第63話 告白の後

「ただいま」


 俺はあの後、しばらくベンチに座っていたが、何も考えがまとまらないまま家に帰ってきた。

 茜が家に居た。


「あ、お兄、お帰り。どうだった?」


「何が?」


「だから、紗栄子さんに告白したの?」


「な、なんでお前が知ってるんだよ」


 こいつ、いつの間に。


「そんなのいいから。告白したの?」


「ま、まあな」


「そうなんだ! で、結果は?」


「結果は今日じゃないぞ。答えは後で聞かせてもらうように頼んだ」


「えー、ヘタレだなあ」


「何がだよ。あ、お前、俺がフラれて帰ってくると思ってたんだろ」


「え、そんなことないよ。上手くいくように祈ってたから」


「嘘言うな」


「ほんと、ほんと。私は中立だから」


「朋美派だろ」


「中立だって。それに紗栄子さんには感謝してるから」


「何を?」


「お兄がまた生き生きしだしたのって紗栄子さんのおかげでしょ。それまで死にそうな顔してたから」


「そんな顔はしてないから」


「してたよ。朋美さん引きずりまくりで」


「う、うるせー」


 だが、確かにそうだった。朋美のことを引きずり、灰色の日々を送っていた俺の前に、前田さんが現れたからこそ、俺は変われたんだと思う。


「で、いつ答えもらうの?」


「さあな。いつでもいいって言ったから。すぐ夏休みだし、たぶん二学期だろ」


「ええー! 遠すぎるよ」


「いいんだよ、それで」


 じっくり考えてもらえればもらえるほど、成功の確率は上がる。俺はそう考えていた。



◇◇◇◇


 私、前田紗栄子はデートから帰るとすぐに小島有紀に電話した。


「あ、紗栄子。デートどうだった?」


「それが……」


 私はなかなか言えなかった。


「もしかして、中里から告白された?」


「ええー!! なんで知ってるの?」


「だって、デートに誘った理由を言うって言ってたでしょ」


「それは……言ってたけど、有紀は知ってたの?」


「そりゃ、知ってるよ。結構、みんな知ってるんじゃないかな。わかりやすいもん」


「ええー!! 全然わかんないよ」


「それは紗栄子が鈍いからだよ」


「鈍くないから。だって、中里君、有紀のことが好きだったよね?」


「だから、それは紗栄子の勘違いだって言ったでしょ」


「いやいや、だって、ほら、映画に誘ってきたり――」


「それは紗栄子も一緒だったでしょ」


「有紀とばっかり話してたし――」


「全部、紗栄子の話だよ」


「有紀の頼み聞いてたし――」


「紗栄子を守る頼みでしょ。全部、紗栄子のため」


「え、じゃあ、最初から?」


「うん。最初から中里は紗栄子が好きなんだよ」


「……どうしよう、私、勘違いしていろいろ変なことしちゃったかも」


「うん、してたね」


「ええー!!」


 私は恥ずかしくなって顔が熱くなった。


「そんなことより、告白の答え。どうしたの?」


「……まだ、してない」


「は?」


「いつでもいいからって中里君が。じっくり、考えてって」


「なるほどねー。中里もやるね。……じゃあ、今、考えてるんだ」


「うん……でも、よくわかんなくて。有紀、私、どうしたらいいかな?」


「それは紗栄子次第だよ」


「そう……だよね。やっぱり」


「うん。中里はいいやつだと思うよ。付き合うなら応援する。でも、好きじゃ無いのに付き合うのは良くないと思う。しっかり、自分の気持ちを考えなきゃね」


「うん、わかった。考えてみる」


「いつでも相談には乗るから。一人で考えすぎないようにね」


「ありがと。たぶん、また相談する」


 私は有紀との電話を切った。


 はぁ。どうしよう。まさか中里君が私を……。こういうとき、どうすれば……。そうだ、小説!

 私は何かヒントにならないか、恋愛小説を読み始めた。

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