第46話 茜の謎解き

 俺たちはガーデンカフェで映画の感想を話し合ったあと、解散し家路についた。


 家に帰ると早速、茜に聞く。


「茜、お前分かったんだろ? 前田さんがなぜ俺に冷たくしていたか」


「うん。間違いないね」


「よし、教えろ」


「……で、報酬は?」


「はあ?」


 くそっ。タダでは教えられないってか。


「そんなのねーよ」


「じゃあ、教えない。自分で考えてね」


 茜は自分の部屋に行こうとする。


「――分かった! 分かったよ。何が望みだ」


「美味しいランチ一回でどう?」


「……仕方ねーな」


「ただし、私が誰かを誘うのでその人も一緒にね」


「誰かって誰だよ」


「うーん、まだ決めてない」


 こいつ、朋美を誘う気じゃねーだろうな。いや、前田さんでも困るな。こいつがいらんこと言いそうだ。


「別に誘わなくてもいいだろ」


「じゃあ、この話は無かったことに――」


「分かったよ! それでいい。だから早く教えろ」


「うん! じゃあ、教えるね」


 全く、もったいぶりやがって。こいつ、本当に分かっているんだろうな。


「まず結論から。紗栄子さんは、お兄が……」


「俺が?」


「……有紀さんを好きだと思ってます!」


「はあ?」


 何言ってるんだ、こいつは。突拍子も無いこと言いやがって。


「いや、それは無いだろ」


「間違いないって」


「なんでだよ。証拠は?」


「じゃあ、まず今日の出会いから。紗栄子さんに妙なこと言われなかった?」


「妙なこと?」


 確か今日は前田さんの着替えに時間がかかったから遅れたんだったよな。前田さんの服は相変わらず可愛かった。で、何かあったっけ。あ、小島の服だ。


「小島の服について何か言わなくていいのか、って言ってたな」


「そう、それ。紗栄子さんは、お兄が有紀さんを好きだと思ってるから、服を褒めろって言ってきたわけ」


「そうなのか?」


 それだけでは信じられない。


「じゃあ、その後。お兄が紗栄子さんの服を褒めたらなんて言ってた?」


「『私には気を遣わなくていい』とか言ってたな」


「でしょ。要するに有紀さんに気を遣えってこと」


 うーん。そうなんだろうか。


「じゃあ、次。映画館の中では?」


「前田さんは俺と席を替わった……」


「そう。それはお兄が有紀さんと話しやすくするため」


「でも、俺は小島に話しかけてないぞ」


「うん。紗栄子さんに話しかけようとしたでしょ。その結果――」


「避けられた」


「そう、せっかく席を替わったのに有紀さんと話そうとしないから突き放した、ってこと」


 そうだったんだろうか。だとすると、チャンスを与えたのになかなか好きな人に話しかけることができないヘタレ野郎だと思われていたのかも。実際には好きな人にガンガン話しかけていたのに。


「そして、ガーデンカフェ。まず席取り」


「小島が最初に座って、その横にハカセと健司が座ったよな――」


「そう、そこ。いつもなら有紀さんの横に紗栄子さんが座るでしょ?」


「でも、なかなか座らなかったんだ」


「うん。で、その横に2人が座ったら紗栄子さんはため息をついた」


「確かに。俺を見てため息をついていたな」


「その後の紗栄子さんの言葉で私はわかったんだ――」


「あー、確か『せっかくチャンスあげたのに……』とか言ってたな。そうか、チャンスって……」


「有紀さんの隣に座れること」


 なるほど。こうやって考えると全てつじつまが合うような気がする。


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