第54話 朋美の狙い

 佐々木朋美の狙いは期末テスト前の勉強会だった。


「いや、俺は朋美の勉強を見る義理は無い」


「ひどーい。せっかく重い荷物を持ってきたのに」


 朋美は泣き真似をする。


「あ、もう時間だ。お兄、とにかく朋美さんをよろしくね。じゃあ」


 茜が席を立つ。……ん? よく考えたらおかしいぞ。


「おい、茜」


「何?」


「なんで2枚なんだ?」


 朋美はムビチケを2枚渡していた。


「え? 友達と映画見るからだけど?」


「友達って……まさか男じゃないだろうな?」


「なになに? お兄、気になるの?」


「そりゃ、お前が変な男に騙されていないか確認しないといけないからな」


「……シスコン」


 朋美がぼそっと言った。俺が朋美をにらむと朋美は目を背けた。


「私は大丈夫だから。じゃあね!」


 茜は去って行った。


「あいつ、男じゃ無いって言わなかったよな」


「気になる? 聞いておこうか?」


「……別にいい。映画館から出てくるところを張り込む」


「はあ? 勉強教えてよ」


「だめだ。今は俺は大事な時期なんだ。お前に付き合ってられない」


 俺は立ち上がり店を出た。


◇◇◇


 茜を待つ間の暇つぶしに俺は6階の書店に来た。


「蒼、待ってよ」


 そこに朋美が追いかけて来る。

 無視していると朋美がすぐ横にピタっと近づいて来た。


「お前なあ、もうちょっと離れろ」


「いいでしょ、元カノなんだから」


「いや、ダメだろ」


 俺は朋美を無理矢理離そうとしたときだった。


「あれ? 中里君?」


「ん? え、前田さん?」


 そこに居たのは前田紗栄子だった。

 なぜか、ぶかぶかのとても子どもっぽい服を着ている。


「ど、どうして、ここに……」


「どうしてって、本を買いに来たんだよ」


「久しぶりね、前田さん。私たちこれから勉強会するの」


 朋美が俺の腕にしがみつきながら言う。


 まずい。俺が1位になったら前田さんとデートして欲しいって頼んでいるのに、朋美とこんなところを見られたら……


「違う、しないから。おい、離れろ」


「中里君、やっぱり……」


「いや、違うから。『ざまぁ』からの『復縁』じゃない」


「ん? ざまぁ?」


 朋美が俺を見る。

 俺はそれを無視して、前田さんに言う。


「とにかく、復縁は無い。これはまた茜の策略で……」


「そっか。中里君は葛藤の末に有紀を選んだんだ」


「いや、葛藤の末って。それに有紀って言っちゃってるし。それも違うからな」


「うん、うん。分かってる。でも、だったら、こんなことしてていいの? さすがの有紀も怒るよ」


「だから、小島じゃ無いって」


「気を付けないと……。あ、親が来たから、じゃあね」


 前田さんは去って行った。親と一緒だったのか。


 俺はぐったりと疲れ、書店のカフェコーナーに腰を下ろした。

 そこに朋美が来た。


「蒼、やっぱり私とやり直さない?」


「なんでだよ」


「だって、蒼が好きなのって前田紗栄子でしょ」


「な! そんなこと……」


「もう隠さなくていいから。でも、あっちは全然蒼のこと見てないよ」


「……まあな。それぐらい分かってるよ」


「脈無いんだから。帰っておいでって」


「なんでだよ。あるから。脈はある」


「無い無い」


「俺が学年1位になったらデートする約束をしているんだ。そして、そこで……告白する」


「ふーん、じゃあ、それまで私待ってるね」


「……なんで玉砕前提なんだよ」


「あー、楽しみ。早く蒼がフラれないかな」


「お前、やっぱり性格悪いな」


「だって、絶対成功しないもん。それに学年1位も無理なんじゃない?」


 そうだった。告白以前に学年1位にならないといけないんだった。


「ちょっと勉強するから教科書貸せ」


「え? 私のだよ!」


 俺は朋美の教科書を奪い、茜が帰ってくるまで勉強した。

 もちろん、朋美には勉強は教えてやらなかった。


 なお、茜は女友達と映画館から出てきた。

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