でも無い。
彼女たちの中にも……炎が燻っていた。
自分達の努力の結晶である合体魔法が通用しなかったことへの――悔しさ
情けない姿を人々に見せてしまったことへの――怒り
そしてあの怪異は何としても倒さねばならないという魔法少女としての――矜持
それらに後押しされて、そして何よりサクラの言葉を信頼して六人の合体魔法を決行することを決断した。
五人はいつも通り、いやそれ以上の力を込めて合体魔法を発動させる。
サクラに回復させてもらったお陰で今の五人の魔力は全快している。
その満ち満ちている魔力の全てをたった一つの合体魔法に注ぎ込んだ。
それでもきっと、桃色サクラならば合わせてくれると信じて。
五人を中心とした巨大な五芒星が完成した。
それはさっき使った合体魔法よりもなお、強い輝きを放っている。
一方、魔法少女五人分の働きをしてなおかつ五人の合体魔法に呼吸と魔力を合わせなければならないサクラ。
彼女の姿は五人から一歩後方、五芒星の中央にあった。
「ふぅ……――」
肩の力を抜き一度脱力したサクラだったが次の瞬間、その身体から凄まじい桜色の魔力が立ち昇る。
怪異の黒い光線が瘴気を圧縮して可視化したものならば、サクラのそれは彼女の膨大な魔力が目に見えるレベルで圧縮され具現化したもの。その輝きは五人から発せられるものに勝るとも劣らない。
ついさっき怪異の強烈な一撃を受け止め、五人分の回復をこなしたとは思えないほどの魔力がその身から溢れ出していた。
桜色の魔力は五芒星を包み込むように広がっていく。
最初はただ上から覆うだけだったそれは、次第に五芒星の輝きの中に加わっていきその形を次第に変えていく。
その凄さを一番近くで感じていたのは五人の魔法少女たちだった。
サクラの魔力に包まれた彼女たちは、五芒星に纏わるそれに全く違和感を感じていなかった。それどころか、確実に魔法がもう一段階上に進化していくような感覚を覚えていた。
これがどれほど凄いことなのか、合体魔法を扱う彼女たちだからこそ分かる。
改めて、桃色サクラという魔法少女に畏敬の念を抱きつつ自分達も合体魔法の制御に全身全霊を注ぐ。
五芒星は形を変え――空に大輪の花を咲かせた。
それは六色に彩られた巨大な桜の花。
大きさは一回り以上大きくなり、その輝きは前方の離れた場所で戦う魔法少女たちも気付くほど。
そしてそれは同時に怪異にも気付かれることと意味している。
怪異は巨大は一輪の桜の花を見て、そこに込められた脅威を本能的に感じ取っていた。アレには自身を滅ぼせるだけの力がある。どうにかしなければ自分はアレに消し飛ばされる――
ゆえに怪異は周囲を飛び回る魔法少女たちへの攻撃の手を止めて、サクラたちの合体魔法へと標的を変更する。
怪異の身体全体から黒い煙のようなものが滲みだし始める。
これこそ怪異が怪異として存在するためのエネルギーである瘴気。
それが身体から漏れ始めたということは、全身の瘴気を昂らせている証拠。
それはつまり……次の放つ一撃がこの怪異にとって正真正銘『最強の一撃』であることを意味していた。
「全員退避っ!!」
リーダー格の魔法少女がそれを見てすぐ全員に撤退命令を出す。
彼女は怪異の傍を離れる前にサクラたちの方に視線を向けて呟いた。
「後は頼んだわよ……サクラっ!」
それは先ほどのような通信を通した言葉ではない。
ただ、自身が最も尊敬する魔法少女に対し向けた、確信を込めた激励の言葉。悲壮感も祈りすらもなく、ただあなたならやってくれるでしょ?という確信めいた信頼の籠った一言。
それはサクラに届く訳でもなく、空に溶けるように消えた。
――それは偶然だったのか。
届くはずもない彼女の言葉が囁かれた瞬間、サクラは口元を緩めて笑顔を作った。
まるで任せておいて、と返事でもするかのように。
「サクラさん、安定しました!! 今なら行けます!!」
続いてレイナの言葉がサクラの耳に届いた。
ついに合体魔法を放つ準備が整ったのだ。
あとはいつでも放つことが出来る。
「みんな……準備はいい!?」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
そして今度も合体魔法が完成するのと、怪異の一撃が完成するのはほぼ同時だった。
「「「「「「セクステット・フルバスター!!!!」」」」」」
「――――――――――――ッッッッ!!!!!」
放たれた二つの閃光は凄まじい余波を周辺に及ぼしながら衝突する。
暴風が荒れ狂い、周辺の建物のガラスは割れ、空全体を覆い尽くしていた雲を吹き飛ばす。
二つは一見、拮抗しているように見えたが……ほんのわずかに怪異の漆黒の光線の方が押していた。
「くっ……みんな踏ん張るのよっ!!!」
「向こうの力が強すぎるっ。このままじゃ押し切られるわよ!!!」
「そんなこと……!!」
国内最大規模に匹敵する怪異の力は伊達ではなく、その全力の一撃は先ほどまでの攻撃がお遊びに見えるほどの威力を秘めていた。光線の威力もこれまでの二回に比べれば天と地ほどの差があった。
サクラの力を借りて更なる力を付けた六人合体魔法だったが、それでもなお怪異の力が勝っていた――――本当にそうなのだろうか?
