第30話 ようこそ、ダンジョンへ
「……どうしてこうなったんだろう」
時刻は午後4時、後1時間もすれば日が暮れてしまう。そんな時間にも関わらず俺は薬品ギルドにも帰らず、マリエンブルク南西にある今は使われていない下水道の点検用の入り口に来ていた。
15年前までは街の南側全域の下水道として使われていたものの、12年前に発生した地震によって一部が崩壊し、老朽化が進んでいたこともあって新たに別の下水道が造られてからは使用されなくなっている。
まぁ、新設された下水道は街の一部しかカバーしていないから本当ならこっちの旧下水道も再整備する必要があると思うが、街の予算が少ないことに加えて、住民の衛生意識が高くないこともあって毎年のように市議会で下水道の補修工事のことが話題に上がってはいるものの、常に後回しにされているようだ。
しかし、そんな話は今の俺にとっては全く関係のないものだ。それよりも、今重要なことは俺がその使われていない下水道に足を踏み込まなければならないという一点にある。
「はぁ……」
本日何度目か分からない誰にも聞こえないような小さなため息が自然と口から漏れて出てくる。今日の朝は絶好調と言っても差し支えないほど高揚していた気分も、今はジェットコースターに乗っているような感覚で下がっていく。
チラリと視線を点検用の入り口を塞いでるやや錆びついた格子状の扉へ向ける。そこには扉にかかった錠前を外そうとウキウキで鍵を懐から取り出すローラさんとその様子を楽しそうに見ているハンナさん。そして2人の事を引きつった笑みで見つめるマリアさんがいた。
3人共にいつものふんわりとした仕事着ではなく、小柄な男性用の服を身につけ、服の下にはハンナさんが調達してきた鎖帷子を着込んでいる。ちなみに俺も、彼女から手渡された同様の鎖帷子を半ば強引に着せられている。
しかも、俺を含めた4人全員が使い古されたショートソードを腰にぶら下げている。俺としてあんなことがあった以上もう二度と剣なんて持ってやるものかと思っていたにも関わらずこんなことになるなんて……
「おっ、開いたぞ!」
ガチャンという音と共にローラさんの弾んだ声が聞こえてきた。
「いよいよですね!」
今までにないほど興奮気味なハンナさんがそれに続く。
「二人とも、さっき話したことは忘れていないわよね?」
それに心配な気持ちを一切隠せていないマリアさんが微妙に震えた声で二人に話しかけている。
「そんなに怖気づかなくたって平気よマリア!さっ、カズオもそんなとこでボケッと突っ立ってないで早く行くわよ!」
カラカラと笑うローラさんは俺に向かって手招きしながらスタスタと下水道に入っていく。
「中はどんな感じなんでしょう!」
それにハンナさんがスキップするかのように歩きながらついていく。
「ねぇ! 本当にさっきの話したことを忘れてないわよねぇ!」
マリアさん、あんなに大きい声出すんだなぁ……っと、そんなことを考えている場合じゃない。
俺は腰に括り付けてある魔石の入ったカンテラを手に取ると、三人の後を追って下水道の中へと入っていった。
勿論、こんな事になった原因について頭の片隅で考える事も忘れずに……
「そんなことがあったんですか……」
ローラさんから漠然と今日あったことを聞きながら四人分のお茶の入ったカップを乗せたトレイをテーブルの上に置いてハンナさんはそう言った。
――遡る事3時間前、俺とローラさん、マリアさんの3人は冒険者ギルドへと来ていた。
俺とマリアさんに何やら話をしたかったローラさんが、ゆっくりと話をするならいい場所があると言って連れてきたのがここだった。
仕事中に突然押しかけてきた俺達を迎えたハンナさんが自身の休憩を兼ねてギルド本部の一階東にある商談用の個室を貸してくれたこともあって俺達は腰を下ろして話をすることが出来ている。
自分の分のカップを手元に運んだマリアさんはやや不機嫌さを感じさせる声でローラさんに尋ねる。
「それで、わざわざここに連れ出してまで話したいことって何なのローラ?」
アントン捜査官に言われたこともあって、初めは冒険者ギルド本部まで足を運ぶことに難色を示していたマリアさんを半ば強引にローラさんが引っ張ってきたこともあって、いつもの彼女と違ってトゲトゲとした雰囲気を纏っているのが横に座っている俺からも感じ取れる。
「まぁまぁ、そうカッカしなくてもいいじゃないですかマリアさん」
反対に事件発生時に仕事の都合で街におらず、完全なアリバイが証明されているだけじゃなく、街の話題の中心から外れた立場にいるハンナさんはこの状況をワクワクしているようだった。
