第45話 みんなでカフェ

 映画が終わり、俺たちは劇場の外に出た。茜が横に来る。


「ねえ、お兄。紗栄子さんに避けられてなかった?」


「うぐっ……」


 確かにそうだよなあ。俺と席を替わった後は前田さんは茜にばかり話しかけて、俺とはあまり話してくれなかった。


「なんで避けられてるの?」


「知らん。俺の方が聞きたいよ」


「嫌われるようなことしたんじゃないの?」


「うるせー。何もしてない……と思う」


 それとも俺が知らないうちに前田さんに嫌われるようなことをしたのか。

 正直、映画の内容はそっちのけでずっと考えていたが、何も思い当たることは無かった。


「これからどうする?」


 小島がみんなに聞く。


「やっぱり、みんなの映画の感想、聞きたいな」


 ハカセが言った。


「じゃあ、屋上のガーデンカフェ行きたい!」


 茜が手を挙げた。また、ガーデンカフェかよ。こいつ、ほんと好きだな。


「よし、じゃあ行こっか。みんなはどうする?」


 結局全員で屋上に向かった。



◇◇◇



 今日は日差しが強いので屋根がある席の大きなテーブルに座ることになった。


 「ここにしよう!」


 小島が言う。3人ずつ向かい合う6人がけのテーブルがちょうど空いていた。

 早速、小島が3人がけの中央に座った。普通だったら前田さんがその隣に座るはずだが、なぜか前田さんはなかなか座ろうとしない。そのうち、小島の両隣にハカセと健司が座った。


「はぁ」


 前田さんが俺を見てため息をついた。え? 俺、何かやっちゃった?

 前田さんが小島の向かいに座る。俺と茜はその両隣に座った。


「せっかくチャンスあげたのに……」


「え?」


 前田さんの言うチャンスとは何だろう。よくわからない。


 それから、みんなで注文を決めた。大盛りポテトにピザ。後は飲み物だ。俺はみんなの注文をカウンターに伝えに行く。そこに茜がやって来た。


「お兄、たぶん分かったから後で教えてあげる」


「え? 何の話だ」


「紗栄子さんに冷たくされている原因だよ」


「お前、分かったのか? 俺が何かやらかしているなら今教えろ」


「やらかしてはないと思う。後で教えるから今日はこのままでいいよ」


「そうか、わかった」


 茜は何かに気がついたらしい。



 注文をしてテーブルに戻るとみんなは映画の感想で盛り上がっていた。疑問点があるところを前田さんに聞いている。


「あの何回も出てきた 95 というのは何なの?」


「あれは1995年を指していて……」


 前田さんの解説にみんなが聞き入っている。おれは映画をよく見ていなかったので全く話についていけなかった。


「……だから『銀河鉄道の夜』がモチーフになってるんだよ」


「さすが、紗栄子ね。そこまでは分からなかったわ」


 どうやら前田さんの解説は的確だったようだ。さすがだ。


「ほんと、前田さんはすごいよ。なあ、蒼」


 健司が俺に話を振ってくる。あいつ、サポートのつもりか。


「え、あ、ああ。そうだな。俺も前田さんと全く同意見だぞ。銀河鉄道……松本零士だっけ?」


「中里……ほんとに分かってる?」


 小島が聞いてくる。


「なんだよ。分かってるよ。たぶんな」


 俺はごまかした。


「お兄は映画どころじゃなかったんで頭に入ってなかったんですよ」


 茜が口を出してきた。


「え? どういうこと?」


 小島が聞く。


「紗栄子さんに嫌われたかもーって泣きそうでしたし」


「「「え!?」」」


 茜の言葉にみんなが驚く。あのバカ。余計なこと言いやがって……。


「私が? 中里君を? そんなことないよ。どうして?」


 前田さんが俺を見て言った。


「え? そうなの?」


「うん。全然嫌ったりしてないけど」


「じゃあ、俺の気のせいか」


「そうだよ」


 前田さんの顔を見るが嘘をついているようには見えない。あれ? じゃあ、あの行動はいったい……


 でも、それなら良かった。よくわからないが嫌われてはいなかったか。

 俺はそこからは上機嫌になってみんなと話し出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る