伝説のトリ

げっと

船乗りはかく語りき

 出港前、ある船乗りはこんなことを口にしていた。


「ウチの旦那ったら大したモンですワ。この海のはるか彼方に、不思議な生き物がたくさんいる未開の島があるっていう話があって、それでウチの旦那は、その未開の島にいるらしい伝説のトリってやつを見つけて、その尾っぽの羽を取ってこようと言い出したんですわ。


 見たことのないトリの尾っぽの羽、そいつはさぞかし価値のあるシロモンなんでしょうなぁ。そいつがいっこあるだけで、旦那さんも貴族としての格ってヤツが上がるようなもんよ。他の貴族たちが羨むような宝探しに、おいらたちが手伝わさせられるんだから、こんなに光栄な事はねぇな。


 ところでさえ、保存の効く食べ物はもうないかね?なんだって、こんなに樽をたくさん積んでいるというに、まだ足りないのかって?そりゃあおまえ、目的地がどこなのか、どれくらいかかるのか、まるで見当がついていないんだぜ?それに、途中で食料の補給が出来るかも保証できやしねえ。そんなところに行こうってんだから、特に食料は多めに準備しておきたいってのは、そんなに不思議な話でもねえだろ?というわけで一つ、よしなに頼むよ」


 大量の積荷を乗せた船は、錨を上げ、帆を張り、沖へ向けて旅立っていった。


 それから、一月ほどしたある日のこと。海岸沿いに、一人の船乗りが漂着してきた。彼を港へなんとか引き上げると、青ざめたような顔でこう語った。


「ウチの旦那ったら大したモンですワ。この海のはるか彼方に、不思議な生き物がたくさんいる未開の島があるっていう話があって、それでウチの旦那は、その未開の島にいるらしい伝説のトリってやつを見つけて、その尾っぽの羽を取ってこようと言い出したんですわ。


 そんな嘘か真かも分からない話を真に受けて、船まで動かそうってんだから、そんな話を聞いた時においらは、まさに開いた口が塞がらないってモンだ。船を動かすには、人が要る、物資が要る、カネが要る。そして、嵐に遭って帰れなくなるリスクもある。ただ事じゃないんだ、船を動かして旅に出るってのは。それなのに旦那ときたら、結局船をだしちまった。


 それで嵐が来て、おいらは海に投げ出されて、このザマだ。他の連中はもしかしたら伝説の島とやらにたどり着けたのかもしれねえが、おいらみたいに船から投げだされたヤツも大勢いるだろうさ。伝説のトリってやつには、結局会えずじまいさ。おいらは運良く近くに浮かぶ樽にこうやってしがみついて、そして運良く近くの港にまで流れつけたがね、他の連中が同じようになってるとも限らねえ。大多数は、あの荒波にざぶんと食われて、今頃、海の藻屑となってるだろうさ。まったく、あんな無茶なことをしでかすような、ばかな旦那だとは思わなかったなぁ」


 船乗りは震える体を抱きながらそう、寂しそうに笑った。


終わり

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