そもそも、彼女が仕事中に気前よく個室を提供してくれたのも事件の影響で仕事の依頼が激減していて閑古鳥が鳴いていたギルド本部にて暇を持て余していたことが理由の一つでもあるからだ。
「ふふふ、まずはこれを見て頂戴」
ここに来るまでやたらと勿体つけていたローラさんが得意げに懐から取り出したのは折りたたまれた3枚の紙だった。それを彼女は丁寧に広げ、俺達四人が囲んでいるテーブルの真ん中に置いた。
「2枚は市庁舎の見取り図よ。そして最後の1枚はあの日の晩餐会の予定表と対応に当たっていた料理人や使用人の名前の一覧が書かれてあるわ」
フフン、と鼻を鳴らすローラさんだが地図を見たハンナさんとマリアさんの反応は面白いくらい正反対だった。
「わぁ、凄いですね!」
珍しいおもちゃを見た子供のような反応をするハンナさん。
「ちょっと、これどうしたのよ!」
あからさまに動揺するマリアさん。
「ほら、あの日急な変更が二度もあったでしょ? だから管理担当のマーカスさん1人じゃ回らなくなっちゃったみたいなのよ。それであたしが補佐につくことになったってわけ」
「なるほど、それでこういうものを持っていたと」
「そういうこと」
「そういうこと、じゃないわ! ローラ! これ持ち出し厳禁のはずよ! それに最初の調書の時に市警の人に届けなきゃいけなかったことも知ってるでしょ!」
テーブルを強く両手で叩いてローラさんに噛みつくように身体を近づけて怒るマリアさん。俺の中で今までの彼女の温厚でのんびりとした雰囲気のイメージがどんどんと変わっていく。
「別に忘れてたわけじゃないわ……ただ、色々あったからついうっかりしてただけよ」
「それを人は“忘れる”って言うのよ!」
「落ち着いてくださいマリアさん。ねっ、一度お茶をゆっくり飲んで深呼吸でもしましょう」
「……そうね。ごめんなさい、取り乱してしまったわ」
マリアさんは顔にかかった前髪を払ってからハンナさんに言われた様にゆっくりと
椅子に腰をかけてからお茶を一口飲んだ。
「……それで、ローラは私達にそれを見せて何がしたいの?」
幾分か冷静さを取り戻したマリアさんがローラさんに尋ねる。
「ほら、さっきカズオが話してたことがあったでしょ?」
「えっ?」
ローラさんが俺の名前を出したこともあってハンナさんとマリアさんの視線も自然と俺の方を向いた。
「話すって……何を?」
「ここに来る前に理由が分からないことがあるって言って話したじゃない」
おそらく『アルワン』を出る直前に俺が口にしたことを指しているのだろう。
「“動機があまりなさそうな人達に時間的猶予を与えてから拘束する“っていうあの話ですか?」
それを聞いてマリアさんは「ああ」と納得し、初めてそのこと聞いて首をかしげているハンナさんに簡単な説明をした。
「そう、それよ」
他方で俺の発言に満足したローラさんはビシッと人差し指を俺に突きつけて満足そうにしている。
「まぁ、気になる事ではありますけど僕には彼らの意図なんて見当がつきませんよ?」
「その事は良いのよ。ただ、それを聞いてちょっとピンときたものがあったの。これを見て頂戴」
そう言って彼女は使用人と料理人のリストと市庁舎一階の地図を指さす。
「明日赤マント共に呼び出されたのって皆、あの日の一階の厨房担当、もしくは晩餐会が始まる35分前までに一階の厨房、もしくはその近くの控室や備蓄倉庫に足を運んだ人だけじゃないかなって思うのよ」
「どういう意味です?」
「毒を仕込むチャンスがあった人って事よ。おそらく、この時点で一度もこの近くに行ってない人は今回呼び出されていないんじゃないかしら?」
「まさかそんな……」
マリアさんはリストに手を伸ばしてジッと名前を確認する。
「どう、結構いい線いってると思わない?」
しばらく無言でリストを見ていたマリアさんはテーブルにリストを置くと口を開く。
「確かに、私の知る限りほとんどが貴方の言う通りだと思うけど……このリストに名前が載っていない人も聴取を受けることになっているわ。思い過ごしじゃないの?」
「チッチッチ、そこの所も考えたんだけど……マリア、どうしてあたしがさっき晩餐会が始まる35分前って限定したか分かる?」
まるで名回答を思い付いたクイズ番組に出ている芸人みたいな顔をするローラさん。その表情を見ているマリアさんは焦らされていることにイラついてるのか徐々に眉が上がっていくのが分かる……このままだとさっきみたいに爆発しないかな?
