2-6 ショタと湿地と美青年

外れの湿地にて


各々が自分の持ち場を捜索するが、思うような結果を得られずにいた。そんななかキタは林を抜けて少し歩いた先に着いた。油断したら足を取られそうなぬかるみが目立ち、先までの涼やかな清流とはまるで違う、決して心地良くはない泥っぽい匂いがする湿地に足を踏み入れる。とっとと探そうとするが……


(謎の美青年):「そこの少年、待つんだ」


自らを静止するその言葉を背後から聞いた。一体いつの間に。そんな疑問を持ちながらもキタはゆっくりと振り返った。キタの外の人にこれ戦闘ある感じなんかと心配されたけどそんな事はない。


キタ:「誰だ! 90歳超えのおっさん相手に少年呼びなんざ随分煽り上手じゃねえの?」

(謎の美青年):「90歳……? そうか、異種族の者だったか」


逃げも隠れもせずに現れた彼は紛れもなく人間の青年だ。その容姿はというとこんな野暮ったい魔物の巣窟にいるにはあまりにも不釣り合いな容姿をもつ青年。ヒノマルの人間らしい黒い髪に黒い目を持った、異国の人間から見ればエキゾチックとでも言うのだろうか、まあその国のグラスランナーから見ても正しく絶世の美青年である事には変わりないが。開国後に主流となった和洋混合な隊服と鞘にしまった剣を持ち、胸に聖印をつけた彼はいかにもな神官剣士と言ったところ。


(オキタ):「私は神戦組一番隊隊長のオキタ・ソージ、好きなように呼んでくれて構わない。神戦組にはグラスランナーがいなくてね。こんな所に子供がいるなんて一大事……そう勘違いしてしまったんだ。すまない」


ライト:うわでた神戦組!

ニシ:思ったより出るの早い。

GM:まあ出し惜しみするもんでもねえから。

キタ:えっと……コイツの仲間は周りにいないの?

GM:うん。隊はもちろん数人の部下すらもいないね。


キタ:「神戦組ねえ……一番隊隊長? のお偉いさんが1人でいるなんて妙な話だな」泥濘みに気をつけつつ後ずさる。


相手は自分より人生経験のある年上の大人。それでも非力かつ小さな存在に拒絶されたことがショックだったのか、形の整った瞳を大きく揺らした。しばらく呆然とした後、ハッとして再び口を開く。気を使い過ぎなほど丁寧な応答ではあるけれど。


(オキタ):「怖がらせてしまって申し訳ない。とある初老の学者の依頼を達成するために野営地が必要なのだが、それの下見に来ていたんだ。まだ候補地も定まっていない上に、そんな用事に部下を巻き込むのも嫌だったからね。1人で何日かかけて探すつもりだよ」

キタ:「ふーん。で、たまたまこの湿地帯に来たと」

(オキタ):「そうさ。だけれど、ここは野営地には出来ない。海沿いからは遠すぎる上にテントを張るにもぬかるみが多いし、何より天候が不安定だ。しかも感覚が敏感なものにはあそこに生えている野草は体の毒となるだろう」

キタ:「ふーん……あそこの野草?」


オキタが透明感のある美しい指でさす方角には、赤い野草があった。パッと見ただけで他の草花とは違うそれは群生しているでもなく単独でそこにポツンと存在していた。


キタ:「あれは?」

(オキタ):「火龍の涙という少し珍しい植物でね。料理で使うと奥深い辛味になるんだが、匂いが独特だ。一部の地域では魔物大事に使われるほどの代物さ」


ヒガシ:お、火龍の涙発見伝!

レフト:でもオキタさんに追求されない? 大丈夫?

ミナミ:いくら黙認されているとはいえ堂々と話すのは怖いな。

GM:あー多分それは平気。魔物の乱獲や景観の破壊とかならあかんけど、ただ単に依頼でスパイス探しにきただけな事ぐらいは白状してもええで。

ニシ:さっきの大乱闘は下手したら乱獲では?

