第5話 冒険者ギルド

 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか? 体中に鈍痛が残る中、のどの渇きを覚えた俺は薄っすらと目を開けた。


 「ここ……は?」


 光と共に俺の視界に映ったのは森の木々でもスライムでもなくどこかの建物。その無骨な石造りの天井だった。


 気づかぬうちに俺はどこかの建物に運ばれ、そこに寝かされていたらしい。


 まるで事故に遭った時と同じだな。もっとも、あの時はこれよりも奇妙なところだったけど……


 だが、ズキズキとする全身の痛みは生きている証拠だ。意識か途切れる前の記憶は分裂したスライムに袋叩きにあったことだけど、このように五体満足で生還しているということは誰か助けてくれたってことか……?


 俺はゆっくりと体に力を入れて身を起こす。


「あたた……」


 思わず声が漏れる。あれからどれくらい経過したか分からないけれど当然のことながら傷はまだ完治していないみたいだ。


 まずは意識を失う前にスライムにやられた右手を開いたり閉じたりしてみるが、特に問題なく動かすことが出来る。それに腫れている様子もなく、見た限りは大して問題はないようだ。


 (変だな……あの一撃を受けた時はやばいと思ったんだけど?)


 だが、そんなことを気にしていても始まらない。まずは自分の上半身の様子見るが、別段変わったとこはなく、包帯なども巻かれていない。ただし、服はジャージではなく、作りの荒い麻の物に変わっていた。恐らくここに俺を運んだ人が着替えさせたのだろう、と根拠のない推測を立てる。


 それから周囲を見回し、周囲の状況を確認した。俺の寝かされていた部屋はそれなりの広さがあり、俺のいるベッドを含めて同じ簡素な造りのやつが等間隔に部屋の片側に5つずつ置かれてある。しかし、俺以外に誰もこの部屋を利用していないのか、他のベッドの上には綺麗に毛布が掛けられていて誰かが使用した痕跡もない。


 また、俺の寝かされていたベッドの右横に窓があり部屋の外を見ることが出来るが、数メートルほど芝生が広がっている先に高い石壁があるだけで、それ以外のことは何も分からなかった。


 その時だった。「ガチャッ」と音をたてて、誰かが部屋の中に入ってきた。


 見れば20歳そこそこの女性が一人、手には水差しと陶器のコップの載せたトレイを持っている。


 何処か垢ぬけない素朴さをその顔つきから感じるのは、先ほどまで対面していたスライムを思わせる丸い瞳とそばかす、そしてみつあみにしている黒髪のせいだろうか?


 だが、その服装はまるでルネサンス後期の画家が描く北部イタリアの町娘と言った感じで、現在の東京で見かける様なものではない。


 「あっ、目を覚ましたのですね」


 女性は俺を見ると朗らかな声で話しかけてくる。


 「あっ、ええ、どうも……」


 異世界での初めての会話。どうにも言葉が出てこない……


 「怪我の具合はどうですか?どこか痛みます」


 彼女は俺のいるベッドの隣まで来ると、持っていたトレイをベッドとベッドの間にある小さな棚の上に置いた。


 「……ええ、まだ少し痛みはありますが大丈夫だと思います」


 ステータス画面を見ていないので細かい状態は把握していないが、これくらいの痛みなら大した怪我ではないだろう。


 「それはよかった、昨日ここに運び込まれた時はビックリしましたよ。全身泥と血で汚れていましたし、ぐったりして意識もなかったようですからこれは危ないんじゃないかってハラハラしてたんです」


 「それはご心配をおかけして申し訳ありません……それで、俺をここまで運んでくれたのはどなたなのですか?ぜひともお礼を申し上げたいのですが」


 俺がそう言って頭を掻くと、女性は両手をパンと鳴らして笑顔を見せる。


 「そうですね! アランさん……貴方をここまで連れていらした冒険者の方がいるので直ぐにでも……! それに司教様にも目を覚ましたことをお伝えしなければ! 少し待っていてください!」


