空腹とメンチを切る

 ここはザルべドルの町にある商店街。

 幸はミクセアに町を案内してもらっていた。

 歩きながらミクセアは、幸の背中に背負っているバトルアックスへ目線を向ける。


「コウ、背負っていて重くないのですか?」

「ん? ああ、バトルアックスか。重いが、問題ない。却ってこのぐらい重い方が鍛えられるだろうしな」

「そ、そうなのね。でも意外でしたわ、コウは見た目よりも……肉体派だったなんて」


 そう言いミクセアは、ポッと顔を赤らめた。


「そうか? 自分ではそう思わないが。まぁ……元々体を動かすのが好きだからな」

「んーコウの場合は、体を動かすと云うよりも……鍛えるじゃないかしら?」

「なるほど……確かにそうかもしれないな」


 そうこう話をしながら二人は、古ぼけた建物の前までくる。そこは、食堂だ。


「ここって、食事をする店だよな?」

「ええ、そうね。だけど、どうしたの?」

「いや、やってるのかと思ったから」


 そう言い幸は食堂の外観を見回した。


「やってはいるわよ。だけど……町がこんな状態だから、経営難って言ってたわね」

「そうなんだな。因みに、美味しいのか?」

「そうねぇ……私は美味しいと思うけど。コウはどうかしら?」


 そう言われ幸は首を傾げる。


「どういう事だ? ミクセアが美味しいなら、そうだと思うんだが」

「んーそうね……でも、コウの世界の食事と多分違うと思うのですけど」

「そういう訳か。そういえばこの世界で、まだ食事してなかったな。そのためかお腹すいてるのは……」


 そう言い幸はお腹を摩った。


「それだけじゃないと思いますよ。結構、動きましたものね」

「そうだな。まだこの世界に来たばかりなのに、かなり動いた」

「そうですわ! この店で食事をしていきましょう」


 それを聞き幸は頷く。

 その後、二人は店の中に入ろうとする。

 すると二人の男が店の中から出てきた。

 幸はその二人の男と目が合う。


(ん? 黒髪……。この世界にも、似たような髪色の人も居るんだな)


 そう思い幸は店の中に入ろうとする。


「おい、待てっ!?」


 二人組の一人、黒い髪の男は幸の腕を掴んだ。

 腕を掴まれて幸は、その黒髪の男の方を向いた。


「いきなり、なんですか?」

「お前……この世界の人間じゃないな」

「……」


 そう聞かれ幸は、応えていいのかと悩んだ。


「なぜ黙る?」

「さあな……そもそも、なんでそう思う?」

「俺と同じ匂いがするからだ。いや、同じ髪色だからか」


 そう言われ幸は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ってことは、お前は異世界の者って訳だな」

「ああ、そうだ。だが、その言い方……お前は違うのか?」

「どうだろうな……まぁ俺は、お腹がすいてる。お前とここで話している暇はない」


 幸はそう言うと黒髪の男をみてメンチを切った。

 その後、幸は食堂の方を向くと中に入っていく。

 それをみたミクセアは、目を輝かせながら幸のあとを追って店の中に入る。


「クソッ、なんなんだアイツは……。睨みを利かせてきやがった」


 そう言いも怖かったらしく黒髪の男は、ビクビクしていた。

 その隣では、緑色の髪の男が顔を青くしている。

 そして、この二人の素性はあとで分かるのであった。

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