第二章

第二章 順風満帆な学園生活

『拝啓 クロエ王女殿下。お元気でしょうか?

 私は元気にやっております。

 お返事が遅くなり申し訳ございません。

 季節は巡り、気がついたら入学から半年以上過ぎ、学年がひとつあがっておりました。

 学年があがったといっても教室も学友も変わってはいませんので、ハイネ様とも同じクラスのままです。

 とても優しくしていただいていて、感謝してもしきれません。

 同性の友人もできました。

 他にも年上の友人も。

 昔の私には考えられなかった日々を過ごしており、とても幸せです。

 クロエ王女殿下はいかがでしょうか?

 日々を健やかにお過ごしくださいませ。


 パトリシア・ヴァン・フレンティア』



 

「そういえばそろそろあれの時期か」


「あれ?」


 ざわざわとざわつく教室で、パトリシアは、クライヴ、ハイネ、シェリーと話をしていた。

 なにやらいつもより生徒たちが騒ぎ立てているなと思っていたが、その答えはハイネによって知らされた。


「創立祭! この学園が建った日にやるお祝いですよ。外部からも招いてやるので、お祭りのようなものです」


「露店なんかも出るのよ。普段食べられないようなものもあるから最高なのよね」


「…………お祭り……露店……」


 それは建国祭のようなものだろうか?

 夜通しお祝いし、街には市場が出来上がる。

 空が濃紺色に染まれば大きな花火が打ち上がり、皇宮では盛大なパーティーが開かれる。

 パトリシアは皇宮のパーティーには出たことはあるが、露店などには行ったことがない。

 だからそこでどんなものが出されているのか、前情報がなに一つないのだ。


「ど、どのような食べ物が出るのでしょう?」


「おお。パトリシア嬢食べ物に興味があるんだ」


「未知なる味覚を味わうのもまた一興かと」


「それはそう! 俺たちみたいなのはなかなか市場とか行けないからなぁ。こういう時に食べまくらなきゃ!」


 あまり大食いが得意なほうではないけれど、その日だけはお腹がはち切れんばかりに食べなくては。

 ぐっと拳に力を入れて頷いていると、それを聞いていたクライヴが呆れたようにため息をついた。


「なにがそんなに楽しみなのか……。無駄に人多くくるし、露店も大したもの出ないだろ」


「ばっかだなぁ。人が多いのも露店が出るのも楽しいだろ!」


「別に私たちなにかやるわけじゃないし、美味しいもの食べたりして楽しんじゃえばいいのよ」


「なにもしないんですか?」


「学園の三分のニがいいところのお坊ちゃんしかいないのに、なにかできるわけがなくない?」


 確かに……と納得してしまった。

 なにかしら生徒も関わってくるのかと思っていたのだが、どうやらその日は遊んで楽しむだけらしい。


「一応騎士選択のやつらはパレード的なのやるみたいよ? あとは有志でチラホラ。演劇みたいなのとか」


「まあ、楽しそうですね」


「そう? 素人の見てもつまらないと思うけど」


「そういうこと言わないの」


 まあクライヴの言いたいこともわからなくはない。

 皇宮に呼んで演じるものたちは皆プロであり、その実力はお墨付きだ。

 そんな人たちのを見続けているクライヴの目は、まさに肥えているのだろう。


「普段と違うものを見るのも、一味違っていいではありませんか」


「……まあ、パティがそういうなら」


「葡萄ジュースくらいはあるのかしら? 本当は蜂蜜酒が飲みたいんだけど……。つまみにお肉を挟んだパンにチーズをかけて食べるのなんて最高なんだから」


「どちらも楽しみましょう!」


「いいねー!」


 なんだかみんなでお出かけの計画を練っているみたいでワクワクしてきた。

 アカデミーからは基本外出禁止で、休みの日ですらあまり出られない。

 特別な許可が降りない限りは長期休暇くらいしか外に出る機会はないのだ。

 だから四人でお出かけなんてできるわけがなく、なるほど生徒たちがざわつく理由もわかった気がした。


「俺としては外部の人間が来ることの方がいろいろ考えなきゃなんだけど」


「それはそう……」


「どのような方々がいらっしゃるのですか?」


「生徒たちの親族とかよ。あとは卒業生とか。学園周辺に暮らす人たちもくるわよ」


「挨拶とかされるの面倒なんだよな……」


 学園では基本的に身分は関係ないとされており、クライヴに会ったからとて礼をする必要はない。

 けれどそれはお互いが学生という身分だからであり、外からくる貴族たちは話が変わってくる。

 必ずクライヴには挨拶をし、普段は接点のないものたちも話をしようとやってくるだろう。

 それではあまり創立祭を楽しむことはできない。

 クライヴの浮かない顔も納得できた。


「皇子様は大変だなぁ」


「お前も王子だろ」


「俺は隣の国だし。公的な場じゃないし、ここの国の人たちから挨拶される必要ないもん」


「……くそっ、裏切り者がっ」


「へっへーん」


 逃げられたと喜ぶハイネだったが、数日後彼は青白い顔でパトリシアたちの前に現れることになる――。

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