わがままは言ったもの勝ち
「え、パティも行くの?」
「はい。知識を深めたいと思いまして」
「でも危なくない? パトリシア嬢が行っても安全な場所なの?」
「騎士たちを連れていく。俺も行くから大丈夫だ」
「いや、俺たちはお前のことも心配してるんだけど」
「パティ守るって無茶しそうだもん」
「……心配されて嬉しいような、信頼されてなくて複雑なような」
「まあまあ」
クライヴを心配してのことだからいいじゃないかと宥める。
次の日、お昼ご飯がてらカフェテリアで昨日の話をシェリーとハイネに説明していた。
一週間後にはパトリシアとクライヴが一時学園からいなくなるため、二人には話しておかなくてはならない。
なぜパトリシアが行くのかまで説明を聞いたハイネが、深く頷いた。
「移民問題はどこでも大変だよな。うちもかなりバタついた」
「……戦争があれば、人は逃げて平和を求める。仕方ないことだとはいえ、その地に住む自国の民が被害にあうのはな」
「国王だって人間だからな。全てを救うことはできない」
「国を運営するのって、大変なのね……。綺麗事だけじゃすまないんだ」
救いたい人間全てを救えたら、人はここまで苦労なんてしないのだろう。
シェリーの言う通り、綺麗事だけでは生きていけない。
「そっか……。もっとちゃんと考えないといけないのね」
「人を救うには土地も金もかかる。裕福な帝国であっても、それは変わらないだろ」
「正直な話、土地はある。けれど金がない。いや、金ならあるけど……」
「使えないんだろ? 国の金は国民のために使われるべきだ。移民に使うことをよしとする奴らばかりじゃない。特に貴族は」
「奴隷解放でかなり揉めたからな。次もごり押せるとは思えない」
帝国にも人の住んでいない土地はある。
しかしそこを公的に与え、移住をよしとできるほどの余裕はないのだ。
それは金銭的な問題もあるが、人の心が一番の問題である。
奴隷解放案はパトリシアも少し強引に可決まで持っていった自覚があるため、渋るクライヴの反応もわかってしまう。
「ま、うまいこといくといいな」
「……だな」
移民と元奴隷たちを、うまくまとめられればいいのだが。
今からでも色々調べておく必要があるなと考えていると、そんなパトリシアよりも深く悩んでいる存在がいた。
「…………シェリー? どうしました?」
「…………んー…………。ねぇ、それ私も一緒に行っちゃだめかしら?」
「え!?」
「……どうした急に?」
突然どうしたのかと驚くパトリシアたちとは反対に、シェリーはいたって冷静に自身の考えを述べる。
「私も知りたいと思ったの。……あんたたちと話してると、国のこととか知れるでしょ? けどそれじゃ足りないなって思うの。私もパティと一緒。知識を得られる機会があるなら、挑戦してみたいの」
「……シェリー」
「自分でも驚いてる。パティがさ、言ってたでしょ? 己の才能が発揮できる機会があったらどうする? って。あれずっと考えてたの。その一歩を、できるなら踏み出してみたい」
一緒だ。
シェリーもパトリシアと同じように思っているのだ。
「……危険ですよ?」
「パティも一緒でしょ。それにほら、私平民だから二人が知らないことも知ってるし。教えてあげられるわよ?」
どうやら彼女の意思は強いらしい。
ちらりとクライヴのほうを見れば、彼は呆れた顔をしながらも軽く頷いた。
「いいよ。シェリーの分も学園には申請しとく」
「ありがと!」
「一緒にがんばりましょう」
「うん!」
これで決まったとシェリーと二人喜びあっていると、それを見ていたハイネが大きくため息をつく。
「いいなぁ。さすがに俺は一緒には行けないから……一人でお留守番頑張りますよ」
「そっか。行けないんだ」
「友好国とはいえ、他国の問題に首突っ込みすぎるわけにはいかないからね」
「そうじゃなくても安全を確保できてないところに王太子を連れていけるわけないだろ」
というわけで今回ハイネは学園に残ることになるらしい。
少しだけ寂しいなと思いつつも、もっと寂しいのは一人残されるハイネの方だろうとパトリシアは声をかける。
「申し訳ございません。私のわがままで……」
「いえいえ。実際ちょーっとうちの方もバタつきそうなので、最悪一回帰らなきゃいけないかもなんですよ」
「そうなの? 長く帰るの?」
「わかんない。なーんか姉様が企んでそうだから一回ちゃんと話聞かないと」
王女という立場でありながら多彩な才能を持つクロエは忙しい人だ。
実際創立祭の日は学園長に話をしてそのままとんぼ返りしたらしい。
ただ一応その前にハイネとは少しだけ会話をしたようだが。
「だから気にしないでください。実際、自分の目で見て知ることは得難い経験ですから。どんな本よりためになりますよ」
「……そうですね。ありがとうございます」
ハイネの後押しもあり、パトリシアたちは三人で向かうことになりそうだ。
荷物の準備などを進めておかないと、と持っていくものを頭の中でリストアップしていると、クライヴが思い出したように声を上げた。
「ああ、そうだ。パティが来るなら騎士の一人をセシル卿にするつもりなんだけどいいかな?」
「――え、」
セシル卿に護衛してもらえるのならこれほど安心できるものはない。
そう思って二つ返事で頷こうとした時、後ろから何かを落とす音と共に声が聞こえた。
何事かと振り返れば、そこにはクライヴやマリー、ロイドと。
「…………ルージュ様」
驚いた顔をする、セシル卿を崇拝しているクロウ・ルージュがいた……。
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