GM:向こうから攻撃してきたから貴様らは正当防衛。

キタ:えっと、じゃあ冒険者だってこととスパイスを探しにきたことをオキタに教えるな。


キタは正直に自分は冒険者であること、仲間と共に火龍の涙を探しにきたことを話した。


(オキタ):「ッッ! 君のような小さな子が!?」

キタ:「だからこれでも一応成人してんだって。しかも92歳。人間基準だとまあまあお爺ちゃんだぜ?」

(オキタ):「そ、そうだったな。すまない。小さな子は守らねばと思うばかりついつい忘れてしまう」

キタ:「他にも人間よりチビで老けにくい種族なんざいっぱいいるだろ。大丈夫なんか?」

(オキタ):「いいや全く大丈夫じゃない。実際私の同僚にドワーフがいるが無意識にご飯よそうし口元に汚れがあったら拭き取ってしまう」

キタ:「お前保父さんとかのほうが天職じゃねえの?」

(オキタ):「保父では剣を持って戦えない、すなわち守れないから駄目だ」


少し強引、けれど彼なりの気遣いを感じるその言動から敵意は全く感じない。ナイフで火龍の涙を採取してもらい、キタはそれを受け取る。これで任務達成だ。仲間たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。


キタ:「まあとりあえずサンキュー。えっと……オイラはキタ。神戦組って意外と面白い奴らなんだな。じゃあな!」手を振りながら走って仲間のところに戻るぜ。

(オキタ):「うん。気を付けてね。……神戦組はみんながみんな、冒険者に親切なわけじゃないからさ」


キタが見えなくなるまで手を振る。いなくなったそのタイミングで、吐露したそれを聞くことは不可能だ。


ニシ:うわ不穏だな。

ヒガシ:冒険者を助けたってオキタくん処罰されたりしない?

GM:神戦組はそんなマフィア組織じゃねえよ。それに今んところオキタ入れて6人のキャラを作っているけどその半分は冒険者に対して肯定的な穏便派だ。

ミナミ:逆に言えば半分は冒険者に対して否定的な過激派ってことか。

GM:そうともいう。

レフト:神戦組でもそこに関しては内部で意見が割れているのか……

キタ:まあアイツは大丈夫っぽいし、スパイス持って仲間の元に帰るぜ。そろそろ探索パートを終了させないとライト(リアルPL)が寝落ちする。

ライト:助かる。ここだけの話結構瞼重い。

GM:そ、そうか。じゃあラストまでちょっと駆け足で行こか。ボス戦終わったら急に正気なくなるの怖いよこの戦闘狂……

一同:(笑)


キタは来た道を戻って仲間と合流する。握られているスパイスを見て一同と轟は大いに喜ぶ。


(トドロキ):「これだよコレ、間違いない! よく見つけられたね!」

キタ:「ああ。なんか親切な若造が教えてくれたんだよ。多分オイラたちと同じ冒険者だぜ」神戦組って言ったら警戒されそうだから黙っとく。仲間を思っての隠蔽。

レフト:「なるほど……ところでその親切な彼は?」

キタ:「えっと、野営地探すってどこかに行った。全然話さなかったから分かんないけど、仲間もいなかったし、多分下見だったんだろう」あんまりにも嘘いうと追求された時にボロができるから少しの本当を混ぜる、コレが偽証のテクニック。

GM:詐欺師が使ってそうなガチの奴やん。えっと、見破るか否か判定する? 真偽判定ってやつ。目標値は……内緒。

ニシ:やらない。『ニシ』は疑わないと思う。

ヒガシ:うーん。疑う決定的な理由もないしやらないかな。

ライト:眠いからやらない。

レフト:『レフト』的にはスパイスが本物かとか、取り扱い方とかに関心があると思う。今頃トドロキさんに教えてもらってる。

ミナミ:……なら一応やっておく。(コロコロ)どうだ?

GM:えっとね……嘘をついているとは思わなかったけれど、若干態度に違和感を覚えた。という感じでお願い。

ミナミ:わかった。「……そうですか。兎に角用事は終わりました。空が暗くなる前に帰りましょう」

(トドロキ):「そうだね。解体もあらかた終わったし、あとは明日の大食い大会に向けて調理するだけだよ」

ニシ:「明日!?」

(トドロキ):「言ってなかったっけ? 依頼達成次第すぐに調理に取り掛かれるよう街の料理人がスタンバイしてるんだ。もちろん酒屋花丸もお手伝いするよ!」

キタ:「聞いてねえぜ……」


ジャイアントリザードを袋に入れて外にある2台まで運ぶ。帰り道は特にトラブルはなく、次第に赤くなる空を楽しみながら夜更けまでには帰れた。冒険者たちは明日を楽しみにしつつウキウキで帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る