甘えるな完璧主義

 僕は甘えていた。自分の能力というか、実力がないことを許容してくれそうな何かに甘えていた。

 気づけば誰かの目線、意識、関心に反応するようになる。いや、誰かの、という表現は不正確だ。「誰かの、僕に対する目線、意識、関心」だ。ニュートラルに誰かのそれらを感じられるならば、そのニーズに沿った何かを作るためのアイデアを練ることもできるだろう。しかし、そうではない。僕は、僕に対する他者の意識を無駄に、過剰に考えてしまう。自意識過剰というやつか。

 しかし何故そんな状態になっていたのか、ふと考えを巡らせてみた。そして行き着いたのが、甘えである。


 僕は、怯えていた。いつ、何時、誰かが僕に後ろ指をさして笑うんじゃないかって。それが怖くて仕方がなかった。恥が怖い。耳が痛い。見たくない。現実なんて聞きたくない。

 だから、求めた。自分を否定しないぬるま湯を求めた。そこでは居心地が良かった、自分の非力さを忘れることができた。


 でも、思い出す。僕は自意識過剰だから。僕は僕が、非力で未熟であることを知っている。その圧倒的な自覚からは、どんなぬるま湯でも忘れることはできない。ずっと、ずっと僕は僕を見ている。

「お前は何をしているんだ? そんなことをしている場合か? 息抜きと称してまた自分の現状から目を背けているんじゃないのか?」

 やめろ、やめろ、聞きたくない。けど、聞くとかそういうのではない、心の中から語りかけてくるのは、僕自身だ。僕が僕に警鐘を鳴らす。どころか頭を鐘にぶち当てるような衝撃を、毎日毎日繰り返す。


 いい加減耳が麻痺してきたところで、僕は僕に語りかけるのをやめない。耳とか関係ないんだから。ずっと聞こえる。僕は僕を急き立てる。


 これこそが完璧主義。自らの汚点を認めず、少しの欠点に過大な恥を覚え、常に自分を攻め続ける心の病。


 これの対策は、失敗に慣れるしかない。失敗しろ、試して、転んで、それでも起き上がってくれ。僕。死ななければ人間やり直せるから。犯罪を犯さなければある程度修正が利くから。怪我しなければ、リトライは早いから。

 立ってくれ。そして一旦決めたらしばらく迷いなく進み続けてくれ。進めば見えてくるから。拙くてもいいから。世の中の上位互換と比べなくていいから。やりきったって気持ちを抱ければいいから。そして次もまた走り出せばいいから。

 何なら目隠ししても良い。非合理でも意味不明でも不可思議でも奇天烈でもおっぺけぺーでも、ある程度距離が走れれば、今と違った景色が見えるから。

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僕がモチベーションを高めるための最悪な短編集 こへへい @k_oh_e

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