04.千載一遇のチャンスを鷲掴みにしようと私を脅迫している!


 お前候補とは言え許嫁の前で何言ってんだいやここで私が振れば格下の家に侮辱されたとこいつに傷が付いていととの結婚も立ち消えになるのではいやいや末守すえもり如きが天地あまちの要求を蹴るなんてその時点で私を使ってるいとに傷が付くしそれは絶対に避けないといけないしかと言って受け入れると天地あまち古要こようも敵に回す地獄カップルの誕生だしそれって誰も幸せになってない最悪なのではていうかここは私じゃなくていとがストップをかけるべきなのでは仮にも許嫁なんだし!


 フル回転させた脳味噌により刹那で弾き出した責任転嫁と言えなくも無い答えの下、助けを求める視線をいとへ全力投球した。


 天地あまちが差していた傘を自分で差していたいとは、目が合うなり頷くと口を開く。


 何を言うべきか分かるよな、小学校上がる前から一緒にいる、立場以前に親友と呼び合って過言無い私達の絆なら!


「マジかよやったあ。じゃあよすが、私が許すから天地あまち君と付き合いなさい」


 人生を切り開く為に親友を売りやがった!


 そりゃあそうだよなあ、あんな支配的な親の干渉受け続けてたら、意地でも反逆する精神が育って当然だよなあ! 私だってなるべく一般的な暮らしを送って欲しいって願ってたよ! でも即答してんじゃねーよ!


 天地あまちは肩で風を切り、ばっといとへ振り返る。


「悪いないとちゃん! 気を利かせちまって! 俺も家の為じゃなく、愛に生きるぜ!」


 うるせえアホ!


 いとは手を振って苦笑した。


「大丈夫大丈夫。正式にうちに挨拶に来る直前に違う子に一目惚れしたって事だから全部許嫁候補となる前の出来事だし私も振られた扱いになってないから、誰の体面も傷付いてないし。よかった。たまたま仕事終わりに天地あまち君と合流して親に挨拶して貰う約束しといて」


 アアアこいつら境遇が似てるから意気投合してやがる!


「いやいと様丸く収めようとしないで下さい十二分に大問題です天下の古要こよう天地あまちの縁談を末守すえもりの侍女が潰したなんて一大スキャンダルですよ! 普通に神管しんかんの歴史書に載りますって!」


 主にカスみてーなゴシップ系の!


 途端気さくな調子が失せたいとは、冷ややかな笑みを浮かべて首を傾げる。


「主人に逆らうの?」


 このタイミングで立場を利用するのは卑怯だろ! 普段そんな態度取らないくせに!


 然し沈黙は降伏と同義だと、滝のような冷や汗が噴き出す中言葉を探す。


「い、いえ、そういう訳では……」


 何にも出て来ないんだけれどォ!

 

 いとは冷ややかな笑みを緩めない。


「昔から言ってくれてたじゃない。いとちゃんはいつも笑ってて欲しいって」


「言ってた、けれど……」


 さらっと本当に小さい頃の言葉を全文引用するな良心が痛む。


「何? 指パッチンで足折られたい? 拍手でドブ水飲ませてあげましょうか」


 怖い! 千載一遇のチャンスを鷲掴みにしようと私を脅迫している!


 いやでも逆らえない! 立場もあるがもし私が拒否すれば、いとは親の言いなりになってこのアホと結婚する事になるんだ……! ほぼ確定だった許嫁という立場でやって来た初日に、名前も知らない私という一般神管しんかんを口説いて縁談を潰そうとしているこのアホと……! マジで何考えてんだこいつイカれてんのか! いやでも、私が受け入れればいとはまだ自由の身でいられるし、このアホも喜ぶだろうから誰も困らない……? いや私が困るだろ。今困ってるだろ! こんな突然迫られて答えられるか人生の分岐点だぞ!


 襲いかかる混乱とストレスに言葉が出ない私に、アホはにかっと笑いかける。


「動揺しても無理はえ! 返事も今じゃなくていい! まずは友達から始めよう! これから宜しくな!」


 爽やかで能天気過ぎるその笑顔に疲れ果てて、勝手に本音が出た。


「……手を離せよカス……」


 夜明け前の新年度。高校二年生になった私は、略奪愛に見えなくもない求婚をぶつけられ、長年仕えて来た主人には即行で売り飛ばされと、神の怒りより恐ろしい春を迎えた。



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