トリ、敢へず

結丸

第1話

 うぐいすは我慢ならなかった。

 鳥たちによるのど自慢コンサート。

 その順番がまさに今発表された。

 コンサートの最後、大トリを飾るのは自分だと思っていたのに。


 この日のために必死に練習した。

 うぐいすは鳴くのが下手だった。

「ホゲギョッ」と鳴くたびに「ママー、あのうぐいす、声が死んでる」「今のってうぐいすの断末魔?」と、人間に散々好き勝手言われてきた。

 それに腐ることなく、毎日必死に鳴いて、鳴いて、時には泣いて、鳴き続け、ようやく最高の美声を手に入れたのである。

 そして意気揚々と今日という日を迎えたのだ。


 だというのに、トリを飾るその役目には「つぐみ」が選ばれた。

 茶褐色の羽、黒い点々が洒落たお腹。

 黒い線の入ったつぐみの顔を、うぐいすは恨めしそうに睨んだ。

 すると視線に気付いたのか、つぐみが自分の元までやってくる。


「……やあ、つぐみ。トリに選ばれておめでとう」


 うぐいすは悔しい気持ちを押し込んで、つぐみを祝う。


「ありがとう」


 つぐみは「くいっ、くいっ」と鳴いた。良い声だ。悔しくて涙が出そうになるのを必死にこらえる。


「そして君もおめでとう」

「え?」


 意味が分からず、首を傾げた。

 大トリを飾ることにばかり一生懸命だったうぐいすは、1番最後に歌う鳥しか確認しなかった。つまり、自分の順番をまったく確認していなかったのだ。


 つぐみが順番表を見せる。

 うぐいすはそれを見て、白い斑点がついた目を丸くした。

 トップバッターに、うぐいすの名前が書いてある。


「最初に歌うのは君だよ。みんな、美しい君の鳴き声を待っている」


 うぐいすは目がちかちかした。鳥たちの期待に満ちた目が、一心に自分に注がれている。

 雨の日も風の日も、一心に鳴いていた記憶が蘇った。


 あまり目立たない薄茶の体で空を飛び、ステージ代わりの枝に降り立つ。

 そして大きく息を吸い込んで、今までの努力を歌う。


 ──ホー、ホケキョ



「ママー、うぐいすが鳴いてる」

「あら、本当。春が来たわねえ」


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トリ、敢へず 結丸 @rakake

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