素性を明かす
ここはザルべドルの町。そして、町長の屋敷だ。
あれから幸はミクセアの案内でここにくる。
そして現在、幸は町長の屋敷の客間にいた。
幸はソファーに座り目の前に居る町長と話している。
因みに幸の隣には、ミクセアが座っていた。
町長の名前はブロバル・リリムテス、五十三歳である。
ミクセアとは似ても似つかない。……多分ミクセアは母親に似ているのだろう。
お互い自己紹介を済ませるとブロバルは話し始めた。
「うむ、まさかミクセアが男を連れてくるとはな。いつから付き合っている?」
「ちょ、ちょっと待ってください。ミクセアさんとは、そんな関係じゃありません。それに会ったばかりですし……」
突拍子もないことを言われ幸は、声が裏返ってしまう。
「お父様、なぜそういう発想をするのです。そもそも私は、結婚などするつもりなどありません。前にも言いましたが……」
「やっとその気になったのかと思ったのだが……残念だ。それで、いったいなんの用なのだね」
急にブロバルは態度を変えた。
それに対し幸は困惑する。
「あ、実は……ミクセアさんに聞いたんですけど……」
そう言い幸はこの町について聞いた。
「なるほど……だが、聞いてどうするつもりだ? その前に、君に何ができると云うんだね」
「それは分かりません。だけど、もしかしたら……何か解決策がみつかるかもと」
「解決策、か。フンッ、仮に話したとしてだ。君も、無理だと諦める」
ブロバルはそう言うと、ジト目で幸をみる。
「じゃあ、断らなければ話してくれますか?」
「ああ、いいだろう。だが、本当に大丈夫なのか? そんなことを言っても」
「はい、もし自分には無理なら……それを行える対策を考えたいと思います」
そう幸が言うとブロバルは、本当に大丈夫なのかと思い考えた。だが、幸の言葉に賭けてみようと考えがまとまる。
「……分かった……話そう。だが、念を押す……断るなよ」
そうブロバルに言われ幸は頷いた。
それを視認するとブロバルは話し始める。
「実は、数年前に……この町の近隣にある森に巨大な魔獣が住みついてな。そのせいで、あの森を抜けてくる行商人がこの町にこなくなったのだ」
「お父様、それは私も知っています。確かそのことは、国の方に連絡が行ってるはずじゃ」
「ああ、冒険者ギルドにも依頼してある。だが、未だに討伐されておらん」
そう言いブロバルは、難しい表情で一点をみつめた。
「なるほど……巨大な魔獣、か。それだけしか、分からないのですか?」
「うむ、調査に向かった者が……それ以上のことは調べられなかった」
「そうなると……むやみに戦いを挑むよりも、ちゃんと調べてからの方がいいかもしれませんね」
それを聞きブロバルは驚く。
「まさか、これを聞いても無理だと思わないのか?」
「無理かどうかは、やってみないと……それに駄目かどうかも何もしなきゃ分からない。だから、今やれるだけのことをしてみます」
「そうか、では引き受けてくれるのだな」
そうブロバルに聞かれ幸は頷いた。
「はい、ただ……すぐには動けません。装備をどうにかしないと……」
「ん? そういえば、冒険者にしてはみたことのない服装だな」
そう言われ幸はどう応えようかと考える。
(……手紙には、別世界の者だと言ってもいいって書いてあった。でも、流石に……能力なしの異世界人ってどうなんだ? でも……ここは言った方がいいよな)
そう考えがまとまると口を開いた。
「信じてもらえないかもしれませんが、俺は……この世界の者じゃありません」
「なるほど……そのためか、度胸がいいのは」
「あーえっと……驚かないんですか?」
幸はブロバルの対応に拍子抜けする。
それと幸の隣にいるミクセアも、ただニコニコしているだけだ。
「ああ、異世界の者は遥か昔に……この世界へ何度か訪れているらしい」
「ですが、そうだとしても……」
幸は困惑している。
「まぁ、いいじゃないか。それで、なんの能力を授かっているのだ?」
「ですね。神が選んだ勇者さまですもの、凄い能力を持っているはず」
そう言いブロバルとミクセアは、目を輝かせ幸をみた。
どうやら二人は、かなりのミーハーらしい。
期待の眼差しで二人にみつめられ幸は、流石に無能力なんて言えない。そのため、なんて言ったらいいのか迷った。
(どうしたら……困った。ハッキリと真実を言うか? ……でもなぁ)
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