09.「あれっ!? 未来の妻っ!?」「殺すぞ」「ワッツ!?」


 いとの言う通り教室には、詰襟からうちの高校のブレザー姿に変わった天地あまちがいた。教室の設備の一つであるプロジェクタースクリーンを勝手に下ろし、持ち込んだ機材で映像を映している。映し出されているのは自作らしきPDF。そこにデカデカと記されているタイトルは、「天地あまち凌我りょうがとはイケメンであるといかに末守すえもりよすが(※その内天地あまちよすがになる)へアピールするか」。


 天地あまちは既に登校しているクラスメートを全員着席させ、指し棒を振り回し熱弁を振るっていた。


「……という訳でここにある通り! 昨日いとちゃんから教えて貰った通り、末守すえもりよすがさんとは学校生活や神管しんかんとしての仕事、そしてプライベートをかなりきっちりと分けて扱う人らしくガードが堅い! クラスメートでも連絡先を教えている人はごく少数と聞く! まずはこの壁を越える為様々な案を練ったんだが、皆にどれが有効になりそうか意見を聞きたい! まず第一案はコチラ! 教科書全部わざと忘れて貸して貰う!」


 私は大股で歩き出しながら黒板に置きっ放しになっていた白チョークを掴むと天地あまちの耳の穴に押し込んだ。


「ギャーッ!?」


 驚いて飛び上がる天地あまちから奪った指し棒で脇腹をシバき追撃する。それで更に驚いた天地あまちは仰向けで床にひっくり返った。


 片耳から白チョークが生えているように見えるアホ面の腹を片足で踏み付けると上体を倒し、爆発寸前の怒りと遠慮の無い侮蔑を込めて吐き捨てる。


「おはようございます天地あまち様」


 天地あまちは襲撃者が私であるとようやく気付いたようで目を白黒させた。


「あれっ!? 未来の妻っ!?」


「殺すぞ」


「ワッツ!?」


 教室に入って来たいとが私のやや後ろに立つと、袖を引いて振り向かせて来る。


「こらよすが。パンツ見えるわよ」


「見られて困るようなもの穿いてません」


「下にショーパン穿いてて見えないからって足しなさいっていつも言ってるでしょ。誤解招きまくるわよその言い方」


「私の下着事情なんてどうでもいいでしょうそんな事より何なんですかこの状況!」


 「どうでもいい訳なくない……?」と明後日の方向へ不満を募らせブツブツ言ういとを無視し、教室を見渡した。


 「え? 悪いのうちらすか?」って顔したクラスメート達と目が合う。それはそうだが何だお前らその面は……! 告白の件は別に秘密にしろなんて天地あまちには言っていなかったが、まさかこんな堂々かつ迅速な形でクラス中に知れ渡るだと……!


 すると数人の女子、補足すると、昨日男子の机からエロ本を発見して晒し者にし遊んでいたイケイケ女子グループ(いじめで告発されたら全員負けるぞお前ら)が、待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。


末守すえもりさん! 天地あまち君と付き合ってるってホント!?」


 ぐあああああこれエロ本野郎の二の舞になるんじゃ


 天地あまちが私の振りをしたつもりなのかキンキンにうるさい裏声で「ソウダヨッ!」と喋ったので下顎を蹴り黙らせると努めて冷静に答える。


「誤解です。交際していません」


 当然噂話大好きな彼女達はこの程度じゃ止まらない。


「えーっ、でもお、昨日告白されたんでしょ? それに天地あまち君、末守すえもりさんと並んでも霞まないぐらいめっちゃ背え高いしイケメンじゃん! カッコいい系の末守すえもりさんと並んでもお似合いだって!」


「このザマ見てホントに思ってます?」


 天地あまちは親指を立てると彼女らへ歯を見せた。


「大丈夫だ! スカートの中は断じて見てない!」


 私は天地あまちへ低く吐く。


「誰もいてねえよ」


 何で喋れるんだと思ったらこいつ、蹴られる直前に私の動きに気付いて爪先と同じ方向に顎をもたげて直撃をなし、ダメージを軽減させやがったな。


 いとがまた私の袖を引いた。


「もうよすが天地あまち君から退きなさい」


「言う順おかしくないですか?」


「まあ正直私も、まさか天地あまち君がこんな事をするとは思ってなかった所がある」


「さっきこの馬鹿いとちゃんから聞いたって喋ってましたよ」


 いとは急にもじもじすると目を逸らす。


「や、やだ、〝いとちゃん〟って……」


 偶然久し振りに小学生時代の呼び方をされる格好になって照れたらしい。そんな場合かアホ。


「キモ」


 吐き捨てながら天地あまちから足を退ける。


 起き上がりながら私へ愕然とする天地あまち


「俺ッ!?」


「そうだな」


 自分に言われたと思ったらしくそれはそうなので適当に返しておいた。


 会話が出来ない馬鹿がおお過ぎる。もっとまともな奴と話そう。


 立ち上がる天地あまちの耳からチョークを引っこ抜きながら、クラス全体へ尋ねた。


「一体何があったんですか」



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