指導者と科学者
かきはらともえ
指導者と科学者
「人間は愚かにも我々のことを絶滅させようとしている!」
彼の名前はフギン。ほかの者よりも知能が優れていたため、群れの中でも多くを発言する立場になった。彼のことをほかの者はとりあえず『指導者』と呼ぶ。
そんな彼の傍らにはムニンと呼ばれている者がいる。彼女は何も言わない。何も言わずに、その眼でじっと見つめている。
常に観察をしている。観察こそ、世界を構成している基本原則を理解するのに必要な手段である。
それを彼女は誰に教えてもらったということもなく理解している。そんな彼女のことをほかの者はとりあえず『科学者』と呼ぶ。
指導者・フギン。
科学者・ムニン。
彼らが今、ほかの者たちに促している
「諸君も人間という生き物が理不尽であることをよく理解しているだろう。だが、我々にとって人間は敵ではない。連中は我々の縄張りを脅かす存在ではあるが、生存にとって害のある存在ではない。故に我々とて目を
フギンは
「生活が豊かになれば
フギンが
「私はムニン学者と共に人間の行動を偵察していた者です。三日前のことです。人間はハシブト陣営から捕獲した者を密閉された空間に詰め込みました。そこに気体状のものが散布されました。するとそうかからないうちに死に絶えました。ムニンの見解では、トリクロロエタンという害虫を駆除する際に使われる化学薬品である可能性があるとのことです」
こればかりはムニン学者の知識不足が出ている。
ジクロロジフェニルトリクロロエタンは殺虫剤に用いられていた有機塩素系の農薬ではあるが、それは大昔に使われなくなり、この時代には使われていない。ハシブト陣営の者が殺害された際に用いられたのは炭酸ガスだった。決定的な差はムニンたちと人類の科学力という差であったと言える。
しかし、それは問題の本質ではない。
ムニンは人間の概念の多くを理解しているということである。
「これらの件からして、人間は我々に対して明確な殺意を抱いていることがわかる。高い知性を持つ人類はそのことに
太陽が昇ってくる。
薄明るく染まる街に、指導者の声が響き渡ったのだった。
指導者と科学者 かきはらともえ @rakud
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