エピローグ
4月。桜も満開にして新生活シーズンだ。
温かな陽だまりが気持ちいい。これじゃ席に着いたら一瞬で寝てしまいそうだ。
周りから奇異の目で見られている気もするが気にしない。
注目を集めてるのは俺じゃなくてテールだし。見慣れない整った顔立ちの外国人が珍しいんだろう。
本人も視線なんて気にせずクラス発表の掲示板を確認している。
テールの名前はカタカナなのでわかりやすい。漢字ばかりの文字列の中で良く目立つ。
「あったぞ」
テールが指を刺した先、俺たちの名前は隣り合っていた。
岡町とアルネウスで名前順出席番号も連番だったのだ。
「トウヤと同じクラスのようだな」
「……絶対に偶然じゃないよな」
なんせ裏口入学だからな。
「正直、今更学業に専念する意味などあるのか?
図書館で学術書を読めば問題なかろう。そも、論文とてインターネット検索で観覧できるではないか」
基本的に読めば理解出来るタイプのハイスペックめ。俺と通えるぐらいしか利点が無いとまで言い切りやがった。
俺が死なない為にする護衛の延長程度に捉えてそうだ。
「単位だよ。前にも言った通り、世の中高卒資格があればなんとかなる。
後はコネ作り。お前の兄ちゃんも世界を旅してたくさん仲間が居たんだろ?」
「なるほどな。家庭教師の付けられてる貴族子女が学園に通うようなものか。あとは連日夜会に繰り出したり」
それと一緒だと付け足す。
コネは無くて困るもんじゃない。あればあるだけ自分の命綱に繋がるってもんだ。
「じゃ、言われたことは覚えてるな」
「無論」
これはマスターと一緒に確認した
平凡に日本で生きていく為のもの。
「魔法は人に見せるな。魔法を外で日常使いするな、などと不便な生活を強いられるとは」
「見つかったら騒がれて煩くなるんだから仕方ねぇだろ」
わかっている、と心底面倒そうな顔をした。
けれどもこの規則にはひとつ例外があって。
「でも、ナニカに絡まれてどうしようもなくなった時は――」
「うむ。塵ひとつ残らず抹殺しよう。相手が人間であれば身体さえ残さなければ行方不明扱いとなろう」
「そうだけどどういうのやめろって」
既に倫理観が行方不明だ。
ただでさえ梅見ヶ丘って他の街より行方不明者が多いのに。
その一助を担わないことを願う。
「そういえば、学校は自由制服ではないのか。此方をはじめ、似たような服を着ている連中が多いぞ」
「女子とかは基本なんちゃって制服だよ。俺も服とか考えるのめんどくせぇからセールで同じ白シャツ買い貯めしてるし」
朝の10分は昼間の1時間に相当するぐらい大切な時間だ。
服を考えて時間が潰れるなんてやってられるか。
「気になるんだったらテールも制服っぽい感じのやつ買っとくか?」
「オレはパーカーでよい。だが新しいものは欲しいな。此方の服を着ていたが、些か小さくなってきた」
「はは、一生それ着てろ」
栄養なんて全く考えてない食事ばっか好む癖に。
最近追い抜かれた身長にちょっとばかり思う所がある。めちゃくちゃ気にしてる訳じゃないんだけどな!
「ま、さっさとC組の教室に行――っわ、」
「ひゃっ」
後ろから軽い衝撃。
ぐらつく俺の手をテールが引く。
だから俺は倒れずに済んだけど、後ろには尻餅をついた女の子。
大人しそうな、長いおさげ髪の文学少女風の子だ。
「大丈夫か!?」
「ごめんなさい、前見てなくて」
ほんとこういうのは女の子の手を引けよ。
女の子を弾き飛ばしたクソ野郎みたいだろ。俺が。
「いいんだ。俺こそごめん」
「いえ、私こそ――」
テールは興味など無いようで舞い散る桜の花びらを眺めていた。
大量の花吹雪、綺麗だもんな。でも王子様ならレディファースト的な概念ぐらい持てよ。
「五葉!」
お互いにペコペコとしていると彼女を呼ぶ声。
活発そうな少年が手を振っていた。
「居たー! なんでこんな所で迷子になってるの! ……えっと、ごめんなさい、それじゃ」
五葉と呼ばれた女の子は最後にまた頭を下げると去っていった。
「……ほんと興味が無いんだな」
「互いに謝罪し、受け入れたというのにオレが口を出す必要などあるまい」
「そうじゃなくて」
さっきの女の子、漫画ではテールを拾うヒロインちゃんなんだよなぁ。
ついでに彼女の名前を呼んでいた少年こそが漫画“黄昏の魔法使い”における主人公だ。
それを教えるとテールは少しだけ目を見開いた。
すぐに元の平坦な顔に戻ったが。
「……ということは、戦力が必要になればあの男を捕まえて魔法を教えればよいということか?」
「なんでそうなるんだよ」
歴史の修正力みたいに何か感じるものがあるのかと思えば。
ガチめに何もなかったらしい。
「漫画じゃ、あの女の子のことをお前が好きだったんだよな」
「その世界の己の趣味が全くわからぬな」
そうかな……助けられた相手にめちゃくちゃ懐くってのは俺が良く知ってるんだけど。
これを言ったらきっと拗ねて拗ねまくって面倒臭さが爆発しそうなので黙っておこう。
「とにかく、今日は始業式が終わったらマスターのとこで入学祝なんだ。真面目に出席してさっさと帰るぞ」
「どうせ
とはいえ足取りは軽やかに、新しい教室を俺たちは目指した。
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