創立祭開始!
そんなこんなで時は過ぎ、創立祭の日となる。
本当に生徒がやることはなく、着々と進む作業を眺めることしかできなかった。
唯一できたのは入り口ゲートの装飾だけだったので、四人で花を楽しく飾った。
そしてやってきた当日。
学園の中は人でごった返していた。
「……こんなに人がいる所を見たのは初めてです」
「まあ有名な学園だからね。一目見にこようとするやつら多いのよ」
「あとは令息たちに会いにか」
「近くの村の平民たちにとってはお祭りの一つって感じだなー」
確かに露店にはたくさんの人たちが来ている。
これはお祭りと言われても納得してしまう。
「ひとまず最初は露店で腹ごしらえするか?」
「いいんじゃないか」
「葡萄ジュース飲もうよ!」
「ええ。楽しみです」
教師からの注意事項を若干聞き流しつつ、今か今かと皆が待つ。
このふわふわと浮いた感じも楽しいなと、パトリシアもまたわくわくしていた。
ぎゅっと拳を握り締め、頰を赤らめて待っているとついにその時がやってくる。
「では、創立祭開催です! 皆さんルールを守って楽しんでください!」
わぁぁぁっと生徒たちが声を上げながら外へと出ていくのを見てから、四人はゆっくりと歩いていく。
理由はクライヴだ。
クラスを出たクライヴの後ろに、彼の護衛をするための騎士たちが配置されている。
彼らが仕事をしやすいように、パトリシアたちは少しだけ人混みから離れるようにしていた。
「クライヴは挨拶回り的なのしなくていいのか?」
「挨拶してくる人には返すけど、それだけにする。一応俺も生徒だから」
「いいんじゃない? どうせ始まっちゃったなら楽しまなきゃ損だし」
「そうです! 楽しみましょう」
露店で腹ごしらえして、それから騎士のパレードを見て、また腹ごしらえをして最後に舞台を見に行く。
こんなに楽しいことはないなと、ウキウキで歩いていきさっそく露店の場所へとたどり着いた。
「本当にすごい人だかりですね……」
「一応入る時に荷物検査とかはされてるみたいだから大丈夫だとは思うけど、気をつけること」
「はい」
「気をつけつつ楽しもー!」
「……そうよね。よくよく考えればあんたたちみんないいところの出なのよね」
皇子、王子、公爵令嬢。
これだけ見れば確かに護衛の数もその質もかなりのものを用意しなくてはならないのだろう。
まあ最悪の事態になればパトリシアは喜んでこの身を盾にして、クライヴとハイネを守ろうとは思っているが、そんな事態にはならないだろう。
この国の騎士団は優秀だ。
だからきっと、今日という日は無事に楽しめるだろう。
「パティ! 葡萄ジュース! 飲もう!」
「もちろんです!」
「俺はワインがいいなぁー」
「俺も。流石に制服では飲めないけどな」
みんなで片手に飲み物を持ちながら、食べ物を物色する。
ちなみにクライヴ、ハイネ、パトリシアの三人の飲み物は提供前にこっそり騎士たちの検査が入ったようだ。
無事手元にやってきたのにホッとしつつも、そっと葡萄ジュースを口に含む。
「……美味しい」
子供の頃からジュースというものをあまり飲んだことがなかったため、久しぶりに飲んだそれに思わず驚いてしまう。
それこそ幼少期はパーティーの時くらいしか飲まず、成人してからはワインを嗜んでいたため、葡萄ジュースを飲むことに慣れていない。
アルコールの匂いなどもせず、甘く少し酸味のあるそれをパトリシアはとても気に入った。
大人になってから味覚が変わるというのは本当なのかもしれない。
するすると葡萄ジュースを飲んでいると、その間にもハイネとシェリーは食べ物を物色している。
「ソーセージないかなぁ? それかパン。チーズと肉が挟まってるやつ」
「フルーツとかもいいなぁ。甘いもの食べたい」
「クライヴ様は食べないのですか?」
「肉食べたい」
どうやらガッツリ食べたいらしい。
各々食べたいものを手に持ち、堪能することにした。
パトリシアはシェリーおすすめのサンドイッチをいただくことにする。
この際なので礼儀作法なんて無視だとかぶりつけば、チーズはとろりととろけ、肉からは熱い肉汁が溢れ出た。
それら全てをパンが吸い込み、旨味を一切逃すことなく食べることができる。
なんて最高な食べ物なんだ。
「んー、美味しいです!」
「祭りもいいわね。こうやってみんなで行くのは楽しいと思う」
「一応新入生に向けた、周りと仲良くなろうねって意味もあるからな。あとは親御さんがちゃんと学園でやれてるか見に来るってのも」
「過保護だな」
シェリーはわからないが、残りのメンバーの親が来ることはまずないだろう。
きたらきたで大変なことになってしまう。
なのでそういった問題が起こることはないだろうと安心していると、不意に周囲が静かになったことに気がついた。
「……なんでしょう?」
「――………………イヤな予感がするっ」
ハイネの言葉に小首を傾げた時だ。
その人が現れたのは。
「…………」
ただ歩くだけ。
それだけで人々が見つめ、そして道を開ける。
その人のいく先を、無意識にも作り出しているのだ。
老若男女問わずただ呆然とその揺れるはちみつ色を眺めた。
「久しぶり。僕の白百合」
短く切られたはちみつ色の髪と、同色の切長の瞳。
口元のほくろは彼女の色香を醸し出す素材に過ぎず、動きやすいようにと用意された真っ白な騎士服はあまりにも似合い過ぎて、女性だというのに違和感がなかった。
見惚れるほど美しい人は、パトリシアの前までやってくると膝を折り、その手に優しく口づけを送る。
「美しい君に、ずっと会いたかった」
「…………お久しぶりです。クロエ王女殿下」
そう。
彼女こそがアヴァロン王国王女にして、ハイネの実姉。
男装の麗人である。
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