作戦会議
「ノーチスかぁ……。難しい立ち位置の国だよなぁ」
クライヴから許可を得て、パトリシアはノアとロイドにことの詳細を話した。
ノーチスと海賊、そして国王を招待しての会食。
それらを聞いた二人は一旦手を止め、難しい顔をした。
「ノーチスと言えば小国ながらも金が多くとれることから、貿易面でもかなり有利にことを進めていますね。つまりは豊かな国、ということです。ゆえに軍にも資金を多く回せていて、かなり強い印象です」
「戦争にはしたくないよな。せっかく平和になったんだし……」
「たぶんですが、それは向こうの国も同じだと思いますが……」
ちらりと手元にある手紙を見る。
それは今、アヴァロンにいるシェリーから送られてきたものだ。
そこにはパトリシアが聞きたかったことが書かれていた。
「どうしてそう思うんだ? 向こうは戦力的に申し分ないだろ」
「新王が立って日が浅いからですか?」
ロイドの言葉にこくりと頷く。
新王が立った。
それはローレランも同じだが、明らかに違うことがある。
それは向こうが略奪して王位を奪ったということだ。
ローレランはきちんとした手続きを踏み、クライヴは周りに信頼をされてから皇位についた。
しかしノーチスは違う。
前王がいかに愚王であろうとも、王を殺して王座を奪ったことに変わりはない。
王族の血筋全てを惨殺し玉座に座る新王を、認めないものは多いだろう。
鎮圧したとはいえ、内乱は起こり被害を被ったはず。
そんな国が大国であるローレランを敵に回すのは今ではないとシェリーは手紙で言ってきたのだが、その意見にはパトリシアも納得した。
「内乱をおさめたとはいえ、ノーチスは未だ軍事も完璧に整っていないはず。そんな中で大国であるローレランを敵に回すほど愚かな王が、クーデターを起こし成功させられるでしょうか?」
「ノーチスの新王は賢王だと聞いてます。彼の行う政治は的確だと」
「…………んじゃあ向こうの目的ってなんだぁ?」
このタイミングでの小競り合いをなぜ望むのか。
それが一番の問題だが、流石にシェリーもそこまではわからないらしい。
だがパトリシアよりもノーチスに詳しいだろうシェリーが同じ意見だったことで、この仮説が真実味を帯びてきた気がする。
「……なにか他に、狙いがあるんでしょうね」
「まあ……そうなりますね。こちらからの誘いをノーチス国王は受けたのでしょう?」
「ええ。一週間後、こちらにお着きになると」
「なら目的はローレランに来ること……?」
ロイドの言葉にふむ、と顎にて当てた。
確かにその通りかもしれない。
招待に素直に従うところを見ると、向こうの望む動きをしてしまった感はある。
「来て、なにをするか、だな」
「予定はどうなってる感じですか?」
「滞在は一週間を予定してますが……」
「話の進展次第、ですね」
話がすぐにまとまれば早く帰ることもあるだろうし、拗れればそれだけ滞在が長引く可能性もある。
つまりこれはクライヴの手腕次第になるわけだが、どうなることか。
「向こうの狙いがわからないと、こちらも対策のしようがないですね」
「んー……難しいなぁ。上手いこと進められるといいけど……」
ノーチスの新王がどういう人なのかはわからないが、油断だけはしてはならない。
相手の出方がわからないのならば、ひとまずできることをしたくては。
パトリシアはちらりと手元にある手紙をもう一度瞳に写した。
「とりあえずお迎えする準備を。部屋は日当たりが良く、風がよく通る場所でお願いします。部屋の内装ですがオレンジをメインとし、ベッドの生地はシルクを使ってください。食事はスパイシー系をメインとし、デザートはなしか甘くないもので。飲み物はワインを」
「……詳しいですね。お知り合いですか?」
「いいえ。詳しい方に聞いたんです」
隣国だからか、アヴァロンとノーチスは好意的な関係を築けているらしく、双方の王が訪問する機会があるらしい。
アヴァロンはノーチス国王を招待する際このおもてなしをしたらしく、シェリーから教えてもらったのだ。
「厨房にメインは肉にするようにと。侍女は物静かなものをつけるよう。護衛の騎士も最低限にしたいので腕の立つものを一人か二人で」
「……これは、気難しい人がきそうですね」
「大変なことになりそうだ……」
向こうから注文してきたわけではないが、できることなら完璧な状態で出迎えたい。
対面するその瞬間から、政治という名の戦いは始まっているのだから。
「それからワインですが、私の方で用意します」
「……ワイン、ですか? なぜ?」
「必要不可欠だからです」
にっこりと微笑みつつ、内緒だと人差し指を唇に当てた。
パトリシアの手元にある手紙には、ノーチス新王のいろいろが書かれていたが、とある一文が特に誇張して書かれている。
『好物 ワイン』
そしてその下にシェリーの意見が一つ。
『いいワインなら、ローレランにあるじゃない。あれを出すといいわよ』
だからパトリシアは手紙をもう一つとあるところに出したのだ。
一番いいワインを分けてくれと頼むために。
返事はすぐに送られてきた。
『この町最高のワインをお届けします。少しでも恩返しができると、皆喜んでおります』
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