第58話 天使と博物館
俺と前田さんは博物館についた。早速、入館チケットを買う。
「ここは俺に払わせてくれ」
「え? 悪いよ。私が勝手にここって決めたんだし」
「いや、元々デートに誘ったのは俺だから」
「うーん、じゃあ入館料は私が払うから、プラネタリウムの料金は中里君が払うってのはどう?」
なるほど。入館料は1人三百円、プラネタリウムは映画の上映もあるようだからおそらく最低でも千円ぐらいしそうだ。なら、俺がプラネタリウムの方を払うがいいか。
「よし、わかった。そうしよう」
「うん」
前田さんは慣れた手つきで券売機からチケットを2枚購入した。俺はチケットをもらい、中に入る。すると、入ってすぐ右にプラネタリウムの入り口があった。チケットの券売機もある。
「じゃあ、俺がプラネタリウムのチケット買うから。えーと……ん? 1人百五十円!?」
安い。安すぎる。
「あー、高校生だから五十円高くなっちゃったか」
「前田さん、安いって知ってたな」
「うん」
「はぁ。熊本城の料金は俺が払うからな」
「それも私が――」
「いいから。わかったな」
思わず声が低くなってしまう。
「う、うん。わかった」
しまった。なんか脅した感じになってしまった。何をやってるんだ俺は……。
「そ、その……上映時間には少しあるけど、もう入るか?」
「そうだね」
俺たちはプラネタリウムに入場した。館内は三分の一ぐらい埋まっているか。
前田さんは席は決まっているとばかりに後ろの方に行った。
「2人分空いてるからここにしよう」
前田さんが決めた席に着いた。
周りを見るとかなり座席を倒している人が居る。
「あんなに倒していいのか?」
「うん。プラネタリウムはああやって寝た感じで見るんだよ」
「そうなのか、知らなかった。どうやって、これ、席を倒すんだ?」
「あ、こうだよ」
前田さんが教えてくれた。俺たちは2人ほぼ寝た状態で天井を見上げた。
「なるほどな。天井に映像が映るのか」
「うん、そうだよ」
「だとすると……」
話しながら前田さんの方を向くと、前田さんも俺の方を向いている。うっ、寝ながら向かい合うのってこんなに恥ずかしかったっけ。
「あ、あの-、なんだ。何言いたかったかな。ははは」
「中里君、なんか照れるね」
「お、おう。そうだな」
前田さんも恥ずかしがったようだ。少しは俺を意識してくれたかな。
そうこうしていると、館内が暗闇に包まれ、プラネタリウムの上映が始まった。まずは熊本市から見える星座を説明してくれる。星座を意識して夜空を見上げたことはあまり無かったが、こう見るといろいろな星座があって面白い。俺は夢中になっていった。
そして、前田さんが言っていた超ひも理論の映画が始まる。ドラマ仕立てで宇宙とは何か? といった話が始まった。面白いけど……結構難しい。俺は次第について行けなくなってきた。
その難しさと、そして、涼しい暗闇と言うこともあって、次第に眠くなってくる。昨日、興奮してあまり眠れなかったのもいけなかった。俺は途中で意識が飛んでしまった。
ふと気がつくと、もうエンディングのようだ。まずい。内容がさっぱり分からない。結局、そのまま上映が終わり、館内に明かりがともった。
「中里君、面白かったね!」
「う、うん、そうだな。なんかすごかった」
「へぇー、どういうところが?」
「え、えっと、あの、あれだよ。あれ――」
「ふふ、中里君、途中寝てたでしょ」
「え!? 寝、寝てないから」
まずい。前田さんが楽しみにしていた映画の途中で寝ていたなんて、バレるわけにはいかない。
「別にいいよ、寝てても。そういう人結構多いから」
「え、そうなのか?」
「うん。プラネタリウムで寝るイベントとかもあるぐらいだし」
そうだったのか。寝るには最適な施設だと思ったが間違いでは無かった。
「でも、ごめん。俺にはちょっと難しくて……」
「うん、結構難しかったよね。でも、面白かった!」
「そ、そうか」
「私もそこまでこの分野に詳しいわけじゃないから勉強になるかなって思って」
さすが、前田さん。今日のデートも勉強になるかを基準に考えてたのか。
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