65.「絃ちゃんに試されてたのは俺だけじゃないって事だ」
度胸が無いのでまだ目を開けられない。
「い、いい奴だと思ってます。非常に……。よくも悪くも裏表が無いし、誠実だし、意志を曲げないし……。正直当初の予定通り、
「それは無理だな」
つい
「ハイ! サッセン! でも私には余りに勿体無いので……」
「つまり不釣り合いと思ってるだけで付き合う事自体は嫌じゃないって事か?」
どんどん上体が傾く。
「嫌いでは無いからという理由で合意するのは不誠実な気がしますがハイ……。拒否する理由は無いです……。いやでも私この通り頑固者ですし、
上手く喋れただろうか。自信が無い。
でも言う事が無くなってしまったし、沈黙に耐えられず目を開ける。
上体はもうベンチに接するギリギリまで倒れていて、片手を着いて持ち上げた。
途端
起き上がった所の私の顔を覗き込むように身を乗り出して待ち構えていて、つい息を呑んだ。
近いのもあるが表情が無かったから。何を考えているのか全く分からない顔で、じっとこちらを見ている。
いい加減怒らせたかもしれない。いや、その方が
ああいやでも、謝ろう。また私、幾ら譲れないからって、人の気持ちを
「あ、
「何でさっきからそんなおどおどしてんだ?」
「な、何がでしょう?」
「自分の気持ちを話すのって別に、恥ずかしい事じゃねえと思うんだけど」
「いやっ、私あの、あんまり自分の意見を口にした事が無くて……」
「それは、
「ハイ、ええ……。ただでさえ何かと気遣われる境遇ですから、心配かけまいと……。
「うん。話せてた。じゃあプライベートでのお前って、それが本来?」
「いやそんな事無いっすけどあの……。ハイ。気恥ずかしくて滞ります。一個人についての話をするのは、慣れてなくて……」
「そっか。可愛いな」
「かっ……」
声が喉に引っかかった。
咄嗟に何か言おうとしたが自分が何を言おうとしたのか分からない。
「心配ありがとよ! でも大丈夫だ。俺はお前のそういう所に惚れたからな。男に言い寄られた程度で崩れてたら興醒めだったよ」
「えっ? あ、あんだけグイグイ来てたのに?」
「
「えっ?」
「
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。何が何だか……」
「つまり何の問題も無いし俺はお前が好きって事だ」
また例の自信満々な笑みで言われた。
散々あしらって来たのに顔が熱い。目が回りそうになる。
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