「35分前……あっ、そうか!」
しかし、それは杞憂だったようで何かを思い出したマリアさんは両目を見開いた。
「どういうことですか?」
当日その場にいなかったハンナさんが質問する。ちなみに俺はあの場にいたが良く分かっていない。
「配置転換よ。晩餐会が始まる前に急に配置換えが行われたの、それも結構な大人数の」
「どうしてそんなことが? そんな事態になったら現場が混乱するのでは?」
「そう、大変だったのよ! しかも食材が足りないってなって急遽、店から持ってこなくちゃならなくて、そのせいでマーカスさんもいなくて右も左も分かんないような新人相手にあたしが指示だしすることになったのよ!」
ローラさんは当時を思い出したのか、握りこぶしを作った右手をプルプルと震わせている。
「急に、晩餐会の出席者が当日になって3名増えたんです。それと、運送ギルドで雇っていた料理人が来れなくなってしまったことが重なったんです」
怒るローラさんに代わってマリアさんが俺とハンナさんに説明する。
「そんなことがあったんですか」
「ええ、それで料理人を近場のバルカというお店から、食材をローラの勤めているナイムジークの倉庫から持ってくることになったんです」
「その運搬のせいで使用人が10人も足りなくなったから、手の空いている人が代わりをすることになって大変だったのよ。マリアだって全員の服を貸し出していたから店から10人分……確か予備も含めてもっと持ってこなくちゃいけなかったのよね?」
マリアさんは頷く。
「あの日の為に運送ギルドから使用人の人達の服一式を受注していましてので、補充された人員の分も私達が用意することになりました。ただ、寸法の事がありましたので直ぐに用意できるか分からず、色々と大変でした」
「それは……なんというかご愁傷様です」
そう口にしつつも、俺の中に新たな疑問が浮かび上がる。
「それにしてもどうして当日になってそんな問題が?」
「詳しい話は分かりませんが、どうも晩餐会を実質的に主催していた運送ギルド内で何らかの手違いが生じていたようです」
「手違い? 相互間の連絡を何よりも重視していた『グルウィント運送』が中心になっていたのにですか?」
「詳しい話は聞いている時間は私にはありませんでしたし、途中からはカズオさんもご存じの様に控室にいましたので」
「なるほど、それはそうですね。ローラさんは何か知ってますか?」
「あたしもマリアと同じよ。自分の仕事に追われて状況を理解する暇もなかったわ。ただし、あの状況なら犯行を行うには丁度いいと思うわね。ソースの仕込みはもうやってたから、隙を見て入れたんじゃないかしら?」
ローラさんは地図とリストを交互に見ながら言う。
「確かにそうね。短時間に多くの人が出入りしたのはあの時間帯だけのことだから。それに、あの時は皆も時間を気にしてばかりいたから、もしも誰かが怪しい動きをしていても気づけなかったでしょうし」
マリアさんもローラさんに同意しているようだ。でも、俺には一つだけ疑問が残る。
「でも、例えそこで毒を仕込んだとして、その後犯人はどうしたんでしょう? 現場の混乱に乗じて外に出たということですか?」
ローラさんは首を左右に振って否定する。
「それはないと思うわ。あの時、表玄関も搬入口にも警備の人がいたから『バルカ』の料理人以外にリストに記載されていない人が出入りなんてしたら絶対に見つかるはずよ」
「それもそうね……そうなると犯人は内部の人間ってことになるけど、誰も毒を持っていなかったことは事件後の捜査で判明してるし、私も結構いい線いっていると思ったけど……やっぱりアレと事件は関係ないんじゃないローラ?」
途中までは話に乗り気だったマリアさんも俺の指摘を受けて、一連の話に疑問を感じたようだ。それでも、当の本人は自信たっぷりな表情をしている。
