第53話 休日の茜
テスト勉強期間の土曜。俺は今日と明日を丸一日勉強に当てる。なんとしてでも前田紗栄子に勝って学年1位になり、2人でデートをして告白する。それだけしか頭に無かった。
そんな土曜の夜に妹の茜が俺の部屋に来た。
「お兄、明日、暇?」
「暇なんか俺に無い。明日も勉強だ」
「ああ、暇ってことね。じゃあ、明日、報酬使うから」
「は? 報酬?」
「うん。美味しいランチ。約束したでしょ?」
あれか。俺は思い出した。映画をみんなで見に行った後、茜は俺に前田さんの行動理由を説明した。そのときに報酬として約束したのが「美味しいランチ」だった。
「明日かよ。後でいいだろ」
「ダメ。明日」
「まったく……。で、どこに行くんだ?」
「駅ビルのパンケーキ。せっかく上熊本駅の近くに住んでるんだから。JRなら一駅でしょ」
熊本駅の駅ビルか。確かに家からなら早いな。
「……わかったよ」
「やった! あ、私が誰かを誘うってのも覚えてるよね」
そういえば、そういう厄介な約束もあったな。
「で、誰だよ?」
「明日まで内緒」
内緒かよ。茜のことだ。おそらく、佐々木朋美の可能性が高いと思う。だが、わざわざ内緒にするということは前田さんの可能性もあるな。そうなると、仲を深めるチャンスだ。この間の映画では茜はその方向で動いてくれたし。……まさか、小島を呼んでいるという可能性もあるかもしれないが、それなら内緒にする必要性は低いか。
◇◇◇
翌日、午前。俺と茜はJRで熊本駅に向かい、駅ビルに到着した。ここの2階にパンケーキ屋がある。パンケーキ屋といっても、普通にハンバーグなどのランチメニューもあるから俺にはありがたい。その前で、茜が呼んだ誰かを待つ。いったい、誰が来るのか……。
「お待たせ、茜ちゃん」
「お久しぶりです! 朋美さん」
……結局、朋美かよ。やっぱり、茜は朋美派か。
朋美はギャル制服風ファッションで、これから食事だからさすがに棒付きキャンディーはくわえていなかった。そして、よく分からないぬいぐるみを多数付けた大きめのトートバッグを持ってきている。
「じゃ、入りましょう!」
俺と茜、それに朋美で入店する。茜と朋美はパンケーキランチ。俺はハンバーガーを注文した。
「茜、なんで朋美を呼んだんだ?」
一応聞いてみる。
「夏休みにネイルやってみたいなあって朋美さんに相談したらネイルサロン紹介してくれるって」
「は?」
ネイルサロンと俺が引き替えか。
それにしても、朋美の狙いはなんだ。
食事中も朋美は俺とは特に話そうとせず、茜とばかりファッションの話で盛り上がっていた。
そして食事が終わり、コーヒーも飲みきった。
「さて、帰るか」
これで帰れれば何の問題も無いが……
「じゃ、茜ちゃん、これ……」
朋美が茜になにやらカードを2枚差し出す。ん? ムビチケだな。映画を見るやつだ。
「わーい、ありがとう」
茜がそれを受け取る。どういうことだ?
「お兄、じゃあ私、映画見てくるから待っててね」
「は?」
「だから今から映画」
そう言って、ムビチケ2枚を見せる。
「今から行くのか?」
「うん。ここの7階にあるでしょ、映画館。だから終わるまで朋美さんと待ってて」
そういうことか、こいつ!
「待つと言ってもなあ」
俺は朋美と一緒になど居たくは無い。
「蒼、実はまたお願いしたくて……」
朋美が持ってきたバッグの中身を俺に見せた。そこには教科書やノートが入っている。これは、教えろってことだよな。期末テスト前にまた来たか。
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