 早口でそう言うと彼女は慌ただしく小走りに部屋を出て行った。


 「元気な人だなぁ……」


 バタンッ! と勢いよく扉を閉めて出て行った彼女の姿を見て思わずつぶやいた。


 どうやら異世界でのファーストコミュニケーションはこの状況も手伝って上手くいったみたいだ。


 それにしても冒険者に司教かぁ……なんだかますます古典的なRPGみたいぁ……でも、ゲームの世界ではいきなりスライムにコテンパンにされるようなこともないだろうし、あんな目に合うくらいなら異世界ファンタジー作品みたいな戦闘は金輪際まっぴらだ。


 ううっ……昨日のことを思い返すと体に痛みがぶり返してくるようだ。


 おっと、それよりもまずは彼女が人を連れて戻ってくる前に自分のステータスを確認しよう。自分の状態を知った方が恐らく俺の身体の事を訊いてくる向こうとの受け答えも楽になるだろうし、なによりあれだけボコられた俺の身体が今どうなっているのか知りたい。


 「【ステータスオープン】!」


 まだ数回しか言っていないがもう、こうやってゲームみたいなことをするのも慣れてきたような気がする……俺って意外と順応するのが早いのかな?


 まあ、そんなことを考えるよりもまずはステータスだ。『総合ステータス』の状態を確認しよう。うん?


―――――――――――――――――――――――――――


『名前:坂崎和夫 年齢:23 性別:男』

『総合ステータス』

『身体情報』

『健康状態 *回復制限状態』

『習得技能』


―――――――――――――――――――――――――――


 ステータス画面に見慣れぬ文言がある。『回復制限』? 言葉からは何となくしか分からんな? 俺は『総合ステータス』よりも先に『健康状態』から見ることにした。


 するとほとんどの項目は正常であり、血圧などを含む各種数値に異常は見られなかった。ただ、昨日の戦闘によるものか、筋肉に疲労があるという記述を見つけた。まあ、あれだけやられてその程度で済んだなら御の字だが……


 そして、項目の最後に目的のものを見つけた。


 『回復制限状態(弱)』


 すぐに触って詳細を見る。


 『過去48時間以内に身体修復効果を促進させる魔法が規定回数である10回行使された為、修復促進効果を過度に受けることによる身体への影響を鑑みて、以後24時間の間、同系統の魔法は自動的に4分の1以下に効果を押さえて体へ影響を与える』


 なるほど、俺の身体が思っている以上に元気になっているのは誰かが回復促進の魔法を使用してくれたからか……でも、10回も使用したってことがそんなに俺は深刻な状態だったのかぁ……


 そう思いながらこの項目を閉じようとした時、端に過去72時間以内に俺に対して行使された魔法の一覧という項目が載っていた。


 「これを見ればどんな魔法が使われたのか分かるのか」


 今のところ【ステータスオープン】以外にこの世界で魔法のような特別な力というモノを見ていない。回復魔法というものはゲームでは定番だけどそれが実際どのような効力を俺にもたらしたのかを知るには丁度良い機会だ。


 今の俺は自分でも良く分からないがある意味興奮しているのだろう。何せ【ステータスオープン】は魔法というよりかはゲームシステムのような物であって、本当の意味の魔法とは違う感じが俺の中でしていたから、眠っている間にかけられた回復魔法こそこの世界で初の魔法というものだからだ。まぁ、その初の魔法を眠っていてかけられた時のことを覚えていないと言うのはちょうとなんだが、だがその記録だけでも見て自分が魔法のある世界に来たことを再度実感しよう!

