第48話 天使の誤解

 結局、打開策は何も見つからないまま、俺は翌日普通に登校した。

 前田さんと小島はもう来ていた。


「あ、中里。おはよう」


「おう! 前田さんもおはよう」


「おはよう、中里君」


「あのな、前田さん……」


 俺は前田さんの席に近づく。俺が小島を好きだという誤解を解きたい。まずは昨日の茜の推測が正しいのか確証を得たいが、そのためには何を言ったらいいか……

 何も考えがまとまらないまま、前田さんの席の前に来てしまった。


「ん? 何?」


「えーと……俺に好きな人が居ると思う?」


「え!?」


 しまった。いきなりストレートに言ってしまった。


「……中里、朝から何言ってるの?」


 小島が俺をにらむ。


「い、いやあ、もしかして何か誤解されてるかなと思って」


 慌てて言い訳すると、前田さんが自信ありげに言った。


「あー、私は分かってるから大丈夫だよ」


 ……絶対分かってないな、これ。どうやら茜の推測は正しそうだ。


「有紀、私ちょっとトイレに行ってくるから中里君とお話ししてて」


 前田さんは教室を出て行ってしまった。


「はぁ」


 思わずため息が出る。きっと、気を利かせたつもりなんだろう。


「あんたねえ、やり方が下手すぎるのよ」


 小島が俺を責める。


「仕方ねーだろ。うまいやり方が何も思いつかないんだから」


「遠回しじゃ無理だろうし、やっぱり告白しかないね」


 小島がにやりとする。


「お前、面白がってないか?」


「うん、面白いもん」


「全く……。せめて、少しは助けてくれよ」


「うーん、考えとく」


「はぁ」


 俺はうなだれて自分の席に戻った。



◇◇◇



 その日の放課後。今日も俺は前田さんと食堂に行く。前田さんの隣にいつものように座った。


 だが、いつもと違うのは三枝さえぐさが来ないことだ。そういえば今日は三枝を見ていない気がする。風邪でも引いたか。


 今日、前田さんの隣の席に座っているのは桐生雅史きりゅうまさし。中間テスト前に俺に質問してきたやつだ。真面目だが、前田さん狙いのやつには違いない。そういえば、こいつは三枝と同じ組だったな。聞いてみるか。


「桐生、今日は三枝は休みなのか?」


「いや、来てたよ」


「そうか。ここに来ないのは珍しいな」


「あぁ。あいつ、彼女が出来たって騒いでたから」


「は?」


 三枝め、前田さんをあきらめて別の女に乗り換えたか。

 しかし、あんなやつに彼女が出来るとは。


「なんか、告白されたって言ってたよ」


 うらやましいやつ。


「相手はどんなやつだ?」


「知らないけどギャルらしい」


 あいつもギャル好きか。同じ趣味なんて嫌だな。いや、俺はもうギャル好きじゃ無くなったんだった。


「へぇ-。じゃあ、三枝くんはデートで忙しいのかな」


 前田さんが言う。

 あいつはもともと勉強のためにここに来てないからな。もう、ここに来ることも無いだろう。


 しかし、ギャルから告白か……。何か引っかかるな。


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