誘い込むと話し合い

 ここはザルべドルの町の倉庫街。

 辺りには、無駄に倉庫が至る所に建っている。


 あれから幸とミクセアはここに来ていた。


「まだついて来てるか?」

「コウ、ええ……なんのつもりなのでしょう?」

「襲ってくる様子もない……よく分からないヤツラだな」


 そう思い幸は立ちどまった。

 それをみてミクセアも、歩みを止める。


「どうしたの?」

「いや、何か話したいのかもしれないと思った」

「あの二人が?」


 そうミクセアが言うと幸は頷いた。


「ああ……もしそうなら、聞くだけでもいいかと思ったんだ」

「そうねぇ……その方がいいかもしれません。それに……もしもの時は、私が援護しますので」

「ありがとう……じゃあ、適当なとこにあの二人を誘い込もう」


 そう言うと幸は、周囲を見回す。


「んー……この倉庫って、勝手に入っても大丈夫か?」

「ええ、今は使われていない倉庫ですので……大丈夫ですが。もしかして……コウ、二人っきりでこの倉庫に入るのですか?」


 そうミクセアは言い顔赤らめる。……何かを想像したらしい。


「そうだが……最初だけだ。恐らくあの二人も、あとからくるだろうからな」

「あーそういう事ですのね」

「ん? 他に何かあるのか」


 そう言い幸は首を傾げた。


「いいえ、そうですね。ですが、倉庫よりも路地裏の方がいいのでは?」

「なるほど……その方が、変に勘繰られないな」


 そう幸が言うとミクセアは頷く。

 その後ミクセアの案内で幸は、路地裏へと向かう。

 それをみて波留とライゼルは、二人のあとを追いかける。


 ◆◇◆◇◆◇


 幸とミクセアは広めの路地裏まできた。

 すると波留とライゼルが姿をみせる。


「お前たち……何の用がある?」


 そう幸に言われ波留とライゼルは、ビクついた。


「あーごめんなさい。だけど……えっと、話をしたいなぁ……と思ってな」


 幸が怖いらしく波留は、ビクビクしながら応える。


「話か……急ぎのことなのか?」


 そう幸が聞くと波留は、ブンブンと首を横に振った。


「急ぎじゃない。でも、聞きたいことがある」

「なるほど……話せることなら構わない」


 そう幸が言うと波留は頷く。


「さっきも聞いたけど……やっぱりお前は、俺と同じ世界の者だよな?」

「それだけか……もしそうなら、どうするつもりだ?」


 そう言い幸は波留を見据える。


「どうもしない。それとお前は、森の怪物と何か関係あるのか?」

「……いいや、関係ない。って云うか、お前こそ関係ないのか?」


 そう問われ波留は首を横に振った。


「俺は関係ない。そうか……良かった。お前が森の怪物と関係ないなら頼みがある」

「……それを信じろと? それに、いきなり頼みごとって……意味が分からない。そもそも、お前が何者か分からないのに信用できる訳ないだろ!」


 そう言い幸は、ジト目で波留をみる。


「そうだな……自己紹介が先だった」


 そう言い波留は、自分の名前とこの世界に来た経緯などを話した。


「……壁と野でかべの、波と留ではるか。読みにくい名前だな。そうだった俺は、日比野幸だ。漢字は……」


 幸は漢字を波留に教える。


「幸か……よろしくな」

「よろしく……って言いたいが。まだ波留、お前を信じた訳じゃない」

「幸、用心深いな。まぁ……そのぐらいがいいんだろうけど。特に同じ世界の者が敵なんだからな」


 それを聞き幸は不思議に思った。


「もしかして、女神に頼まれたのか?」


 そう幸に問われ波留は首を横に振る。


「いいや、違う。この三年間……能力者が悪さをしている所をみてきた。本来やらないといけないことを放棄してな」

「なるほどな。それで真面な、同じ世界の者を探していたって訳か」

「ああ、そういう事だ。それで、俺の仲間にならないか?」


 そう言われ幸は、どう返答するか悩んだ。


(どうする? 波留が嘘をついているようにみえない。そうだとしても……俺が無能力者だって聞いたらガッカリする。

 いや、それだけじゃないだろう……それなら断った方がいいのか? んー……どうしたらいいんだ)


 そうこう考え幸は、頭を抱えていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る