第47話 誤解の解き方

 茜の謎解きに俺は納得せざるをえなかった。


「しかしなー、なんで前田さんは俺が小島を好きだって思ってるんだ?」


「それは知らないよ。なんか誤解させるようなこと、やっちゃったんじゃないの?」


 うーん、何かやっただろうか。少し考えてみたが、何も思いあたることはなかった。


「もしかしたら、お兄が紗栄子さんのことをいろいろ助けている理由が分からなかったからかもね」


「助けている理由?」


「つまり、お兄は紗栄子さんが好きだから助けてるんでしょ?」


「そうだな」


 最初はそうじゃなかったが、今はそうだと自分でもわかっている。


「でも、紗栄子さんはそれを知らないから、有紀さんが好きで助けているって思ったんじゃない?」


 なるほど。確かに俺への依頼は全て小島から頼まれたものだ。前田さんから直接頼まれたものではない。小島が好きだから小島の言うことを聞いている、と思っているのかもしれないな。


「うーん、じゃあ、どうしたらいいんだ」


「それも知らないよ。お兄が頑張って誤解を解くしかないんじゃない? ただ……」


「ただ?」


「紗栄子さんはお兄のことを恋愛対象として見てないことは間違いないね」


「うぐっ……」


 分かっていたがつらい現実だ。


「紗栄子さん、頭はいいんだろうけど、恋愛関係には相当鈍いみたいね」


「まあな。恋愛経験は無いらしい。自分では小説読んで勉強しているから分かってるって言ってるけどな」


「それって、絶対分かってない人のセリフじゃん」


「確かに……」


「紗栄子さんに分かってもらうには、もうはっきり告白するしかないかもね」


 そうかもしれない。だが、今、告白したら間違いなく撃沈だ。もう少し仲良くなって、異性として意識してもらった上で、告白しなければうまくいくはずがない。


◇◇◇


 その夜、俺は自分の部屋でどうやってこの誤解を解いたらいいかを考えてみた。

 しかし、なかなかいい方法が無い。


 いきなり「俺は小島のことは好きじゃ無いよ」と前田さんに言うのも変だ。仮に言えたとしても本心を隠していると思われるだろう。


 そうだ、前田さんが信頼する小島から伝えてもらうのがいいんじゃないだろうか。

 そう思った俺は小島に電話した。


「中里、今日はお疲れ」


「おう。小島。実は相談がある」


「相談?」


「うん。前田さんのことだ。前田さんは俺がお前を好きだと思ってるかもしれない」


「は? どういうこと?」


 俺は茜の推理を話した。


「なるほどねえ。そういうことがあったんだ」


「どう思う?」


「たぶん、茜ちゃんの推理は正しいね。紗栄子は勘違いしちゃうことが時々あるから」


「そうなのか」


「うん。自分では恋愛に詳しいって思ってるみたいだし」


「小説で読んでるからか?」


「うん、いつも自分は小説で恋愛を勉強してるから分かってるって言ってる」


 思わず笑ってしまった。


「なんか、かわいいな」


「でも、どうすんのよ、この勘違い。困るのはあんたでしょ?」


「それを相談しようと思ったんだよ。小島から誤解を解いてもらえないか」


「うーん、わたしが『中里は私のこと好きじゃないよ』って言って、紗栄子が信じる?」


「……信じるわけ無いか」


「そうよ。あんたの気持ちはあんたが伝えるしかない」


 確かにそうだ。俺が前田さんに「好きなのは小島じゃなくて君だ」と言えば解決する。


「そりゃそうだけど、できないだろ」


「なんでよ」


「今、告白したら間違いなくフラれる」


「まあ、そうね。じゃあ、告白できるようになるまで仕方ないわね」


 ……そんな日が来るのだろうか。


「とりあえず、まだ全然仲良くなれてないし、仲を深めるしかないな」


「そういうこと。まあ頑張って」


「応援してくれよ。お前も誤解されてるんだぞ」


「中里が私を好きって誤解でしょ? 私は中里が好きじゃないって紗栄子も分かってると思うから別にいいよ」


 はぁ。味方は居ないか。自分で頑張るしかないな。

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