 

 『72時間以内に行使された魔法の一覧』

 

 『身体回復魔法(弱)10回』


「ほうほう、10回とも同じ魔法か……ってこの『弱』って?」


俺は気になって『身体回復魔法(弱)』の文字に触れる。だが、そこには『弱』ではなく回復魔法の簡単な説明が書かれていた。


『身体回復魔法とは、細胞の活性化により身体の回復を促進させ、かつ患部の鎮痛作用及び炎症を抑える効果のある魔法。この魔法を行使された対象は通常に比べ12パーセント治癒速度が向上する』


「へー薬を飲んだり、患部に塗ったりしなくても魔法の力で回復できるってこか……まぁ回復魔法って言うくらいだからそんなものだとは思っていたけど、でもこ『弱』の説明がないな」


 どこかに説明がないものかと思うと、左下に『行使された魔法の出力』と言う項目があった。


 「これかな?」


 それに触れると別のページが開いた。


 『身体回復魔法(弱*出力1・2)』


 そう書かれたものが合計10、行使された時間と共に記載されている。


 なるほど、弱っていうのは魔法の強さに強弱があるってことではなく俺にかけられた回復魔法は本来の10分の1まで力を押さえた状態で10回行使されたってわけか。


 ……何のために?


 何度も力を抑えて同じ魔法を行使することで結果として1回分の力を発揮でいるのかどうかは分からないが、例えそうだとしてもわざわざ1回通常の状態で行使すればよい魔法をなんで10分の1の力で10回も行使したんだ?


 ……いくら考えてもよく分からない。


 分からないことはまず脇に置くことにして、俺は自分の『総合ステータス』を確認することにした。例え微弱な魔法でも俺の怪我を治していることを身体の感覚だけでなく数値でも見たくなったからだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――


 『HP:28/30』

 『体力:10』(*現在値9・疲労/負傷による減少)

 『力:9』

 『速さ:8』

 『防御:5』

 『精神力:2』

 『魔法力:1』


―――――――――――――――――――――――――――――


「……まあ、最後に見た時よりマシだな」


 全快というわけではないようだが、それでも減少した数値が最大値に近づいているだけでも良かった。


 どこか納得のいかない、モヤモヤとした感情が心の中に残っている気がしなくもないが、自分の身体が元気になっていると分かっただけでもいいか……


 コンコンッ


 「あっ、はい!」


 そんなことを考えていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。恐らく先程の女性が戻ってきたのだろう。俺はステータス画面を閉じて彼女が扉を開けるのを待つ。


 「失礼します」


 そう言って扉を開け、先ほどの女性が二人の男性を連れて部屋に入ってきた。


 「おやおやおや、もう身体を起こすことが出来るのですね、それは良かった」


 にこやかな笑みを浮かべてまず俺の傍に近づいてきたのは背の低い男性だった。ゆったりとした赤紫色のローブを着ていて、たっぷりと脂肪のついた下あごを震わせながら笑っている。


 「お怪我の具合はどうですか?」


 「ええ、まだ少し痛みはありますが良くなっているな、という自覚があります」


 「ハンナさんから事前に体調が回復していると聞いてはいましたが、直接貴方の口からその言葉が聞けて良かった。どれ、少し怪我の様子も見ても構いませんか?」


 俺が頷くと、男性は丸くて短い指で俺の手首を触り、「失礼」と言って服を捲って腹回りを確認した。


 「ふむ、貴方の言うようにだいぶ良くなったようですね。これなら半日程ここで横になればもう大丈夫でしょう」


 男は煌めく宝石をつけた指輪をはめた太い右手を顎に当て、小さくうなずきながらそう言った。


 「ありがとうございます。それで貴方はえっと……」


 「ああ、これは失礼しました。私はザカリアス、この街の教会で司教をしております」


 「ザカリアス司教は昨日貴方に治癒の魔法を行使したんですよ」


 司教と同じくニコニコとしている女性……会話の流れからおそらくハンナさんがそう言った。


 「これは、傷を治していただきましてありがとうございます。聞いたところ俺……いえ、僕は随分と酷い怪我を負っていたという事でしたので、治療していただいて何とお礼を申せば良いのか……」


 「いやいや、お礼などとんでもございません。全ては神の御心のままに」


 そう言ってほほ笑むザカリアス司教は首から下げていた何かの装飾を施したアクセサリーを顔の傍まで掲げる……いや、俺の頭の中に『マナス教』のシンボルだと浮かんだので、彼がこの世界で二番目に信徒の多い『マナス教』の司教であることが分かった。


 『マナス教』は博愛と奉仕が教えの根幹にあり、治癒魔法の心得がある司祭がお布施と引き換えに治療を請け負うことがあると……俺の中のぼんやりとした知識が告げている……うん? 何か今気になる単語が脳裏によぎったような?


