第61話 天使と城彩苑

 前田さんはすっかり疲れが出てしまい、階段を降りるのも一苦労だった。見ていて危なっかしいので思わず腕をつかむ。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫だよ。でも、ちょっと腕を貸してもらっていい?」


「もちろんだ」


 前田さんは俺の腕をつかんだ。そして、一緒に階段を降り始めた。


「ごめんね、迷惑掛けて」


「何言ってるんだ。役得だ」


「やくとく?」


「まあな」


 あまり、伝わっていないようだが、まあいい。どうせ俺は後で告白するんだ。……そうだった。告白。その時間が迫っていることに気がつき、俺は緊張してきた。


 天守閣を出て、俺たちは城彩苑に向かった。前田さんが疲れていることもあり、ここで休憩の予定だ。そして、その後は……まだ考えないでおこう。



 城彩苑に入ると俺たちは熊本の菓子店が経営する店に入った。前田さんがここの特製アイスを食べたいそうだ。注文には少し待たされたが無事買うことが出来た。そして、空いている席に座り、2人で食べ始めた。


「うん、予想通り美味しい!」


 前田さんが幸せそうにアイスを食べている顔に俺は目を奪われた。確かに天使だ。そんなことを思って見とれていると、前田さんが俺を見た。


「どうかした?」


「あ、いや、なんでもないぞ」


 慌ててアイスを食べた。


「ふーん……。ねえ、中里君」


「なんだ?」


「今日、楽しかった?」


 前田さんの声には少し不安があった。


「ああ、楽しかったぞ」


「ほんと?」


「もちろん」


 前田さんとならどこでも楽しい。と言いたいが、告白前だからまだ言えない。


「そっか。よかった~。今日は私が行きたいところばっかり行ったから、中里君にはつまらなかったかなって」


「そんなことないぞ。自分が普段行かないようなところに行くのもデートの楽しみだ」


「そっか。これってデートだもんね……」


「そうだ」


「私も今日楽しかった。なんだかほんとにデートみたいで」


「だから、デートだって」


「ああ、そうだったね。そうそう、デートだ」


 前田さんは改めて言った。そうか、恋人じゃ無い人とデートしているから、ほんとのデートじゃ無いという認識なのだろう。


「俺はデートとして楽しかったぞ」


「そっか。私もそうかも」


 前田さんと俺はアイスを食べ終わった。


「さてと。中里君、それじゃ最後に、今日デートに誘った理由を聞かせてもらえる?」


 ついにこのときが来たか。


「わかった。でも、ここではちょっとアレだな」


「アレって?」


 要はムードが出ないということだ。


「アレだから移動しよう。すぐ近くだ」


「え? うん、いいよ」


 俺たちは城彩苑を出た。俺が目を付けたのはすぐそばの坪井川の脇にある公園的な場所だ。ここは昔の庭園の跡のようで、いくつかベンチがある。ここに座って告白しようと考えた。人通りは無いわけではないが、少ないところだ。木々も有り、雰囲気もいい。


「前田さん、ここ座ろうか」


「う、うん」


 俺たちはベンチに座った。

 よし、いよいよだ。

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