28 守護のアクセサリー

「なんだ、まだ話し込んでいたのか」

「テール!?」


 気が付くと滑り台の柵越しに俺と同じ視線に居るテール。

 浮いていた。それにしてもいったいいつの間に。


「テールん浮いてない!?」

「あのような異形を見た後でオレが浮遊している程度、些事であろう」


 些事か?

 道端でバケモノに襲われるのと知り合いが浮いてるのって別問題じゃないか。

 どうもテールは魔法を隠すのが面倒なようだ。元々魔法が当たり前文化圏異世界の人間だし当たり前か。


「此方の話が盛り上がっていたようだったからな、気を利かせて退いていたのだが……不審な魔力を持つ魔物を見つけてな。討伐してきたのだ」

「うわあああ! やめろ! 見せんな!」


 褒めろと言わんばかりにテールが掲げたそれ。


 嘴だ。

 なんでそんな気持ち悪いもんを持ってきてるんだ。


「なんだ、討伐の証は耳の方が良かったか?」

「純粋に見たくねぇんだよ。燃やしてくれ」

「此方がそう言うのなら……」


 少し拗ねた顔でテールが視線を嘴に向けると綺麗さっぱり燃えて消えた。

 助かってるんだけど一般人には身体の一部を見せられても刺激が強いんだよ。


「で、不審な魔力って?」

「オレたちの家に来た怪異と同じ魔力を感じて出向いてみれば、キマイラのような魔物がいたのだ」

「鼎関係で確定だな」


 予想通りだ。

 鼎はコクーンハイツに取り込まれた魔力を利用して使い魔を生成していた。

 その過程で、ミスをして逆に死亡したんだ。


 そのミスに関してもあたりをつけている。あの黒い靄の怪異が俺の部屋に出た翌日。

 テールが部屋に結界魔法を張り巡らせていたのだ。


 恐らくはそれで魔術式の流れが変わったんだろう。

 テールもマンションの守護に関係が無さそうで無駄な術式を壊したと言っていたし。


「ほんっと来てくれて助かった」

「帰りは一緒にスーパーへ行くと言っていたではないか。今日は春巻きが食べたいぞ」

「おう、コーラも付けるよ」


 ということは紬ちゃんをはじめとした“黄昏の魔法使い”作中で起きていた連続殺人事件は防がれた。

 ってことだよな。


「そうだ、ツムギも無事、送り届けたぞ。……ふむ、ミサワも送らねばならぬか」


 あ、三澤になんて説明しよう。


「ちょっとアタシにもわかるように言って!」


 だよな。

 テールとの話は半ば現実逃避みたいな感じになっていた。


「とにかくテールんもここ座る!」

「なっ」


 浮いていたテールが滑り台の内側へと引きずりこまれた。

 以前に聞いた話だけど、浮遊魔法ってのは不意打ちに弱いらしい。

 無警戒の状態で想像を上回る風が吹くと飛ばされる程度の魔法なのだとか。


 つまりはテールの予想を上回る力で引っ張られたんだ。

 意外というか、三澤って……わりと力強い?


「何。その目」

「なんでもないです」


 いつの間にか公園には子供たちが遊んでいた。道路には道行く通行人たち。

 ともかく、テールが異世界人で魔法使いだと一通りの説明をして。


 あとは幸福の家探しの顛末を。


「凄いじゃん! インスタにあげていい? あーやっぱTikTokのがいいかな」


 第一声がこれだった。


「絶対やめてくれ」

「オレは構わぬぞ」


 なんで乗り気なんだよ。

 インスタとかTikTokが何か絶対わかってないだろ。

 

「見世物になりたいってのか」

「絶対にやめよ」


 この変わり身の早さ。

 一応こんなでも王子サマなので見世物になるのは抵抗があるらしい。

 素直でよろしい。


「でもさ、よく異世界人だとかそういうの信じられたよな」

「だって浮いてるとこ見ちゃったら信じるしかないじゃん」


 やっぱそうだよな。魔法使いだって証明するのってこういうのでいいんだよ。

 想起魔法なんて意味の分からない魔法よりも。


 俺が前世の記憶を持っているのは、きっと元々覚えていたからだ。

 でも成長と共に忘れてしまった。


 そこにテールの創起魔法がかけられて思い出してしまったんだ。


「もしかして氷のお城とか作れたりすんの?」

「出来るが。住むには不適であろうに」

「あはは、んな寒いトコ住む訳ないじゃん! 写真撮るだけ」


「解せぬ」


 そりゃまぁ異世界に映え文化があったらびっくりだしな。

 今も「とりあえず記念に一枚!」なんて写真を撮られている。


「ほら、岡町も入って」

「俺も!?」


 今まで友人と写真を撮った経験なんてないからどうしていいかわからない。

 無難にピースをしておいた。


「ああ、これをツムギに渡しておけ。そうだな……子供が常に身に着けられるような加工をしてもいい」

「キーホルダーみたいな感じ?」


 パーカーのポケットからテールは黒い羽を取り出した。

 受け取った三澤はまじまじと360度くるくる回して確認している。


「まさかさっきの使い魔の羽とは言わねぇよな」

「そうだが――おい、落とすな」


 手を離し、後ろに飛びのく三澤。俺だって引いている。

 テールが指を回すと羽はふよふよとその場に浮いていた。


「なんてもんを渡そうとしてんだよ」


 あんな気持ち悪いもんの一部なんて、嘴よりマシだけどやっぱり嫌だ。


「それは即席で作った守護のアクセサリーだ」

「そんなもん作れたのか」


「本職には劣るがドロップ品の加工ぐらいは出来る。あの使い魔には斬撃無効や衝撃耐性といった特性が付与されていたからな。

 羽の所有者であれば多少のダメージは防げよう」


 こいつなりにいろいろと考えていたようだ。ていうか衝撃耐性なんてあったのか。

 蹴った瞬間すぐさま逃走を選択したのは正解だったようだ。


 立ち向かってたら終わってたな。今更になってゾッとする。


「あ、そうだ。テールんってアタシの自転車修理できない? バババっと魔法でさ」


「元のパーツの寸法、そして素材がわからぬから無理だな。何よりも仕組みがわからない」

「がっかり」


 あの自転車原型がわからないぐらい、ぐしゃぐしゃになっていたな。

 声をだしてあからさまに肩を落とす三澤にテールの視線が鋭くなった。


「……トウヤ。自転車の図面と材質、仕組みの説明書をよこせ」

「んなもんあるか」


 この負けず嫌いが。

 あったら出来るっているのもそれはそれで凄いけどな。


「暫くは電車通学かぁ」

「学校はほぼ街の中心部だしそこまで遠くないだろ」


 今日はもう疲れた。

 三澤を送ったらセキセイに顔をだして、弁当でも買って帰ろう。


 その前に自転車を処理した方がいいかもしれない。

 処理の方法はテールならなんとか消し飛ばしてくれるはずだ。


 もうひと踏ん張りだと俺たちは公園を出ていった。

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