64.「呼吸と同じだから分からない」
「ごめん。さっきは言い方が悪かったかもしれない。お前の事、決して嫌いでは無いんだ。ただ、自分について考えた事が余り無くて……」
膝の上で組んだ両手を見つめて、言葉を探す。
そのまま沈黙してしまいそうで、空き地みたいな園内へ目を戻した。
「私の為にしてくれた行動については、感謝より動揺が勝ってた。何でそんな事するんだろうって、分からなかったんだよ。でも、そんな理屈っぽい事じゃなかったんだな。誰かを好きになるって。〝
貸したポケットティッシュで顔を拭い終えた
「……前々から思ってたけれど、何でそんなに優しいんだ?」
困って前を向いたまま笑った。
「優しいかな。私にとっては呼吸と同じだから分からない。理解も必要無いから説明する為の言葉を探して来なかったけれど……。共感性が強いのかな。困ってたり悲しんでる人の顔を見ると、それが自分に起きてる事みたいに感じて放っておけなくなる。優しいって言われるのも、本当は嫌いなんだ。私にとっては当たり前の事が出来ない、口先だけの賞賛に聞こえてしまって。でもこれも、我が儘なんだよな。いつも言ってくれる人達に悪意は無い。凄い事だって、素直に褒めてくれてるだけ。だってのにそれを言われる度に、自分を否定されてる気分になってる。普通の人間とはもっと薄情で、世間とは冷たくて、だってのにそんな事をしてる私とは、やっぱり普通じゃないって。なら私って最初から、おかしい奴だったのかな。どんな人生だったとしても性格がこうだから、この息苦しさは変わらないのかなって。でも、普通なんて自分の事しか考えてない奴にもなりたくないから、結局この生き方を変えられない。変えたくもない。普通じゃ出来る事が、
笑いかけたのに、
そういう顔をする人を見たくないから、私は余り本心を口にしない。誰かを困らせてまで言いたい事なんて多くない。
だからどう思われようと知らないし、言った所で伝わらないんだろと、ずっと黙って来た。そしたら
「でもお前を見て、小さな問題なんだなって思ってんだ」
「俺?」
つい笑った。
「だってお前、何で私に対してそんな事するんだって
本当に考えていなかったらしく、
「え、だ、だって、それしか無いから……」
「それでも伝え続けられるのが凄いんだよ。尊敬する。私だったら折れる以前に伝えられてない。自分で言うのもなんだけれど、〝
「でも付き合わないんですよね……」
「うん」
「何でだ……」
また鼻水垂らして泣き出しそうな顔になったので間髪入れず答える。
「お前は私を美化し過ぎてるから。まだ言えてない事があるぞ。私はめんどくさい上に陰湿だ」
「そうかな。人並みだよ」
「私お前が許嫁候補として現れた時、マジで鬱陶しく思ってたぞ」
ショックの余り跳び上がる
「エェッ!? 何で!? いきなり求婚セットの告白したから!?」
「思い当たるんなら何であんな挨拶し……。いや今はもういいけれど。私も最初はそう思ってたけれど、〝
つい目を逸らした。膝の上で組んでいる手を、意味も無く組み直す。
「話してる時に?」
「ああ、いや……」
身を捩って視線を避けてしまう。
事前に話す事を決めてから出て来たのに、上手く言葉にならない。
素直に喋るって何て難しいんだ。てか私の何がそんなに障害になってるんだ。自尊心か。自尊心だ。ええいもっと誠実になれ私は保身の為のプライドが
と奮起するが堪らず目を瞑って叫んだ。
「その、本当にみっともない話なんだけれど私、嫉妬したんだ……!
真っ暗な視界の中、
「今はどう思ってるんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます