暗黒の使者と勇者セシル

 ここはバルルゼア草原。暗雲立ち込めダークに染まる空に周囲は暗く夜かと見間違いそうだ。

 そんな中ここに残った転移者たちは持ち場についていた。

 幸たちも城の外に出て暗黒の使者を待ち構えている。


「随分時間がかかってるな」

「幸、前もこんな感じだった」

「なるほど……それはそうと達基、中の護り大丈夫なのか?」


 そう言い幸は達基をみた。


「ああ、とりあえずキースさんに強化してもらったからな」

「そうか。それにしても待ってるのが、なんか苦痛だ」

「確かにな。でも苛立って、ペースを乱さないようにしないと」


 そう達基に言われ幸は、コクッと頷く。

 そうこう話をしていると空に黒い閃光が走る。それと同時に空の至る所に魔法陣が展開されていった。


「……来たな」

「いよいよか……」


 そう言い達基は大剣を構える。

 周囲を見渡したあと幸は背中のバトルアックスを持ち構えた。

 それを待っていたかのように魔法陣が発光する。それと同時に魔法陣から光の柱が地面へと伸びていった。

 その光の柱に人影? いや、異形の影が現れる。


「アレが暗黒の使者か……」

「幸……ああ、そうなる」


 そう言い達基は少し先に居る暗黒の使者へ視線を向けた。

 暗黒の使者は姿を現した順に光の柱から出てくる。

 それをみた幸と達基は暗黒の使者へと向かっていった。

 他の場所で待機していたミクセアと星奈とコリュカとミフェナも暗黒の使者へ向かい攻撃していく。

 波留とライゼルとキースも個々の役割通りに攻撃とサポートをしながら暗黒の使者へ向かっている。

 ここに居る転移者や戦える者たちも暗黒の使者に攻撃を仕掛けていった。

 だが、そう簡単に倒せる訳もない。そう暗黒の使者の強さは予想よりも強かったため負傷し倒れていく者が続出する。


 ここバルルゼア草原だけではなく各地でも暗黒の使者が現れて、みんなで協力し合い戦っていた。

 いや、それは一部の地域だけだ。

 中には暗黒の使者の攻撃から逃げる転移者もいる。それだけならまだいい方だ。そう転移者同士で戦い始める者まで現れたのである。

 もっと酷い者たちは民家に押し入り犯罪をする者までいた。

 これらを止められる者は全て暗黒の使者へと向かってしまったから余計だ。

 かなり治安が悪くなっていた。どうみても地獄絵図である。


 ◆◇◆◇◆◇


 ここは、この世界の東側に位置する大陸ウカルボ。この大陸の中央にある町ツバルティアナだ。

 この町に誰かが結界を張ったらしく戦えない者は全て、ここに避難している。

 そして町の外には数名の転移者と、この町で戦える者が暗黒の使者へ攻撃していた。

 その中に一際目立つ女性がいる。身なりは、どうみても某ゲームに出てくるような勇者装備を纏っていて痛い感が半端ない。

 だが大剣を振り暗黒の使者を倒す姿は、まさに勇者そのものである。

 そうこの女性が勇者セシル・リリムテス、そしてミクセアの母親だ。……どうやら本当に生きていたらしい。

 勇者と云っても異世界から召喚された者ではない。この世界の者であり勇者の称号を神殿で授かっている。


「……いつになったら暗黒の使者が、こなくなるのよっ!」


 そう言い息を切らしながらセシルは襲いくる暗黒の使者を斬っていくのだった。

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