名案を思いつく

「クライヴ様にはお会いしましたか?」


「ええ。忙しい中騎士たちの激励に何度も足を運んでくださって……。騎士とて人間なので、やはり気にかけてくださっているのがわかると、それだけでもやる気に繋がりますね」


 こんな考え方じゃダメなんですが、と言う彼にパトリシアは軽く首を振った。

 確かに皇宮の騎士として働くのならば、常に皇族に敬意を払わなくてはならない。

 しかし彼らとて人だ。

 心の奥底まではわからないものだからこそ、そういう細かな気遣いも必要なのだろう。


「騎士たちのやる気は国の安全に繋がりますからね。クライヴ陛下も重要視してくださってるんですよ」


「ありがたい話だ。実際騎士たちの多くは陛下に忠誠をと声高々に言ってるよ。……ああいうのがカリスマ性って言うんだろうな」


 彼らがやる気になってくれているのはありがたい。

 少しずつでもクライヴの味方が増えるのはいいことだ。

 少し離れたところからやる気のある大きな声が聞こえ始めて、パトリシアはそちらを優しい瞳で見つめる。


「……クロウさんも、専属騎士を希望されるんですか?」


「もちろんです。元々たった一人の主人に憧れていたこともありますが、やはりセシル卿の姿を見ていたら…………ああなりたいと願う心は止められません」


「――そうですか」


 今いる騎士たちの中にも、クロウと同じようにセシル卿に憧れる人もいるのだろう。

 皆が皆切磋琢磨してくれれば、それだけ騎士団の力も底上げされる。

 いい空気感だなと心地よい風が頬を撫でたその時、後ろの方から声がかけられた。


「専属騎士とはなんですか?」


「――! ノーチス国王陛下にご挨拶申し上げます」


 パトリシアが頭を下げれば、ロイドとクロウも後ろで礼をする。

 その場に現れたのは部下を数人連れたネロだった。

 パトリシアたちの異変に瞬時に気づいたセシル卿の指示により、騎士たちも訓練を止め膝を折る。


「…………訓練の邪魔をしてしまいましたね。一応クライヴ陛下の許可の元来ていますので、お気になさらず」


「お気遣いありがとうございます」


「騎士の皆さんも、訓練を続けてください」


「ありがとうございます」


 許可を得てセシル卿は立ち上がり、騎士たちに指示を飛ばす。

 彼らはすぐに訓練に戻り、剣が交わる音が響く。

 そんな中、ネロは騎士たちを見つつもパトリシアの隣に立った。


「ローレランの騎士たちは優秀ですね。今も護衛としてついてくださってますが、自分の仕事をきちんと理解しています。出過ぎず下がりすぎず、素晴らしい動きです」


「お褒めいただき光栄でございます。皆喜びます」


 騒がしいことが嫌いらしいネロには、腕利きの騎士を最低数護衛としてつけている。

 彼らは己のやるべきことをきちんと理解しているようで、ネロは彼らを気に入ったらしい。

 ほっと息をつくパトリシアに気づき、ネロは軽く首を傾げた。


「そういえば先ほどの話ですが、専属騎士とはなんですか?」


「あ……。専属騎士とはローレランの騎士制度の一つで、騎士団に所属して皇族を主人とするのではなく、たった一人の主を得ることです」


「ああ、なるほど。軍人には遠い話ですね」


 軍となれば国に仕えるのが決まりだろう。

 実際騎士団も基本は皇族と国を守るために存在しているので、どちらかといえば専属騎士が異例だ。

 だがしかし、それでも専属騎士に憧れる人は多い。

 特別な人のたった一人になりたいと思うのは、当たり前の感情なのかもしれない。


「騎士というのは面白いですね。軍人とは在り方からして違う」


「軍人のあり方、ですか?」


「ええ。我が国の、ですが。我々はどちらかといえば外を重視していました。国を守るというより、敵を倒すというのがメインでしたので」


「……なるほど」


 それは確かにありようが違う気がする。

 最終的に守るということには変わりはないが、初動が違うだけで結果は大きく変わるだろう。

 例えば敵が目の前に現れたとして。

 ノーチスの軍人は敵の命を奪おうと進み、ローレランの騎士は命を守るために一歩下がる。

 それは大きな違いだろう。


「いいですね。ノーチスの軍とローレランの騎士で、いつか合同の訓練などできたら、互いのいいところを補えるかもしれない」


「……確かに。いいかもしれませんね。そのうち――」


 そこまで言って、はたとパトリシアは動きを止めた。

 そうだ。

 ローレランには騎士団があるように、ノーチスには軍がある。

 それは各国にとって大きなものであり、他国を牽制する上でも大切なものだ。

 ノーチスの軍は大国であるローレランの騎士団にも引けを取らない。

 それは各国も知ることであり、だからこそノーチスは重要視されているのだ。


「……どうかしましたか?」


「あ……失礼いたしました。少し考えごとをしておりまして」


「考えごとですか? ……もしよろしければお聞きしても?」


 まだ考え自体はまとまっていない。

 けれどもしこれがうまくいけば、きっと両国の架け橋となるだろう。

 今すぐにでもこの案をまとめ上げてネロと語り合いたいが、流石に順番が違いすぎる。

 パトリシアは不思議そうな顔をするネロに、にっこりと微笑んでみせた。


「今はまだ考えがまとまっていませんので。ですが必ず、お話しいたします」


「…………そうですか。楽しみに待っております」

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