「そう、確かに外に出るのは無理だとあたしも思うわ。でも、中からならどうかしら?」
「中から、どういう意味です?」
俺の質問に対し、ローラさんは地図の一点指し示すことで回答する。彼女の指先には小さなマンホールのような物がある。
「これは?」
「今は使われていない下水道の点検用の入り口の一つよ。中庭の茂みに隠れるようにあるの。これがさっきあたしの思いついたことなのよ!」
「……つまり犯人はここを通った、とローラさんは考えているんですか?」
「そういうことよ! 我ながらいい考えだと思うわ! ここなら誰かに見られる可能性も低いし、警備の人間もいない! 毒を仕込んだ後に、この中に隠れれば赤マントの連中も見逃すってわけよ!」
「そんなに都合よくいくんですか?」
俺の質問に対し、勿論と言わんばかりに大きく首肯するローラさん。
「いい、カズオ? この点検口はね基本的に施錠されていて、鍵を持っている人間は限られるわ! でも、その鍵を持っている人ってのはね、殆どがあの日あの場所にいた人ばかりなのよ。偶然にしては出来すぎだと思わない?」
「そうなんですか?」
その問いに答えたのはマリアさんだ。
「確かにローラの言うことに間違いはありません。下水管理のような街の公共設備に関することは大きなギルドは多かれ少なかれ携わっていますので、各ギルドの関係者なら鍵の場所どころか安全の為に直接持ち歩いている人も少ないですがいますので」
「ね、だからそのギルド関係者の誰かが毒を仕込むことが出来る人を一人雇えば万事物事は上手くいくはずよ。何せ、赤マントの連中も毒を仕込まれたはずのギルド側に共犯者がいるなんて思いつくはずもないのだから、点検口のことは見逃すと思わない?」
「うーん、可能性としては捨てきれませんが……」
今までで一番説得力のある話であるが、あまりにも推測に頼る部分も多いし、第一、犯人にギルド関係者がいるのに口にする可能性のある食べ物に毒を仕込むだろうか?
「面白い考えだとは思うけど、それを言うためだけにここに私達を呼んだのローラ?」
マリアさんはマリアさんで俺とは違う質問を彼女にぶつけた。
それに対し、彼女は指を振ってノーの意思を表す。
「あたしの考えはこれで終わりじゃないわ。これだけだとマリアやカズオみたいに納得しない人も出てくるでしょ? だから、あたし達で証拠を見つければいいのよ!」
「「証拠を見つける?」」
俺とマリアさんは声を揃えて同じことを言った。ローラさんはそれを聞いてスッと立ち上がると高らかに拳を振り上げてからビシッと音か聞こえるほどの決めポーズ取りながら地図を指さす。
「だから、あたし達でこの場所を調べるの! もしも誰かがここを通ったのなら何らかの痕跡が残るはずよ。だって、あたしの知る限りここ10年で一度も旧下水道の点検なんて行われていないんだから!」
「その気持ちは分かるけど、どうやって調べるつもりなのよ? 市庁舎は市警の人が厳重に見張っているから鼠一匹中に入れはしないわよ?」
「ふふ、誰が市庁舎から調べると言ったかしら?」
いたずらっ子のような笑み浮かべるローラさんと、それを見て何かを察したかのようにサッと青ざめるマリアさん。そして、先ほどから黙っているもののワクワクを隠せていないハンナさんの3人の姿が俺の瞳に映った。
「街外れの水路脇に今は使われていない旧下水道に入れる場所があるの、そこを通れば見つかる心配もないわ!」
「駄目よ! そんなの危険だわ!」
「……そこには何かあるんですか?」
旧下水道に関する知識のない俺はマリアさんに訊いてみた。
