第67話 蒼の予想
夏休み。俺は結局、毎日勉強して過ごしている。だが、やはり、気になるのは前田さんだ。告白の答えはまだ返っていないが、俺は前田さんに会いたい。だからデートに誘うと言ってしまったが、この状態でデートに誘うと悪い影響が出るかもしれない。それを考えるとなかなか誘えずに居た。
そんなとき、俺の部屋の扉が開いた。
「お兄、いる?」
妹の茜が立っていた。
「ドアを開く前に言えよな。なんだよ」
「こんなのあるんだけど」
茜がチラシを出してくる。
「なんだ? 動物園の夜間開園?」
それは熊本市の動植物園で行われる夜間開園のチラシだった。花火や金魚すくいなどのイベントもあるようだ。
「お前、動物園行きたかったのか」
「違う、違う。私じゃないよ、紗栄子さん」
「は?」
「一緒に行ったら?」
「……」
確かにいいイベントだ。この暑い夏では昼間に動きづらい。夜なら涼しいし、何より花火もあるならいいムードにもなる。だが……
「なんでお前が急にそんなこと言い出したんだ?」
何か怪しい。
「わ、私はお兄と紗栄子さんが仲良くなる機会が無いかなあって、探してただけだよ」
「……お前、朋美派だろ」
「違うから。私は中立。どっちかといえば今は紗栄子派」
「ほんとか?」
「ほんと、ほんと。あ、別に朋美さんを誘ってもいいんだよ」
「誘うわけないだろ。ったく。……怪しいが、せっかくだし前田さんを誘ってみるか」
「うん、そうしなよ。じゃあね!」
茜は去って行った。何か怪しいな。まあ、でもいいイベントであることは間違いない。俺は前田さんに電話した。
「も、もしもし、中里君?」
前田さんは声が裏返っていた。
「あ、前田さん? 実はさ、今度デートに行かないかと思って……」
「デ、デート!? あー、私も行きたいって思ってたよ」
何かわざとらしい感じがするがまあいいだろう。
「今度、動植物園の夜間開園に行かないか? 花火や金魚すくいもあるから楽しめると思う」
「う、うん。わかった。行こう、是非行こう、是非行こう」
やっぱり何か怪しい。焦っているような感じがする。
「中里君、そのとき返事するから」
「え?」
「だから返事。するから」
「あ、そんなに急いでしなくても大丈夫――」
「ううん、待たせても悪いし。そのときするから。じゃあね」
電話は切られた。
うーん、じっくり考えてもらえれば成功確率は上がると思っていたが、返事をすると言われてしまった。できれば2学期か夏休みの終わりまで待ちたかったが、今は中盤。少し、早いよなー。
それにあの感じ。待たせても悪い……って。嫌な予感しかしない。
第一、このデート自体、茜の策略のような感じがする。だとすると、早めに告白の返事をさせてフラれてしまった俺に朋美が迫る、といった作戦なのかも。でも、そういう作戦をとると言うことは、茜は前田さんが俺を振るという情報をつかんでいるのかもしれない。
情報をつかんでいるとすれば……小島経由だな。
俺は小島に電話した。
「中里、何か用?」
「実はな。前田さんをデートに誘ったんだ」
「あー、早速誘ったんだ」
「早速?」
何か知っているな、こいつ。
「あー、気にしないで。で、どこに?」
「動物園の夜間開園だけど」
「あ、いいね! 私も行ったことあるけど、なかなかいいよ」
「……で、前田さんがそこで返事するって言うんだ」
「そうなんだ」
小島は全く驚いていない。
「……お前、何か知ってるだろ」
「え? 何が?」
「だから、前田さんの返事だよ」
「あー、そのことね。まあ、予想はあるけど」
やっぱりそうか。前田さん、小島には相談していたのだろう。
「そうか。じゃあ、やっぱりダメなんだな?」
「え、私からどっちか言えると思う?」
「言えるわけないか」
「そういうこと。まあ、頑張って」
あ、電話切りやがった。うーむ、やっぱり嫌な予感しかしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます