戦闘準備
パーティーまでは少しだけばたついた。
元奴隷たちの村の件も順調に進めつつ、アカデミーではテストがあったり、相変わらずセシリーが空気を凍らせたり。
ちなみにテストの結果はまた学年総合ともにトップをとることができた。
クライヴはまたしても二位で、今回こそはと意気込んでいたからか少しだけ残念そうにしていた。
シェリーは三位、ハイネは九位、そしてなんとセシリーは最下位だった。
まあ留学したばかりでは致し方ないだろう。
そんなわけでばたばたしていたらあっという間にパーティーの日が近づいてきて、パトリシア、クライヴ、ハイネ、セシリーはパーティーに参加するため皇都へとたどり着いていた。
クライヴのパートナーであるセシリーは皇族専用の馬車で、パトリシアとハイネはフレンティア家の馬車でそれぞれ目的地へと向かう。
「いやぁ、しかし。いいんですかね? 俺が公爵家にご厄介になっても」
「むしろよろしかったのですか? 貴賓として皇宮でお過ごしになることもできましたのに」
アヴァロンの王太子として皇宮でもてなしを受けるべきであるのに、本当にこっちでよかったのか聞けば彼は迷わず頷いた。
「俺は王太子ではありますけど、王位継承権の問題があったりアカデミーに通ってたりと、あんまりローレランのパーティーにはきてなかったんです。姉様がそういうの得意で任せてたってのもありますけど」
確かに彼とはパーティーで会ったことはない。
もちろん王太子としてローレランに来ていた時もあったのだろうが、遊び人と噂の立つ王太子と皇太子妃候補を会わせようとは思わなかったのだろう。
実際は遊び人でもなんでもないのだが、確かに少しだけ女性に勘違いさせてしまうような言い回しをすることがあるため、全くの無罪というわけにもいかない。
そんな彼とアカデミーで出会い、まさか今パートナーになってくれるなんて。
運命とは本当にわからないものだ。
「なのでむしろ皇宮とか落ち着かないのでありがたいです。服も用意してもらって」
「こちらがわがままを言ったんですから。お気になさらないでください」
「でも普通は男が用意するものですし……」
別に本当の恋人というわけではないのだから、気にしなくてもいいのに。
どうやって彼に罪悪感を持たせないようにできるだろうか?
ふむ、と考えつつ腕を組んだ。
「……ハイネ様。これはギブアンドテイクです」
「ギブアンドテイク?」
「そもそも今回のパーティー、私がいなければハイネ様は出席されなかったはずです。それをお願いしたのはこちらなので、これくらいさせてくださらないと私の気がすみません。おわかりいただけないでしょうか?」
「…………なるほど」
実際その通りなのでパトリシアの言い分には納得したのか、ハイネは小さく頷く。
彼のおかげで心置きなくパーティーに臨めるのだから、これくらいはむしろさせてほしい。
そんな気持ちを汲み取ってくれたのが、彼の表情が晴れる。
「なら俺は俺の役目を全うするだけですね!」
「役目?」
「シェリーから言われてるんです。パトリシア嬢を完璧にエスコートして、会場にいるどんな女性よりも幸せにしなさいって」
「……シェリーったら」
ハイネは己の胸をドンっと叩くと、軽くウインクをしてくる。
そういうところが遊び人だと噂される原因なのでは、と思いつつもこれも彼のいいところだと黙っておくことにした。
馬車は公爵家の門へとたどり着き、すぐに中へと入る。
出迎えであろう父がいる前で止まると、従者によってドアが開かれた。
軽やかにハイネが降りると、そっと手を差し出される。
本当にエスコートは完璧らしい。
頼もしいパートナーだとその手をとり馬車から降りる。
「ただいま帰りました。お父様」
「おかえり、パトリシア。そしてようこそお越しくださいました、ハイネ王太子殿下。まさか我が家にアヴァロン王国の王太子殿下をお招きすることになろうとは、思ってもおりませんでした」
「申し訳ない。お世話になります」
「このようなところではなんですし、中へ」
父に案内されるがまま、二人は公爵邸へと入る。
すぐに応接間に通され、紅茶やお菓子といったものが出された。
やっと馬車から解放されたと息をついていると、すぐにパトリシア付きの使用人たちがやってくる。
それを見たハイネがパトリシアへと視線を向けた。
「女性は身支度に時間もかかるでしょう。俺に気にせず行ってください」
「ですが……」
「パトリシア嬢の戦闘服、楽しみにしてます」
家に招待しておいて、客人をもてなさないなんてありえない。
けれど確かに身支度にはかなり時間がかかる。
侍女たちもそれを伝えるためにきたのだろう。
ちらりと父の方を見れば、小さく一度だけ頷かれた。
任せろ、と言いたいらしい。
そういうことならお言葉に甘えようと、パトリシアは立ち上がった。
「ありがとうございます、ハイネ様」
「いえいえ。俺ももう少しだけ休んだら準備しますから。お互いがんばりましょう」
「はい。それでは失礼いたします」
頭を下げてから部屋を出て、パトリシアは侍女たちを引き連れて己の部屋へと向かう。
彼女たちの一番前には、乳母の娘でありパトリシアのことを一番わかっているであろうエマがいた。
そんな彼女に、ただ前をまっすぐ見つめたまま告げる。
「最高のパーティーにするわよ」
「かしこまりました」
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