突然の呼び出し

 パトリシアたちが食事を持ち二階へと上がる頃には騒動はおさまっていた。

 シグルドがきちんと収めたようで、これなら落ち着いて食事ができるなと安心する。

 適当に空いている席に座り食事をテーブルに置いた。


「……というか、私までここで食べていいの?」


「別にここで食べちゃいけないなんてルールはない」


「そうだけど……。さっきの見て全く気にせず食べれる図々しさ私にはない」


「気になるなら下でもいいけど、俺たちと一緒だと逆に目立つよ? それにさっきのはきっかけであって問題の根本は違うところだから、大丈夫だと思うけど」


 まあ確かに、シェリーの言いたいこともわかる。

 さっきのを見たあとではいづらいものがあるのだろう。


「申し訳ございません。私がお誘いしたから……」


「あ、あなたのせいじゃないわ! あいつらがギャーギャー騒いだから……。そうね。気にする必要なんてないわ。あの女がだいぶ特殊なだけだもの」


 パトリシアが謝罪をすれば、シェリーは慌てた様子で首を振った。

 そして一人で何かをぶつぶつと呟いたあと、納得したのか己の食事に手を伸ばす。


「あいつらが警戒するのは貴族たちに相手にされそうな女だけ。私は論外だもの。気にする必要ないわ」


「すごいこと言うなぁ」


「だってそうだもの。少なくともあなたたちとどうこうなる未来が私にあるとは思えないわ」


「そもそもシェリー嬢がどうこうなる気がないんじゃ?」


「それはそう」


 ならこの話は終わりだと皆それぞれ食事を楽しむことにした。

 パトリシアは野菜たっぷりのグリーンサラダとチーズの乗った濃厚なクリームパスタ。デザートにはフォンダンショコラをお願いした。

 ここの食事はとても美味しいため日々の楽しみになっている。

 もぐもぐと美味しさに口端を上げながら食べつつ、そういえばと話をふった。


「クライヴ様とハイネ様は選択授業を選ばれていないのですか?」


「もちろん。皇宮にいるうちにしこたま騎士たちにしごかれたから、ここで習うことはないよ」


「俺もですね。己の身を守るために剣術は習ってますが、騎士にはなれないので」


 この学校では選択授業というものがあるらしい。

 これは男子のみが選ぶことができ、数も少ないことから学年は問わず希望者が呼ばれ合同となる。

 内容は騎士選抜に臨むものとなっており、肉体作りから剣、馬、弓などありとあらゆる武器の取り扱いを学ぶものとなっている。


「先ほどのルージュ様とは、そこで一位をとられたかた、ということですよね?」


「ああ、クロウ・ルージュ? マリーの取り巻きの」


 頷いていいのかどうなのかわからず困っていると、クライヴが軽く水を飲んでから説明してくれた。


「そう。この学校でトップをとるには二つの科目がある。一つは普通の学力テスト。もう一つが選択授業の通称騎士テスト。選択授業受けてるやつのほとんどが騎士希望者だから、逆に学力テストには力を入れてない奴がほとんどだよ」


「学力テストは学年別で分かれてるけど、騎士テストは分かれてません。だから基本騎士テストは最高学年がトップをとるんだけど、クロウは十五歳から一位をとってます」


「ちなみにいうならうちの学年トップはクライヴ殿下。総合トップはシグルド・エヴァンス」


 どうやらシグルドもクロウも本当に優秀な生徒らしい。

 クライヴの頭の良さはよく知っていた。

 幼い頃から一緒に勉強する機会があったため、そんな彼が総合で負けるなんて意外だと思う。

 そんなパトリシアに気づいているのかいないのか、クライヴはなんてことなさげに口を開く。


「でも次からはパティが総合トップとるね」


「え⁉︎ いえ、それはどうでしょう……?」


「少なくとも僕はシグルドを見ても脅威とは思わなかったよ」


「なのに総合では負けたの?」


「お前……あとで覚えてろよ」


 こわいこわいとさして怖がってもいないのに口にするから、クライヴの眉間の皺がもっと濃くなった。


「……卒業できればそれでいいからな」


「それはわかる」


「お前はもう少し勉強しろ」


「フレンティア嬢に教えてもらえるなら頑張ろうかな」


「わ、私も! 一緒に、勉強したい……」


「――もちろん! 一緒にやりましょう!」


 友達と一緒に勉強できるなんて、そんなに楽しいことはない。

 絶対テストの前には集まって勉強をしようと決めつつ、残りの料理も食べていく。

 友達と話しながらする食事の楽しいこと。

 パトリシアはとろっととろける濃厚なフォンダンショコラを堪能していると、ふいに近くに人の気配を感じそちらを見た。


「…………」


「…………フレンティア嬢。少し、いいだろうか」


 そこにはシグルドが、なにやら気まずそうに立っている。

 それに噛み付いたのはクライヴだった。


「なんのようだ? あの女を放っておいていいのか? 猛獣には首輪の一つでもつけておいたらどうだ?」


「――……マリーを悪くいうのはやめてくれ」


「パティになんのようなの?」


「……シェリー・ロックス」


 驚いたようにシェリーを見たあと、彼はすぐに視線を逸らした。

 それはまるで悪いことをした子供のような反応で、思わず首を傾げる。


「…………」


「…………」


 二人の間に漂う空気の悪さに、パトリシアは立ち上がるとシェリーに声をかける。


「シェリー、ごめんなさい。このトレーお願いしてもいいですか?」


「それはいいけど……でも、」


「大丈夫。お願いします」


「パティ」


 行こうとすればクライヴに止められそうになるが、それをハイネが制する。


「行かせてあげなよ。シグルドも公爵令嬢に無礼働くほど愚かじゃないよ」


「…………、」


 クライヴが立ち上がりかけた腰を下ろした。

 どうやら行かせてくれるらしい。

 クライヴへ視線で礼を告げ、シグルドと共にカフェテリアをあとにする。


「……」


 すごい視線を感じた。

 たくさんの視線だったけれど、その中に一つ痛いくらいのものがあった。

 きっとあれは、マリー・エンバーのものだろう。

 どうやら面倒ごとを避けては通れないらしいと、人知れずため息をついた。

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