「やっぱり、私達じゃ……」
「みんな、諦めないでっ!!!」
「「「「「っ!?」」」」」
「私達の心が折れたらこの魔法も折れる。だから怪異と戦っているときは絶対に下を向いちゃだめ。それが魔法少女にとって一番大切なことだよ」
「サクラ、さん」
「魔法は希望、私達が信じれば必ずその想いに応えてくれる。イメージするの――この魔法が怪異を倒す光景を……そして信じて、自分のことを! 仲間のことを! これまでの努力を!!」
サクラの言葉に促されて五人の魔法少女たちの肩から力が抜ける。
自分達がこれまでずっと訓練して磨き上げてきた合体魔法が、最強の魔法少女である桃色サクラの力をも借りたこの魔法が……必ず目の前の敵を打ち破る。
そんな瞼の裏側に思い描く。サクラが言った通り、魔法にとってイメージとは力なのだ。
魔法少女たちの想いを受け取った彼女たちの魔法は――進化する。
五つの花びらから構成される桜の花の形をしていた魔法陣が、彼女たちの想いに応えて再度その形を変化させる。
最初はたった一輪の小さなオレンジ色の花だった。それに遅れて、青、白、紫、緑の花が咲き始め――やがてそれが魔法陣という枠すら飛び出して空一面に咲き誇る。
街には花の雨が降った。
まるでおとぎの国に迷い込んだかのようなその光景に、少し離れて様子を見守っていた魔法少女たちも、避難所から中継を見ていた市民たちも……誰もが目を奪われて、その時だけは自分達の置かれている危機的状況を忘れてしまった。
それだけ戦場には似つかわしくない美しく、そして幻想的な光景だった。
一輪の桜の花から始まったそれは、空に花束を作り出す。
進化を遂げた新しい魔法に相応しい名前を、彼女たちが口にする。
「「「「「「セクステット・ブロッサムシンフォニー!!!!!!」」」」」
その瞬間、魔法は完成した。
虹色の輝きを帯びたその閃光は、瞬く間に怪異の光線を飲み込んで……
そして一瞬の抵抗すら許さずその身体を瘴気ごと吹き飛ばしてみせた。
――――
――
―
『今日の「魔法少女、桃色サクラ!」はここまで! 次回の桃色サクラもお楽しみに! 魔法少女はみんなの希望っ!!』
「すっ…………すごーーーーーーい!!!!!! やっぱり魔法少女桃色サクラ、サイコーーーーーーー!!!!!」
アニメのエンディングまでしっかりと見終えてから、私はそう叫び声をあげた。
見たのだってこれが初めてじゃないし、それどころか全シリーズを軽く十周はしていて結末だって知っているはずなのに、いつだってドキドキさせてくれる。
まったく本当に神アニメだよ……桃色サクラは……
「ふぅ~~面白かった~……うわ、もうこんな時間か。明日も早いのに」
ふいに見えた時計の針が一時過ぎを指しているのが目に入った。こんな時間に奇声を上げてしまって下で寝ている両親には申し訳ない限りである。
「ふぁあ~、寝るか……」
見終わった途端に強烈な眠気に襲われた私は、ベッドに入った途端に意識を落とした。
心地よい満足感に包まれつつ、明日も何の変哲もない普段通りの日常が待っていると思いながら。
待ち受ける『非日常』なんて予想すら出来ずに……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
というわけでここまで三話でプロローグとなります!
まさかプロローグの、しかも物語の中のアニメの話に三話も使ってしまうとは思いませんでした……
もし誤解があったらいけませんので書いておきますと、『桃色サクラ』のお話はあくまでこの作品内に登場するいちアニメの物語です。本編の主人公となるのはあくまで最後に登場した少女の方となります(勘違いさせてしまったらすみません!)
というわけで次回からは本格的にこの子の物語が始まりますので、引き続きよろしくお願いします!
欲を言うと、外伝的な扱いで桃色サクラの話も書けたらいいな~なんて思っていたりいなかったり……
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