「あそこはただの下水道じゃないんです。まだマリエンブルクが都市として建設される前、かつてこの地にあったとされる城の地下施設、つまり遺構です。それの一部を再利用したのが旧下水道なんです。だから、全体がどうなっているのか使用されていた当時でさえ完全に解明されていないような場所なんです」
「もしかして、それが原因で再整備されてないんですか?」
「それが全てではありませんが、理由の一つではあります。だから、カズオさんからも何とか言ってください」
……ふむ、城の地下、つまりはダンジョンか……なんだかゲームみたいで面白い、ってそんなことを考えている場合でもないか。
「いや、ローラさんの気持ちは分からなくもないですが、そもそも目的の場所に行っても何も見つからないかもしれ……」
「面白そうですね‼」
ローラさんを止めようとした俺を遮るようにハンナさんが鼻息荒く大きな声を出す。あれ、ハンナさんってこういうの好きなの?
「謎に満ちた共犯者の存在! そして閉鎖された旧下水道! なんだか心の奥底から湧き上がってくるものを感じます!」
ついにワクワクを抑えられず、俺の発言を遮ってまで喜びをあらわにするハンナさん。それを聞いたローラさんも満足げだ。
「ハンナならそう言ってくれると思ったわ。ぜひ、一緒に行きましょう!」
「勿論です、何でしたら本部から装備を幾つか拝借しましょう! それなら安全ですよマリアさん!」
「え、ええっと……」
テンションの高いハンナさんに押され気味のマリアさん。右に左に動く彼女の瞳はどのように彼女を説得すべきか言葉を模索しているように見える。途中、視線が合ったマリアさんが助けを求めるように俺を見るので何か言わなければと口を開くが、今度はローラさんが割って入ってくる。
「カズオも当然行くわよね! 真犯人が見つかれば貴方の師匠の疑いも晴れるわよ!」
「え、ええ……それは嬉しい事ですが……」
ダンジョンに入るというのは1人の男として魅力的に感じるが、中に入って具体的にどうするか決まってもないのに……う~む、なんて言えばいいんだろう。でも、そんな俺の葛藤をよそに洪水の様に次々と言葉を浴びせてくるローラさん。
「なら、日の暮れる前に行動しましょう! ほらマリアも、貴方だって大変なんでしょう? 明日になったらみんな連れていかれて仕事も出来なくなるわよ! でも、ここで証拠を見つけて赤マントに突きつければ、その問題も一挙に解決よ!」
いや、ジッとしていろと言われた人間が揃ってそんなところに居た方がダメでしょ、と思ったがそれを口にする前に更に押される。
「なら、すぐに準備しなければいけませんね! 私、武器や防具を持ってきますよ! なんなら、冒険者宛ての依頼ってことにしますか? これでも私、冒険者資格持ってるんで!」
そう言いながら直ぐにも部屋を駆け出そうとするハンナさん。
「あっ、ちょっと待って……」
俺の呼ぶ声が彼女に届く前に俺とマリアさんの前に、ローラさんが仁王立ちする。
「さぁさぁ、2人も考えている時間はないわよ! 夜になったら危ないから、日没までに全てを終わらせなきゃいけないわ! だから、2人もすぐに準備に取り掛かって、ねっ、ねっ、ねっ!」
どんどん圧力を強めていくローラさん。
“ほんのちょっと見に行くだけ、少しでも危険を感じたら引き返す”という条件を付けて俺とマリアさんが彼女に折れたのはそれから5分も経たないうちだった思う。
――それから時間は経過して今に至る。旧下水道に入る自分の姿を今一度確認してから再度独り言ちる。
「……どうしてこうなったんだろう」
あまりにもやる気に落差がある俺を含めた四人組は、曇り空の下こうしてダンジョンに入ることになったのだった。
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