63.「……ですよねぇ……」
「この前の〝
「そう。だから言える事が無かった」
「お兄さんが屋敷に現れた時も、全く戦力が落ちなかったのもそれが理由?」
「寧ろ絶好調だっただろ。
「ちゃんと出来てるよ。お前って、やっぱり
「自分を客観視出来る人はいない」
「だから俺が言ってる」
何となく頼んだ無糖のアイスティーに伸ばした手が止まる。
適当に入ったファミレスで向かい合わせに座る
やって来た日から感じてたけれど、こいつはこうして、大人な顔を見せる時がある。
その度に硬直する私は、何なんだろうか。
「久し振りに登校した気分はどうだった?」
私はぎこちなくアイスティーを口に運ぶ。
「……何も無くて驚いたよ。今年の〝
「〝
自分の眉がハの字になったのを感じた。
「悪かった。面倒だったろ。今日はお前、学校休んでたし……」
「ちょっと疲れが出ただけさ。お陰でこうして放課後デートの約束を取り付けたんだからラッキーだよ」
「……片方が休んでた場合は成立しないんじゃ?」
「えっ? マジ?」
「学校終わってそのまま出掛けるから放課後デートなんだろ」
「えっ? じゃあこれって、放課後デートじゃ、ない……?」
「一人じゃデートは出来ないし。てかそもそもこれデートじゃないし。告白の返事をしに行くから住所を教えろって連絡したのに、お前がファミレスで集合って言うから今ここだろ」
「いやだって、急に部屋来るとか言われても掃除してないし……」
「連絡したのは今日から三日前だし会う日時もお前に任せるって言ったよな」
「そ、そんないきなり言われたら緊張しちゃうって言うか……。だから慌てて返事しちゃったって言うか……」
「今更言うなもう集まってんだから意味無いわ。じゃあ伝えるけれど、私お前」
「アアッ!? 待て! まずは全部食ってから一旦外出るぞ!」
「どこで言おうが意味は同じだろうが。私お前のこ」
デカい手で口を覆われ黙らされた。
仕方が無いのでアイスティーを一息で飲み干し、大慌てでハンバーガーを食べる
道端でいいのだが夕方という時間が悪い。帰宅ラッシュの走行音の群れで会話をするには賑やか過ぎるので暫く歩くと、寂れているわ時代の流れで遊具も撤去された、空き地同然の公園を見つけて入った。隅に残されたベンチに座ると、隣へ
「私お前の事好きじゃないよ」
まさに座ろうとしていた
直前まで普通に腰を下ろしていたのに、突然意味不明な挙動を起こし倒れた。ゲームのバグみたいだった。
何してんだと首を伸ばして様子を窺うと、無表情に涙を流していた。
「……ですよねぇ……」
蚊の鳴くような声だった。
「うん」
「いやだって、何回アプローチしても全然、全ッ然、響いてなかったし……。非常事態だからそれ所じゃない気分になってるのかなって途中まで思ってたけれど、違うわこれ……。いや違うわこれ……。この人の頭の中ってホント、
「恋愛とかどうでもいいんだよ。まずは
「流石に駄目かもって思ったよね……。やっと会えたのに、最後の最後の壁が、十年一緒の親友ってお前……。無理ィ……」
鼻水まで垂らし始めた。
それは静かな号泣だった。
「うん。多分
何せ本気になったあいつとは敵味方問わず〝劫末音義〟をフル活用する上その強靭な理性を悪用しまずバレない嘘まで
「それでも会う事を許したのは、お前の覚悟に理解を示してた証拠だよ。その気になったら〝劫末音義〟で黙らせる事も出来たのに、結局お前のやりたいようにさせた。乗り気じゃなかった私にもちゃんと向き合えって注意して来たよ。結果は分かってただろうにそうしたのはきっと、私の為でもあったんだ。お陰で狭い視野が多少広がったし、いきなり結婚を前提に付き合うのは無理だけれど、友達からなら問題無いって思ってる」
「……へ?」
その顔が余りに情け無くて笑ってしまう。
言っても決して喜ばないだろうが、そのプライドの無い所は好きだ。保身をしないとはどれ程高潔な事か。沈黙で本心を塗り固めて来た私には余りに眩しい。
「でもその前に、伝えておきたい事がある。お前は私を美化し過ぎてるよ。訂正を加えたいからちょっと座れ。その後で改めて、私という人間はお前にとって本当に重要な奴なのか、考えて欲しい。私はお前と違って、意地っ張りだから」
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