 だが、記憶を掘り返そうとする俺を遮るようにザカリアス司教が言葉を続ける。


 「それに、私はただ貴方に治癒の魔法を行使しただけで、街まで貴方を担いできたアランさんこそお礼の言葉をいただくべきでしょう」


 そう言ってザカリアス司教はともに部屋に入ってきた男性に目を向け、俺もそれに合わせて視線を移す。


 浅黒い肌に無精ひげ、所々傷についた皮の鎧を身に着けた俺より頭一つ以上は大きい無表情の男性、彼がスライムにボコられていた俺をここまで運んでくれた冒険者のアランさんか……如何にもテンプレートに沿った様な冒険者の容姿をしている、それが俺の率直な感想だ。


 「あっ、そうでした……えっと、アランさんでしたか? この度は助けていただいてありがとうございます。あのままだったらどうなっていたのかと……思い返すだけでも身震いしてしまうほどです」


 細く鋭いアランさんの眼に少しびくびくしながらもお礼の言葉を伝える。


 「いや、礼など要らん。俺はただ自分の仕事をしただけだ」


 アランさんはぶっきらぼうな声でそう返すだけだった……ますますゲームとかに出てくるような人だなぁ、と感じる俺は少々感覚が現実からズレている様な気がしないでもない。


 「ハンナ、見た感じ此奴に異常はないようだから報告に戻ってもいいか?」


 そんなことを考えているとアランさんは俺を右手の長い人差し指で指しながらハンナさんにそう言った。いくら何でも初対面で此奴呼ばわりはちょっとやだなぁ……


 でも、そんな俺のモヤモヤを無視しているアランさんは何処かめんどくさそうな感じを隠しもしない。


 ふと視線を司教に移すと、丸い鼻からフーッと空気を出して、仕方がないと言わんばかりに首を振っている。いつもアランさんはこんな感じなんだろうなと思わせる仕草だ。

 

「あっ、え、その……」


 反対にアランさんの発言を聞いたハンナさんはオロオロしている。こちらとアランさんとの間を視線が行ったり来たりしているのを見ると、彼女としては俺が彼の対応をどう思っているのか気になるのだろうか?


 「僕は構いませんので……アランさん改めて助けていただきありがとうございました。命を助けてもらうのはこれが初めてなのでどのように感謝を伝えれば良いのかわかりませんが、これは僕の本心です」


 彼がどんな態度を取ったとしてもスライムから助けてもらったのは事実なのだから、俺としてはこう言うしかなかった。それに、彼の対応は何と言うか――失礼かもしれないが創作の人物の様に感じてしまってそこまで嫌とは思わなかった(此奴呼ばわりは別として)


 「フン、そうか……それでハンナ、もういいだろう」


 アランさんは俺の方を向いて少しだけ目を見開いてそう言うと、すぐにハンナさんに退出したい旨を暗に伝えた。


 「あっ、はい! では、アランさんはもう仕事に戻らないといけないみたいで……」


 ハンナさんが申し訳なさそうな顔でこっちを見ているが、特に気にしていないので俺は笑顔で対応する。


 「はは、さっきも言いましたが僕は構いませんので、むしろ忙しいのならここでアランさんを拘束するわけにもいきませんから」


 俺がそう言うとハンナさんはホッとしたように胸をなでおろした。


 「そう言う事なら先に失礼する」


 アランさんはボソッと言うと、踵を返して部屋を出ようとするがドアノブに手をかけたところで動きを止めて、こちらに振り返る。


 「そう言えば名前を聞いてなかったな」


 「えっ?」


 俺がそう言うと、ハンナさんもザカリアス司教も「ああそう言えば」と言う風な顔をした。まあ、確かにこの4人の中で俺だけ名乗ってないな……正確に言えばハンナさんもアランさんも名乗ってないけど。


 「僕は坂崎、坂崎和夫です」


 俺が名乗ると聞きなれない音だからか3人とも何度か自分の中で俺の名前を反芻するような素振りを見せた。


 「サカザキカズオ……長いお名前ですね」


 ハンナさんが苗字と名前をセットにしたような感じで発音する。そう言えば、貴族以外で苗字のある人は少ないのだということを俺の中の知識が囁いている。


 「あっ、カズオ、カズオで十分です」


 なので俺は名前だけをもう一度言うと、3人は思い思いの表情で頷いた。それぞれがどう思ったかは分からないが、納得したんだろうなということは察した。


 「カズオか……、これから大変だと思うが身体が無事で良かったな」


 最後にアランさんはポツリとつぶやくように言うと、部屋から出て行った。


 「あの方も、もう少しだけ愛想が良くなると良いのですがねぁ」


 ザカリアス司教は困ったような声でそう言うと、再び笑顔を俺に見せる。


 「では、カズオさん。私もこれで失礼させていただきます。何か御用がありましたら教会を訪ねてください。何時でもお待ちしています」


 「はい、司教様もありがとうございました」


 俺が頭を下げると、「ホッホッホ」と奇妙な笑い声をあげてから去って行った。

 後に残ったハンナさんはペコペコとオーバーに頭を下げる。


 「アランさんがすみません。ちょっとああいう態度を取ってしまう人なんですが、別に悪い人と言うわけでもなく……」


 「はは、何度も言いますけどハンナさん。別に僕は構いませんので」


 「そう言ってもらえると助かります。カズオさん、ザカリアス司教は半日と仰ってましたがもしも具合が悪いなと感じたらまだ、ここで寝ていらしても大丈夫ですので」


 「ありがとうございます。見ず知らずの僕を窮地から救っていただいただけでなく治療までしてもらって助かるばかりです」


 「いーえ、それこそ気になさらないでください。ギルドはそのための組織ですので。カズオさんは何も考えずにゆっくりと身体を休めることに専念してください。それと、私ももう戻らないいけないのでこれで失礼しますが、もし御用があればこの部屋を出て右に進んだ突き当りを左に曲がってすぐのところにギルドの受付がありますので何なりと要件を申し付けください。それと、カズオさんの荷物もギルドで預かっているのでお帰りの際も受付に一度は寄ってくださいね、では!」


 ハンナさんは矢継ぎ早に言葉を並べると先ほどと同様に嵐のように去って行った。


 「凄い人だなぁ……」


 何と言うか3人ともまさに異世界という風貌で、俺の中に奇妙な満足感が生まれている。飛ばされたばかりの時はどうなるかと思ったが、まぁ案外悪くないスタートを切れたと思ってもいいのだろうか?


 ――そう言えば、ここが何処の街のギルドなのかとか色々と聞きそびれたこともあるけど……それよりも人と話をしたらなんだか疲れてしまった。昨日の事もあったし、司教が言うにはあと半日は休んだ方が良いのだからこのまま休もう。


 俺は色々と考えなければならないものを頭の隅に追いやって後ろに倒れ込むようにベッドに横になる。


 目を閉じてボーッとする俺の心を満たしたのは安堵の気持ちだった。事故にあってからここまで流されるままに多くの事が過ぎていった。だが、こうして自分の意思で眠りにつくことが出来る事が何と幸せなことなのか、1週間前までの俺は決して理解できないだろう。ぼんやりとそんなことを考えながらゆっくりと俺の意識は暗闇の中に薄れていった。


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