先行投資

 幸は悩んでいた。真実を話すか、それとも何か適当な能力を言おうかと考える。


「どうしたのかね? 急に黙って、まさか能力について言ってはいけないのか」


 そうブロバルに問われ幸は、天の助けだとばかりに頷いた。


「あ、はい。実は……そうなんです」

「まぁ、そうなのですね。それは申し訳ありませんでした」


 そう言いミクセアは頭を下げる。

 それをみた幸は申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、ゴクリとその思いを吞み込んだ。

 二人がそれらに対し無知で助かったようである。


「うむ、そうだな。そうなると……この世界の金もないだろう」

「はい、そのため……すぐには行動できません。んー……どこか働ける所ってありませんか?」


 それを聞き二人は驚いた。


「働く? 君……いや、コウ様がですか!」


 ブロバルの態度が、あからさまに変わっている。


「勿論です! ですが、なんで驚くんですか?」

「あーいや、勇者であるコウ様が普通に働かれるなどあり得ないと思ったのでな」

「はあ、ですが……働かなければお金は手に入りませんよね?」


 それを聞きブロバルは更に驚いた。


「確かにそうですが……そうですね。分かりました……少々お待ちください」


 そう言いブロバルは、何かを決心したように席を立つ。そして部屋から出て、どこかに向かう。


「あ、あのー……ブロバルさんはどこに行ったんですか?」

「コウ様、そうですね……私にも分かりませんわ」


 そう言いながらミクセアは、顔を赤らめ幸をみている。


「そういえば、ミクセアさんは……結婚しないんですか?」

「コウ様、さんはいりません……ミクセアとお呼びくださいませ」

「あ、そうですね。み、ミクセセア……」


 親しい友人〔男〕にしか呼び捨てで名前を言ったことがなかったため、幸は噛んでしまった。


「クスクス……コウ様、セが多いですわ。あ、質問の回答ですが……内緒です」

「あ、すいません。そうですよね……ハハハ……」


 そう言い幸は苦笑する。


(んー間がもたない。さて、どうする? それにしてもブロバルさんは、どこに行ったんだ。いつまでも、ここに居る訳にもいかないしなぁ)


 そう思いながら幸は、ひたすらブロバルを待った。

 その隣ではミクセアが幸をみつめている。

 しばらくして、やっとブロバルは戻ってきた。それも使用人と一緒にである。その使用人は男だ。


「すまんな。荷物を運ばせるのに手間取ってしまった。それで、これを受け取って欲しい」


 そう言うとブロバルは、使用人に指示を出した。

 すると使用人は、持って来た荷物を幸の目の前に置く。

 それは、この世界のお金と長剣や軽装備である。


「これって……嬉しいですが、受け取れません」

「そう言わず、もらってくれ。私は、コウ様のことが気に入ったのだよ。んー……そうだな、これは先行投資だと思ってくれていい」


 そうブロバルに言われ幸は悩んだ。


「そうだとしても……」

「コウ様、私からもお願いします。お父様が、ここまですることは滅多にありません」


 ミクセアに言われ幸は考えたあと決心した。


「分かりました! ありがたく頂きます」


 そう言い幸は、深々と頭を下げる。その後、お金をリュックに仕舞う。そして、着替えるため別室へと向かった。

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