18 占い師

 紬ちゃんは言った。

 怪我をするのは嫌だ。でも、それ以上に周りの人間の悲しそうな顔が見たくないのだと。


 そう明るく振舞う紬ちゃんは、俺の知識にある無残な死を迎えた女の子とはとうてい結びつかなかった。


「紡ちゃんは幸福の家を見つけられるアテがあるのか?」

「アテって?」


「そうだな……家がある場所っていうかヒントみたいなのを知ってるか? 他には、どんな見た目なのか、とか」


 出来ることならやっぱり死なないで欲しいと思う。こうやって関わった以上、出来る限り力になりたい。


「時代劇の人が住んでるお屋敷みたいな所みたい。塀よりも高い真っ赤な椿の花が目印だよ。でも、幸福の家に行った人、みんなどんな家だったか覚えてないんだって。

 気が付いたら空き地の前に立ってるってユイちゃんが言ってた」


 武家屋敷みたいなイメージだな。

 それにしても目印が椿か。正直これは目印に使えそうにないな。今の時期なら普通に咲いてるし、赤い椿なんてそれこそ人気の樹木だ。

 一般人、下手をしたら武家屋敷に住むようなの元へ突撃してしまったら目も当てられない。


「紬ちゃんはずっとひとりで探してたのか?」

「最初は同じクラスのミミちゃんとかアキちゃんとも一緒に探してたんだけど、見つからないから探すのやめるって」


 確かに最初は探検みたいに面白いかもしれないけど、街を歩くだけなら飽きもするだろう。

 ゲームやらいろいろあるこの世の中、幸福の家探しは退屈なものだ。少なくとも、今辛い思いをしていない者にとっては。


「ツムギ、其方はどれほどの期間探していたのだ?」

「まだ一カ月ぐらい。でも、ママがあんまり遠くに行っちゃダメって言ってたからこの辺りだけしか探せてないよ」


「アテもなくよくぞ探し回っているものだな」

「えへへ、探してる最中にも植木鉢が落ちたりして破片で怪我しちゃった」


 小学3年生の女の子が一カ月も歩き回っていたら親も気が気ではないだろう。

 ましてや不幸に巻き込まれるような子なんだ。


 さっきから話を聞いていると、鈍くさいから怪我をしているんじゃなくて不運が降りかかってきたという感じだった。

 本人も回避力が身についているのか、凄いスピードで走ってくる自転車を見つけたりすると距離を置いていたほどだ。


「アテが無い中で探すというのか。街中を探すともなれば骨が折れるな」


 ぎぃ、っと大きくブランコを揺らしテールは脱力する。

 だいぶ漕ぐのが上手くなっているようだ。


「いいや、たぶん探す場所は絞り込めると思う」


 本当にたぶんなんだけどな、と予防線は一応張っておく。

 俺はポケットからスマホを取り出すとテールに見せた。ブランコから降りて、紬ちゃんも一緒に覗き込む。


「ユイちゃんが通ってる塾って何処かわかるかな?」

「三ノ駅の前にある所だよ」


「それなら霧川小学校の他は南坂と三野小学校の子が通ってる訳だ。じゃあ、その校区内を重点的に探せばいい」


 三ノ駅の前にある小学生専門の学習塾は1つだけ。ホームページを開くとどの地域の小学生が通っているのかが掲載されている。


 その校区内で見つからなかったらユイちゃんの友達が更にどこでこの話を聞いたのか辿るしかないけど。広い梅見ヶ丘市を闇雲に探す必要は無くなった訳だ。


「絞れただけマシか……どちらにせよ校区というものは広そうだな」

「いや、こっからまだ絞れる」

「なんと」


 今度は小学校の名前――まずは南坂小学校を入力し、校区を調べる。

 衛星写真に赤い線でぐるりと囲まれた写真が出てきた。テールの言う通り広い。

 でも、紬ちゃんの会話からヒントはあった。


「Googleマップ頼りになるけどさ、空き地を重点的に探すんだよ。幸い梅見ヶ丘は新興住宅地だからマップの更新も最近だし」


「ぐーぐるマップ?」

「これ知ってる! お空から街が見えるんだよテールお兄ちゃん」

「空から地図が見えるとは……それほどの技術が」


 空き地の前に気が付いたら立っていたというのならその空き地を探してしまえばいい。武家屋敷というほどなのだから、それなりの敷地なんだろう。


 武家屋敷、もしくは平屋をひたすらに探すよりも校区内に絞ってそれなりの広さを持つ空き地を探した方が効率は良いはずだ。


 マップを開き、航空写真を見てみると見渡す限り住宅地ばかり。梅見ヶ丘は街の区画がきっちりと整備されている。京都や札幌のような碁盤目状に近い街の作りなのだ。

 だから航空写真だとぽっかりと空いた場所がわかりやすい。


 よかった、思ったよりも少なかった。これで空き地だらけだったらぞっとする。


「テール、空き地に着いたら覆い隠すような魔力の流れがないか視てくれないか?」

「うむ。周囲とあからさまに違う魔力の流れならばオレとて検知できるだろう」


「どういうこと?」

「んーとな、テールは不思議な話とかに敏感なんだよ。とても凄い……占い師? だから頼れるぞ」


 オレは魔法使いだ! という抗議に苦笑する。仕方ないだろ、紬ちゃんに上手く説明できなかったんだ。


 魔法使いなんて職業は日本にないんだから。

 それならちゃんテレビにも出てる占い師って職業を言った方がわかりやすいだろ。


 身近にちょっと特別な人が居て面白いのか紬ちゃんは目を輝かせていた。

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