手段を考える
「なるほど……ノーチス側の思惑は大体分かった。……が、夜二人っきりというのはいかがなものかと思うよ」
「それを危惧してバルコニーで会話されたのだと思いますが……」
「それでも嫌なものは嫌。変な噂流れたら俺が嫌だし、次は止めてね」
「相手はノーチス国王陛下ですよ? 一介の令嬢が断ることは不可能です」
「パティは一介の令嬢じゃないし、それなら次は俺も一緒に行く」
ネロと話した日の翌日、パトリシアはクライヴに呼ばれていた。
昨夜二人で話をしたことを知ったらしいクライヴは、不服そうな顔を隠そうともせずパトリシアを出迎えた。
「次なんてありませんよ。シェリーから聞いていて、興味本位だったのだと思いますから」
「興味本位で求婚されてたら世話ないよ」
「それは……」
きっと彼の中で特に気になっているのはそこなのだろう。
最初は隠そうとも思ったけれど、それをしていざバレた時やましいことがあるのかと思われるのが嫌だったため、洗いざらい話をした。
結果彼は眉間に深い皺を寄せているのだが、まあこの反応も致し方ないかと思っている。
パトリシアが彼の立場だったら、同じような表情をしてしまうだろうから。
「ちゃんとお断りいたしました。ノーチス国王陛下も理解してくださいましたから」
「…………まあ、パティがしっかり断ってくれたみたいだから今回はいいよ。でも次からは気をつけてね」
「了解いたしました」
まあ一応納得はしてくれたようだ。
眉間に深く刻まれた皺をくりくりと押しながら、クライヴは次の話へと続けた。
「ノーチスは豊かな国だけど……確かに金は有限だ。うちのように土地が多ければ資源も増やせるけど、あそこは小国な上に砂漠が多い」
「いずれ交渉手段がなくなってしまうなら、今のうちに進めておきたいという気持ちもわからなくはないですが……」
「んー……それこそうちに皇女とかいればよかったんだけど」
そうすればネロに嫁がせられたんだけど……とクライヴは考えるように視線を上げた。
ローレランとしてもノーチスと友好な関係を築けるのはありがたい。
ローレラン、アヴァロン、ノーチスが手を組めれば、それだけでも他の国に圧力をかけられる。
未だ膨大なローレランの土地を狙う国もあるため、その申し出は正直ありがたいのだが、上手くはいかないものだ。
「だからといって兄上と……ともいかないしな」
アレックスは表舞台から姿を消した人だ。
そんな人にノーチスの姫との婚姻を進めては、まだ野心でもあるのかと疑われてしまう。
彼にそんな思いをさせたくないのはクライヴも同じなのか、その選択肢はなしとなったようだ。
「あーもー難しい。みんな国とか関係なく好きな人と結ばれればいいんだよ」
「それが難しいことは、クライヴ様が一番お分かりなのでは?」
「…………俺ってすごいわがまま?」
「クライヴ様がわがままなら私も同じくらいわがままですね」
どうしても譲れないものがある。
それはきっと、わがままなんて甘い言葉で表していいものではないのだろう。
それでもこれだけは、どうしても譲れないのだ。
「ま、もう今ですら死にそうなほど働いて国に貢献しているんだから、許されるでしょ」
「まだまだがんばります!」
「頑張りすぎないようにね」
それはお互い様だと言えば聞かなかったふりをされる。
今でこそ彼に呼ばれて昨夜のことを話しているから会えてはいるが、そういった用事がなければ話すことすらできない。
少し、いやかなり寂しいのだが、これも五年という期間だけだと自分に言い聞かせていると、その間にもクライヴは考え込むように視線を横にずらした。
「ノーチス王が望んでいるのが婚姻ということなら、それこそ皇族に連なるものならいいんじゃないか? んー……でも姫と年齢が近くて婚約者がいないものとなると………………あ」
「クライヴ様?」
なにかに気づいたような雰囲気を出しておきながら、クライヴは己の額を押さえながら首を振る。
「いやいやいや。これは最終手段くらいに思っておかなくちゃ……」
「なにか案があるんですか? もしよろしければお聞きしても?」
「いや。これは本当に最終手段だから。まだ流石に口に出すのは憚られる」
首を振るクライヴに、パトリシアはぱちくりと瞬きをした。
彼の言い方的にできればしたくはないことなのだろう。
一体どんなことだろうかと思考を巡らせたが、残念ながら思いつくものはなかった。
「とにかく、ノーチス王には他の方法で手を打てないか聞いてみるよ。海賊の件もあるしね」
「ノーチス側は海賊の拠点を知っているのでしょうか? そこさえ教えてもらえれば、こちらも動けるかと思いますが……」
海賊を捕まえるためには、地上戦に持ち込むのが一番だ。
彼らが拠点としている場所さえ分かれば行動に移せるのだが、未だ見つけたという報告はない。
ネロから聞くのが一番確実だが、そう簡単ではないようだ。
「場所は知ってると思う。けどタダで教えてくれるはずがないよね。情報も貴重な財産だからね」
そこもなにかと引き換えになるのだろう。
あちらが要求してくるのは一体なんなのだろうか。
考えてもちっとも思いつかなくて、外交とは難しいものだ。
「とりあえず! パティはあんまりノーチス王に近づかないように! 警戒心持ってね!」
「大丈夫だと思いますが……」
そんな話をした次の日、パトリシアはネロに呼び出された。
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