第62話  天使に告白

 城彩苑から出てすぐの公園的な場所で、俺と前田さんはベンチに座った。


「今回、俺が前田さんをデートに誘った理由は恋愛相談だ」


 俺はストレートに告白してはおそらく失敗すると踏んだ。だったら、搦め手で行かせてもらう。

 俺はいくつか策を用意した。最初の策がこれだ。


「そっか、なるほど」


 前田さんは納得したようだ。おそらく、小島有紀との恋愛について相談すると思っているのだろう。


「まず、前田さん。俺のことは異性としてどう思う?」


「へ?」


 前田さんは質問がよく分からなかったようだ。


「つまり、俺は異性として魅力的かどうかっていうことだ」


「あー、なるほど。有紀から見てどうかってことね」


「……言っておくけど、俺は小島を好きなわけじゃないからな」


「はいはい、そうだよね。わかってる、わかってるよ」


 前田さんは誤解したままだが今はそのままにしておこう。


「俺が異性からみて魅力的かどうか、前田さんから見た意見でいいから答えてくれ」


「うーん、そうだね……」


 ここでダメならあきらめるしかない。


「十分、魅力的に映ってると思うよ」


 よし!


「そ、そうか。で、どんなところが?」


「うーん、ピンチの時助けてくれるし、さりげなく手伝ってくれるときもあるし。男らしさを見せてくれるときもあるし……。有紀もきっとそう感じてると思うな」


「だから、俺は小島を――」


「あ、そうだったね。わかってる、わかってる」


「……前田さんから見ても、それを魅力的に感じてるってことでいいんだよな?」


「え!? うん、そうだね。魅力的だって思うよ。大丈夫だって、自信持って!」


 前田さんは俺の背中を叩いた。


「わ、わかった。自信持つよ」


 前田さんは俺を魅力が無い人間だとは思っていない。だとしたら、可能性はあると言うことだ。


「で、いつ告白するの?」


 前田さんは俺に言った。チャンスだ。


「そうだな…………今、だな」


「え? ここで? ここで電話するの?」


「いや、直接話す」


「え? 有紀、ここに居るの?」


 前田さんが首を振って周りを見る。


「小島はここに居ない」


「え?」


 前田さんは不思議そうに俺を見た。


「…………前田さん。俺が好きなのは小島じゃ無い。君だ。前田紗栄子が好きなんだ」


 俺はついに言った。


「……中里君、冗談は――」


「冗談じゃ無い。嘘コクでも罰ゲームでも無いからな。俺の目を見てくれ」


 俺は前田さんの目を真剣に見つめた。


「えっと、ほんとの告白って事?」


「そうだ」


「マジ?」


「うん、マジだ」


「……………………ええーーーーーーーー!!!!!」


 前田さんの叫びが坪井川に響く。近くに居た鳩が一斉に飛び立った


「……ようやく、理解してもらったみたいだな」


「え、でも有紀のことは?」


「だから、俺が好きなのは小島じゃ無いってずっと言ってたけど」


「それは照れ隠しだよね」


「本心だから」


「じゃ、じゃあ、私の勘違いって事?」


「そうだ」


「う、嘘だーー。私、小説で……」


「勉強しても間違えるときは間違えるさ。テストだってそうだろ?」


「それは、そうだけど……」


「だから、俺が好きなのは前田さんなんだよ」


「そ、そ、そ、そうなんだ……。で、で、でも、私……」


 まずい。


「ちょっと待ってくれ。今、返事はしないで欲しい」


 これが俺のもう一つの策だ。


「え?」


「今は混乱していると思う。だから今すぐ返事をもらおうとは思っていない。時間を取って考えて欲しいんだ」


「か、考える?」


「そうだ。俺と付き合うかどうか。じっくり考えてみて欲しい。俺は待つから。夏休み中なんて言わない。二学期でもいいんだ」


「そ、そうなんだ……。うん、わかった。そっちの方が私もありがたいから」


「そうか」


「うん。じっくり、考えるね。じゃじゃじゃじゃあ、私はもう帰るから」


「送っていく――」


「いい、いい、いい、いい。一人で帰るから。考えたいし。じゃあね」


「あ、ちょっと……」


 前田さんは走って行ってしまった。

 うーむ、これはどうなんだろう。やらかしてしまったかもしれない。


 だが、事前に考えていた策は全て行った。あとは俺に出来ることは答えを待つだけだ。

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