第65話 天使と終業式

 そして終業式の日になった。この日は小島は部活が無いということで、食堂での勉強会もお休みだ。


 俺は前田さんと小島に付いて一緒に帰り、電車に乗り込んだ。


「で、夏休みはどうするの?」


 小島が俺に聞く。


「夏休みか。俺は特に予定は無い。勉強して打倒・前田紗栄子を目指す」


「まだそれ言ってるの。じゃあ、2人で勉強会でもしたら?」


「え!?」


 前田さんは驚いている。


「あぁ、まだ紗栄子の心の準備ができてないか」


「う、うん……」


 前田さんはうつむいていた。


「まあ、そうだな。前田さんの返事を待っている状態だし。でも……」


「でも?」


「俺はまた、前田さんと2人でデートしたいとは思ってる」


「え!」


 前田さんは俺を見た。


「いいかな?」


「う、うん……」


 前田さんは恥ずかしそうに言った。よし! 早速計画を立てねば。


「じゃあ、ここで」


「おう!」


 いつものように段山停留所で小島と前田さんは降りて行った。


 そして、数分たったときだった。

 小島からメッセージが届く。


『急いで来て』


 前田さんに何かあったか? 俺はちょうど停留所に止まった路面電車から急いで降りて逆方向に走り出した。

 走りながら小島に電話する。


「どうした?」


「例の公園! あいつがいる」


 ストーカーか。確か内藤とか言ったな。俺が一度追い払った後はもう出ていないと聞いたが、今日は帰る時間帯がいつもと違うから現れたのか。


 俺は公園まで近づくと、内藤の後ろ姿が見えた。2人の前に立ちはだかっている。

 小島は前田さんをかばうように前に出ていた。


 俺は内藤の背後から近づいていた。こちらに気をそらさないと。


「おい、お前!」


 内藤は振り向いた。そして、俺に気がつくと「くそっ」と言って逃げていった。


「まったく、なんなんだあいつ」


「中里、ありがと。助かったよ!」


 小島が言う。

 すると、前田さんが小島の後ろから俺に走ってきた。


「前田さん、大丈夫か?」


 前田さんは何も言わずに俺に抱きついてきた。


「ま、前田さん?」


「恐かった……」


 前田さんは涙声だ。俺は前田さんを落ち着かせようと頭をなでた。


「大丈夫だ。もう、大丈夫」


「うん……」


 俺は頭をなで続けた。

 小島が周囲を警戒しながら近づいてくる。


「……紗栄子、大丈夫?」


「うん」


 俺に抱きついたままの前田さんに小島が言う。


「えーと……どういう状況か分かってるかな?」


「……!?」


 前田さんは慌てて俺から離れた。


「ご、ごめんなさい。私……」


「別にいいよ。俺は嬉しかったから」


「そ、そっか」


 前田さんは真っ赤になっていた。


「はあ。それにしても、やっぱり危険ね」


 小島が言う。


「やつは何かしてきたのか?」


「そうじゃないんだけどね」


「そうか。となると警察も動きにくいし厄介だな」


「でも、中里を見ると逃げ出すのは確かだし。やっぱりボディガードしてもらうしかないわね」


「俺はそれでいいぞ。いつでも必要なときに呼んでくれ、前田さん」


「……う、うん。でも……」


「あ、これは告白とは無関係に頼ってくれていいから。大丈夫だ」


「でも、悪いよ」


 悪い? これってフラれる前提か?


「……ま、まあ、大丈夫だ。いつでも頼ってくれ。じゃあ、俺は帰るから」


「うん」


 少し気落ちした俺はもう帰ることにした。


「中里、ほんと助かった」


「おう!」


「中里君、ありがとう」


「じゃあな! 夏休み中に会おうぜ。また連絡する」


「うん!」


 俺は微妙な気持ちで家路についた。


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