第66話 夏休みの天使
私、前田紗栄子はいつものように夏休みをほとんど勉強に費やしていた……はずだったが、なかなか勉強が進まない。
「はぁ」
頭に浮かぶのは中里君のこと。告白されて、どう返事をすればいいのか悩んでいた。小説を読んでみたけど、答えは見つからなかった。
やっぱり、誰かに相談するしかない。私はメッセージを送った。
◇◇◇
「で、呼ばれたのがこのメンバーって訳ね」
上熊本駅近くのファミレスに集まったのは私と有紀、それに中里君の妹の茜ちゃんだ。
「私はともかく、なんで茜ちゃん?」
有紀が言う。
「ええー! 私は呼ばれて当然だと思いますけど」
「うん。中里君のこと一番知ってるし」
「でも、茜ちゃんは朋美派だよ?」
「朋美派?」
「違います。私は中立ですから。それに今日は紗栄子派になります」
「そ、そうなんだ」
茜ちゃんは今日は私の味方になってくれるようだ。
「で、答えは決まったの?」
有紀が早速核心を突く。
「それが……自分の気持ちが分からなくて」
「まあ、紗栄子はそうだろうね。じゃあ、中里のことをどう思ってるか、言ってみて」
「うーん、頼りになる、とか、優しい、とかは思ってるよ。でも、それが異性として好きなのかって言われると……」
「そっか」
有紀は困ったように言った。
「じゃあ、朋美さんのことはどう思いますか?」
「え、朋美さん?」
茜ちゃんは急に中里君の元カノ・朋美さんのことを聞いてきた。
「朋美さんと今まで会ったことありますよね? そのときどうでした?」
「確か……本屋で会ったときは、復縁するのかな、って思った」
「じゃあ、もし今、お兄が朋美さんと復縁したってなったらどうです?」
「え、困るよ」
「どうしてですか?」
「だって……中里君は私のことを好きって言ってくれたのに……」
「ほほう」
「やっぱり……」
有紀と茜ちゃんが何か分かったような顔をしている。
「何?」
「えーと、実はですね……昨日、うちに朋美さん来てたんですよ」
「え!?」
茜ちゃんの告白に耳を疑った。
「で、お兄に復縁迫ってて、すごい迫ってくるから、お兄もニヤけちゃってて……」
バン! 思わずテーブルを叩いていた。
「さ、紗栄子?」
「あ、ごめん。私……」
「紗栄子さん、今なんでテーブル叩いたんですか?」
「どうしてだろ。朋美さんの話聞いてたら、なんか腹が立ってきてつい……」
「うん、それってね、やきもちですよ」
「やきもち?」
「そうです。好きな人を取られそうになったから」
「あ……」
そっか。私、中里君が朋美さんに取られそうになって怒ったんだ。
「それにしても茜ちゃん。さっきの話だけど――」
有紀が茜ちゃんに聞く。
「あー、朋美さんがうちに来たって話ですね。あれは嘘です」
「嘘!?」
「はい、紗栄子さんがそれを聞いてどう感じるかを試すための嘘ですよ」
「なーんだ、よかったー」
私は思わず言った。
「ほら、ほっとしましたよね。じゃあ、やっぱり紗栄子さんはお兄のことを――」
「それ以上は紗栄子に考えてもらおうか」
有紀が割り込んだ。
「分かるよ。言いたいことは。でも、まだなんか実感無いなあ」
「じゃあ、本人に直接会って確かめたら」
有紀が言う。
「会って!?」
「うん。自覚した状態で2人でデートしてみて、それでも気持ちに間違いが無ければ、答えを出せばいいでしょ」
「……そっか、そうだね。うん、そうする。でも、どうしよう。デートに誘うなんて……」
「あー、それはお兄が誘わないとだめですよね。うん、それは私に任せてください」
茜ちゃんが言う。
「え、いいの?」
「はい! あ、でも今日お金があんまり無いなあ……」
茜ちゃんは急にメニューを見始めて言った。
「え!? あー、いいよ。何でも食べて。もちろん、私のおごり」
「ありがとうございます! じゃあ、パフェを1つ……」
「あ、紗栄子、私も」
「えー! 有紀も?」
「うん、紗栄子も食べたら?」
「……私はこういうのはあんまり食べないようにしてるから」
それに手持ちの資金も……。
「そうだったね。じゃあ、2人で注文しよっか」
有紀は店員を呼ぶボタンを押した。
まあ、でも2人のおかげで、答えに近づいたから、これぐらいは、ね。
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