第49話 朋美と先輩

 翌日、俺は今日も朝早く登校していた。すると、校門前でなにやらもみ合う男女が居る。制服の少女と私服の男性だ。

 朝からお盛んだな。俺は通り過ぎようとしたが、よく見ると制服の少女は棒付きキャンディーを持っている。あれは朋美だ。それに男性は、元カレの山口先輩だ。別れたはずだが、何をもめてるんだ。


「離して!」


「どうしてだよ、お前は俺の彼女だろ」


「もう違うから。離して!」


 あらら、山口先輩の浮気で別れたと朋美は言っていたが、先輩はまだ朋美にご執心のようだ。朋美はもう先輩とよりを戻すつもりは無いのだろう。


 だが、俺にはどうでもいいことだ。そのまま、横を通り過ぎる。


「ちょっと、蒼。助けてよ!」


 朋美が叫ぶ。全く、朝からうるせーな。仕方なく俺は立ち止まった。


「中里君か」


 先輩は俺を覚えていたようだ。


「先輩、お久しぶりです。相変わらず仲がいいようですね」


「どう見ても違うでしょ!」


 朋美が言う。


「ちょっと、喧嘩しててな。君も知ってるだろうけど、こいつ強情だから」


 先輩は朋美の手をつかんで離そうとしない。


「先輩、無理矢理は良くないんじゃないですか?」


 俺は手は出さずに言った。


「無理矢理じゃないさ」


「無理矢理よ! 蒼、助けて!」


 朋美が俺に訴えてくる。うーん、演技では無さそうだが、どうするか。俺は2人の関係に立ち入るつもりは無かったが、見捨てるのも寝覚めが悪くなりそうだ。


「別にいいですけど、学校の前はまずいんじゃないですかね。そのうち人も増えますよ」


「……くそっ」


 先輩は手を離して去って行った。


「蒼、ありがとう」


 朋美が俺に抱きつこうとしてくる。


「やめろ、俺は何もしていない」


 朋美の手を払いのけて俺は言った。


「ううん、蒼がいなかったら、私……」


「お前、俺より先輩の方が好きになったって言ってただろ」


「……もう、意地悪」


 俺はそのまま朋美を置いて校舎に入った。



◇◇◇



 昼休み、ハカセが俺に聞いてきた。


「お前、佐々木さんを先輩から助けたって本当か?」


「はあ? 何で知ってるんだ」


「噂になってるぞ」


 ……また朋美が言いふらしているのか。全く、懲りないやつだ。


 と、そこに前田さんと小島がやってきた。


「中里君、聞きたいことがあるんだけど……」


 前田さんが言う。なんだろう。


「元カノさん、助けたの?」


 前田さんの瞳がまた輝いている。はぁ。またか。


「ちょっと出くわしただけだ」


「でも、助けたんでしょ?」


「まあな」


「それって……」


「『ざまぁ』からの『復縁』じゃないから」


 俺は先手を打った。


「えー、違うの?」


「当たり前だ。俺は……他に好きな人が居るからな」


「あ、そうか……」


 しまった。前田さんは俺が小島を好きと思っているんだった。

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